第42話 どわーふと こうしょうする

おかげさまで、拙作『ゼロスキルの料理番』が

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応援いただいた方ありがとうございます。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~



「ど、奴隷??」


 俺は反射的に後退った。

 自分の本能が訴えかけている。

 このドワーフに近づいてならぬ、と……。


 しかし俺が1歩下がれば、メーリンは2歩詰め、俺が2歩下がれば、メーリンは3歩詰めてくる。

 気が付けば、目をきらに輝かせたメーリンが、俺の足下に這いつくばっていた。

 はあ、はあ、と荒々しい息づかいが聞こえる。


「はあ……。はあ……。大魔王様、どうか奴隷にして下さいアル。足の裏を舐めますから」

「うわっ!」


 本当にメーリンは俺の足に舌を伸ばしてきた。

 完全に我を忘れている。

 如何にもお金にがめつそうなキャラみたいだけど、どうやらそのためなら自分でもプライドを捨てられるらしい。


 てか、自ら人の足の裏を舐めようとしてくるなんて、変態じゃないか。


「どうして逃げるアルか? 大人しくするアルよ!!」


 ついにメーリンが跳び上がった。

 バッタのように跳躍したドワーフの娘は、一直線に俺に襲いかかってくる。



 ガコンッ!!



 決まった。

 と俺は思わず呟いた。

 飛んできたメーリンの顔に、ルナの右ストレートがめり込む。

 そのままずるりという感じで地面に落ちた。

 失神している。

 完全にカウンターが決まったらしい。


 ルナ……いつの間に、そんなボクシング技術を……。


「ダイチ様に気安く触れないで下さい」


 ルナは撃墜したばかりのメーリンを見下ろす。

 声には殺気が込められ、睥睨する瞳は薄暗かった。


 怖ひ……。


 俺は苦笑するしかなかった。



 ◆◇◆◇◆



 その後、俺たちは客人としてドワーフの城に招かれた。

 中の作りも見事だ。

 華美であんまり装飾がない一方で、動線や籠城戦などを想定した工夫が随所に盛り込まれている。

 武骨ではあれど、機能美という点では美しいと言える。

 有名企業の工場でも見ているかのようだ。


「いたたたた……」


 その城の中にある救護室で、ルナから回復スキルを受けていたのはメーリンだった。


 ルナに叩きのめされたおかげで、正気に戻ったらしい。

 最初に出会った時の理知的な表情に戻ると、片眼鏡に傷が入っていないか、確かめていた。


「やりすぎアル。わたし、これでも女の子ヨ。謝罪するアルヨ」


 メーリンは声を荒らげた。

 だが、ルナの表情は変わらない。

 ドワーフたちの怪我を一瞬にして癒やした聖女だったが、いまだ不機嫌な様子だった。


「ダイチ様を困らせたあなたが悪いんですよ」

「そうみゃ。そうみゃ。メーリンが悪い」

「うん! ルナがやらなかったら、私がやってたヽヽヽヽ


 憤慨していたのは、ルナだけではない。

 ミャアも、ステノも同意する。


「わたし、奴隷になりたい――そう言っただけアル」

「それが唐突すぎるんだよ、メーリンさん。……いきなり奴隷なんて」

「どうしてアル? ミャアも、その2人の女も、大魔王様の性奴隷じゃないアルか?」

「せ、性奴隷!!」


 いやいやいやいや……。

 そんなわけないだろ!

 ていうか、ミャアたちに失礼だ。

 そもそも肉体関係なんてないし!


「性・奴・隷……。魅惑の響きみゃ。ダイチにミャアの……キャー! 恥ずかしいみゃ」

「私が性奴隷……………………。ダイチ様が望むなら(ポッ!)」

「何を言っているんですか、2人とも。そもそも私は――――」


「あ――――はいはい。そこまでそこまで!」


 俺は慌てて止めに入る。

 ミャアもステノも何を言ってるの。

 ルナもカミングアウトしようとしてたし。

 俺には微塵もそんな気持ちはないんだからな。ないんだからな。


 大事な事なので、2回念を押しておくと、気を取り直し俺は言った。


「3人とも暗黒大陸を再生させるために、手伝ってもらってるだけさ」

「ホントアルか? なんか信じられないアル? 女3人と旅して何もないなんて、大魔王様はもしかしてあっちのご趣味を持つアルか。じゃあ、ドワーフでもとっておきの――」

「やめろやめろ! そっちの趣味でもないから」


 ドワーフのとっておきって何だよ!


「それで? 大魔王様が、こんな地下まで何用アルか?」

「実はドワーフに武器を作ってほしいんだ」


 俺はメーリンに事情を話した。


「……ふーん。暗黒大陸の領主にねぇ。大魔王様は欲がないアルね。こんな大陸、鉄貨1枚でも安いアルよ」

「大丈夫。今は鉄貨1枚かもしれないけど、俺が金貨1万枚以上の価値にしてみせるよ」

「…………」

「どうした? メーリン」

「……な、なんでもないアル」


 一瞬、メーリンの顔が赤くなったような気がしたが……。

 気のせいかな?

 まさかまた奴隷にしてくれ、とか言い出すんじゃ。

 ちょっと距離を置いた方がいいかな。


「お金さえ出してくれれば、こっちは何も文句はないアル。協力するアル」

「武器を作ってくれるの?」

「そう聞こえなかったアルか?」


 やった!

 ドワーフたちに約束を取り付けることができたぞ。

 急にメーリンがしおらしくなったことが、ちょっと気にかかるけど、どうやら協力してくれるようだ。


「やりましたね、ダイチ様」

「ああ。これでルナに武器を作って上げられるな」

「ダイチ、ミャアにも! ミャアにも!!」

「もちろん! ステノも作ってもらおう」

「はい。ありがとうございます」


 皆が喜ぶ。

 とりあえず次戦への第1歩だ。

 このままメーリンたちドワーフも、協力して、村に来てくれるとありがたいな。

 いや、この城を根城にするのも悪くないかもしれない。


「ありがとう、メーリン」


 俺はそっとメーリンに手を差し出す。

 だが、メーリンは俺の手を見ることなく、言葉を続けた。


「話はまだ終わってないアル」

「え?」

「実は今、武器を作ろうにも作れないアルよ」

「みゃ! なんでみゃ、メーリン。さてはまた値上げを」

「違うアル。貧乏の獣人はともかく、大魔王様は踏み倒すようなことしないアル。大魔王様とは末永い取引を希望するアル」

「じゃあ……。他に何か事情があって、武器が作れないってこと?」

「その通りアル」


 メーリンはドワーフ用の小さなベッドの上で頷いた。


「実は、ここ最近武器を作る材料が不足してるアル」

「鉄鉱石とか。魔法鉱石ミスリルとか」

「そうアル」

「なんだ、そんなことか」


 俺は一旦救護室を出て、城の中庭に出る。

 落ちていた小石を大岩にし、さらに【言霊ネイムド】を使用する。



 【言霊ネイムド】――――鉄鉱石。



 ずんっと音を立てて現れたのは、巨大な鉄鉱石の塊だ。

 周りで見ていたドワーフからどよめきが起こる。


「これで武器が作れるか?」


 俺は振り返った。


「だ~~い~~ま~~お~~う~~さ~~ま~~!」


 メーリンが飛び込んでくる。

 その目にすでに血走っていた。

 ギュッと俺に抱きつく。

 一瞬のことで、ルナたちも反応できなかった。


「ちょ! メーリン!!」

「はあ……。はあ……。大魔王様! メーリンを、大魔王様の玩具にして下さいアル」


 目に金貨を浮かべて、メーリンはとんでもない事言い出す。


 ぎゃあああああ!!

 奴隷の次は玩具かよ!

 というか、欲望がダダ漏れなんだよ。


「やめろ! メーリン落ち着け!!」

「いやアル。一生離さないアル。こんな金づる、死んでも離すわけにはいかないアル!」


 おい! 言った! 今、言った。

 金づるっていったぞ。



 ゴンッ!!



 再びルナの鉄拳がメーリンの顔面を襲う。

 ようやく俺から離れたメーリンは地面に倒れ込んだ。


「忠告しましたよね。ダイチ様に気安く触れないでくださいって」


 ルナはゴキゴキと拳を鳴らしながら、倒れたメーリンを見下ろす。

 怖い……。俺の中で完全に某世紀末アニメの処刑BGMが流れてるんだが……。


 しかし、ひどい目に遭った。

 本当にメーリンは見境ないなあ。


 俺は倒れたメーリンを見下ろす。

 左頬が腫れ上がっていた。

 なのに、その乙女の顔は何故か幸せそうだった。



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


神は言っている……。まだ死ぬ定めではないと……。


面白い、エル〇ャダイは神ゲーと思う方は、

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