第43話 せいじょは かなさいぼうを そうびした

 一悶着はあったが、俺たちは無事ドワーフから武器を買うことを許された。


 メーリンの案内で向かったのは、城内にある武器屋だ。


「ここがチンさんの武器屋ネ」


 メーリンが紹介する。

 思わず「おお」と声を上げた。

 感心したのではない。

 純粋に驚いたのだ。


 武器屋といえば、武骨な佇まいを想像する。

 ゲームによっては、蜜柑箱サイズの木箱をカウンターにして、青空の下で売っている強者もいるが、それはそれで渋いと俺は思う。

 中に入れば、所狭しと武器が並んでいるのが、俺の勝手なイメージだ。


 だが、今俺の目の前にある武器屋は、そんなイメージとはかけ離れていた。


 どういう理屈で動いているかわからない電飾風のネオン。

 「武」「器」「屋」とデカデカと書かれた大きな看板も光っている。

 その光もやたらと淫靡で、赤、ピンク、紫などの刺激的な色が点滅していた。


 まるでいかがわしい店のようだ……。


 ふと周りを見ると、そんな店ばかりが並んでいる。

 城塞内にある繁華街といったところなのだろう。

 狭い通りに、ドワーフが溢れ返っていた。


「大魔王様、入らないアルか?」


 メーリンの声で我に返った俺は、武器屋の中に入る。

 ドワーフのサイズに合わせているのか、少し狭い。

 天井がすれすれだ。

 それでも並んでいる武器は、人間サイズに近かった。


 大昔、ドワーフの顧客は主に人間だった。

 その名残が残っていて、ドワーフの武器も人間サイズに合わせているらしく、そのための剣技も生まれたという。

 なかなか勉強になるなあ。


 中は油と鉄の臭いがする。

 昔、研修で行った下請けの工場を思い出した。


「アレー。誰かと思ったら、メーリンちゃんアルか」

「チンさん、ご無沙汰ぶりネ」


 店の奥からやって来たのは、毛むくじゃらの髭を揺らしたドワーフだった。

 目はギロリと大きく、特徴的なとんがり耳。

 身体は小さいけど胸板は大きく、肩の周りの筋肉が隆起していた。


 俺が想像する典型的なドワーフ。

 でも、差別するわけじゃないけど、似非中国人みたいなしゃべり方のおかげで、色々と台無しになっていた。


「メーリンちゃん、何用ネ。もしかして新しいお客さん見つけタ?」


 メーリンはドワーフ族の中でも、外商を担当しているらしい。

 つまり外の世界に出て、新規顧客を獲得してくる役目を負っている。

 実は、魔族にも顔が利くそうだ。


 ドワーフにも族長はいるようだが、今回大魔王の俺の相手はそのままメーリンということになった。


「まあ、そんなとこアル。チンさん、こちら大魔王様」

「アイヤー。大魔王アルか? そりゃ大物連れてきたアルな」

「むふふふ……。チンさん、ただの大物じゃないヨ。こいつ、大きな金をぶら下げているアルよ」

「ほっほおおお! それは助かるアル。最近、武器売れないアル。たっぷり絞り尽くさせてもらうアルよ」


「「くっくっくっくっく……」」


 最後に2人して怪しい笑みを浮かべる。

 歪んだ瞳で、俺を見つめていた


 おいおい。

 いくら俺が無限に金を生み出せるといっても、安請け合いをするつもりはないぞ。

 てか、客の前で堂々と絞り尽くすとかいうなよ。

 あと、表現が微妙に卑猥!


「武器がいっぱいですね」

「目移りします!」

「片っ端から試していけばいいみゃ」


 早速、ルナたちは店の中を見て回る。

 それを見て、チンさんは首を傾げた。


「ん? 武器が必要なのは大魔王様じゃないアルか?」

「いや、俺は――――」

「そうよ、チンさん。あの娘たち、ああ見えてオーガみたいに強いネ」

「聞こえているみゃ、メーリン」


 ミャアがピンと耳を立てる。

 そのミャアが足を止める。


「これいいみゃ!!」


 見つけたのは、指の第二関節から二の腕まで覆うナックルガードだった。

 鋼鉄製で保護はもちろん、衝撃にも強そうだ。

 これならミャアの拳も守れるはずである。


 ミャアは早速装備してみる。

 その様子を見ながら、チンさんは笑った。


「はっはっはっ……。お嬢ちゃんにはちょっと重いね。今、革製のナックルガード……」



 ヒュッ!!



 一陣の風が武器屋内を通りぬける。

 ふわりと揺らしたのは、チンさんの口ひげだ。

 鋭い空圧は、その髭を何本か切り飛ばす。


 ミャアは軽くステップを振りながら、シャドーを始めた。

 軽やかな足音が響く。

 その度に、空気が揺れた。


「すごいアル……」


 まるで洗練された舞踏でも見るかのように、チンさんは拍手を送った。


「ミャア、どんな感じ?」

「悪くないみゃ」

「よし。ミャア、それで決定だね。ステノはどうする?」

「私はブラムゴンの屋敷で接収したナイフが使い慣れているので、これでいいです。――あ、でも懐に隠しておけるような小さな武器があれば、教えて下さい」


 ステノの攻撃方法は、相手の急所を狙うところまで踏み込んでの一撃必殺。

 確かに懐に隠せる武器は有用だ。

 さすがよく考えている。

 思考が完全に暗殺者だけどね。


『キィ!!』


 と鳴いたのは、チッタだ。

 俺の周りをクルクルと回っている。

 どうやらチッタも武器をねだっているらしい。


「わかったよ。チッタでも装備できる武器か防具を探してあげる」

『キィ!!』


 嬉しそうに鳴く。

 さて次は――。


「ルナは、ど――――――」


 振り返った瞬間、俺は固まった。

 ルナがすでにあるヽヽ武器を持って立っていたからだ。

 成人男性の太股よりもさらに太い鉄の棍棒。

 そこに付いた無数の棘。

 所謂、金砕棒という武器だ。

 地獄の鬼が持っているアレである。


 中身が空洞でない限り、相当な重量だろう。

 なのに、ルナは軽々と片手で掲げている。

 俺の方を向くと、首を傾げた。


「どうしました、大魔王様?」

「いいいいいいや、何でもない。さすがだなって思っただけさ」

「???」


 言えない。

 金砕棒を持っているルナが、とても似合っていたなんて。

 何というか、もうこれは運命の出会いではないだろうか。


「ル、ルナ……。気に入ったのなら、それを買ってあげるよ」

「え? いいんですか?」

「もちろん」


 俺は笑顔で答えると、ルナは嬉しそうに金砕棒を抱きしめた。


「大事にしますね」


 金砕棒を抱きしめながら笑うルナの姿は、なかなかにシュールだ。


「早速試してみたいみゃ! なんか殴るものはないかみゃ? 例えば、大砲とか……」

「何言ってるアルか、ミャア。また大魔王様に払ってもらうアルか?」

「冗談みゃ。お前のところの大砲を全部潰しても、ミャアが強くなったとは言えないみゃ」

「アイヤー。獣人は相変わらず頭が悪いアルね。残念アルけど、うちに付ける薬はないアルよ」


 うぬぬぬぬぬぬ……。


 両者は顔を突き合わせ睨む。

 こらこら……。

 喧嘩はやめなさい。

 本当にミャアとメーリンは犬猿の仲だな。

 普通、ドワーフってエルフと敵対しているものだろうに。


「毎度ありネ。力比べしたいなら、良いところがあるよ」


 メーリンに立て替えてもらった金貨を数え終えると、チンさんはある場所に案内してくれた。




 チンさんが案内してくれた場所は、ちょうど城の真ん中に位置する場所だった。

 そこには大きな像が建っている。

 青銅でもなければ、金でも銀でもない。

 神秘的な光を放ち、それは宝石のようにも見えるけど、脆く儚いイメージはなく、鉄の塊のような重厚さを感じる。


 これが魔法鉱石ミスリルだ。

 魔族たちが武器として扱っているのを見たことはあるけど、巨大な像に使っているのは初めてみた。


「この像は?」

「ドワーフ族の初代族長アル。ドワーフ族が代々受け継いできたものアルよ」


 メーリンは教えてくれた。


「この像で試し切りするネ」

「え? 像を?」


 ちょっと待って。

 さっきドワーフが受け継いで来たって。

 一族を象徴する像じゃないのか?


「ビックリするのも無理ないネ。でも、昔からこの像で試し切りした武器は、とても強くなるという言い伝えネ」


 ホントだ。

 像のあちこちに、小さな傷が入っている。

 おそらく試し切りの跡なのだろう。


「じゃあ、遠慮なく打ち込んでいいみゃね」

「構わないアルね。精々怪我しないように気を付けるアルよ」

「ふんみゃ。メーリン、見とくといいみゃ! こんな像、ぶっ壊してやるみゃ」


 ミャアは渾身の力を叩き込む。



 ゴォォォォオォォオォオォォオオンンンン……。



 重々しい音を立てる。

 だが、像はビクともしない。

 逆にミャアは「くぅぅぅぅぅぅ!」と悲鳴を上げた。


「いっっっったああああああ!! この像、本当に硬いみゃ!」

「ほら、言わんことないアル。そう簡単にご先祖様の像が、壊せるわけないアルよ」



 ブオンッ!!



 風――いや、もはや暴風だ。

 強烈な風が巻き起こり、周囲のものをまき散らす。

 見ると、ルナが金砕棒を両手で握って、スイングしていた。


 堂に入ったスイングに、俺はおろか皆も絶句する。

 初めてとは思えないほど自然で、仮に日本のプロ野球ならホームラン王が狙えそうな綺麗なスイングだ。


 そのルナが像の前に立つ。


「いきます」


 声を掛け、金砕棒を振りかぶった。

 少し足を上げて、腰を上手く使って捻転する。

 引き絞られた弓のように金砕棒がしなると、次の瞬間――強烈な衝撃が巻き起こった。



 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンンン!!!!



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


聖女おにに金棒ってね。


面白い、ついにこの時が来てしまったのか、と思った方は、

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