第41話 かねで こうげきしますか?

「チッタ!!」

『ガウッ!!』


 ルナが叫ぶ。

 その声にすぐさまチッタは動いた。

 皆の前に出て、【鉄壁】を張り巡らす。

 そこにルナの【結界】が合わさった。


 流れるような連携。

 その直後、砲弾が着弾した。


 ゴオオオオオオオンンンンン!!


 耳をつんざくような爆発音。

 【鉄壁】と【結界】の合わせ技を以てしても、防ぐことは難しい。

 だが、その威力を防ぐには十分だったようだ。


 まともに当たればバラバラになっていた俺の身体は、五体無事のまま存在していた。


「ふー……」

「ダイチ様、大丈夫ですか?」


 ルナが駆け寄る。

 回復のスキルを使おうとしたが、おかげさまでこっちは無傷だ。

 せいぜいびっくりして、尻餅をついたぐらいだろう。

 我ながら情けない限りである。


 それでも、ルナ、ミャア、ステノの怒りを誘うには十分だったらしい。


 特にミャアは怒り心頭だ。

 目を大きく開くと、より獣らしく眼光を光らせた。


「ダイチの仇みゃあああああああ!」


 ミャアが突撃していく。


 お約束だけど、俺は死んでないぞ。


 けれど、ミャアの行動は勇敢にもほどがある。

 相手は魔族や魔獣ではない。

 城そのものだ。

 1人で行って、勝てるはずがない。


「ミャア! 戻れ!!」


 制止したけど、ミャアは止まらなかった。

 頭の上の耳も、どうやらこの時ばかりはうまく機能しなかったらしい。


 それに向かったのは、1人だけじゃない。


「あれ? ステノもいない」


 まさか――――。


 俺は城を振り返る。

 すでにミャアが城壁に取り付きつつあった。

 その間、1発も砲弾は飛んでこない。

 どうやら次弾装填に時間がかかるらしい。


 だが、ミャアの前に高くそびえる城壁がある。

 どうやって上るのかと見ていたら……。


「みゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃ!!」


 城壁のとっかかりに爪をかけると、もの凄い勢いで登り始めた。

 すげぇ……。


 ついにミャアは城壁を上りきる。

 獣人の身体能力の高さに、ドワーフたちは完全に竦み上がっていた。


「堪忍ヨ」

「命ばかりはお助けヨ」


 ドワーフたちは独特のイントネーションで命乞いする。

 だが、ミャアの怒りは収まらない。

 みゃあ、と雄叫びを上げると、向かったのは先ほどの大砲だ。


 ゴォォォォォォォォォオオオンンンン!!


 スキルが載った拳を、思いっきり振り抜いた。

 全長が人よりも大きな大砲がくの字に曲がりながら、吹っ飛ぶ。

 すると、後ろの大砲に激突し、そのまま城壁の下へと落ちていった。


「ふふん……。どんなものみゃ」


 ちょっとすっきりしたらしい。

 ミャアは得意げに笑う。

 だが、その背後に手斧を持ったドワーフが足を忍ばせる。


「ミャア、後ろ!」

「みゃ!」


 振り返った時には遅かった。

 ミャアではない。

 ミャアに襲いかかろうとしてたドワーフの方がだ。


 すでにその顎の下に、刃物が突きつけられていた。

 鋭い殺気と眼差しに、ドワーフたちは息を呑む。

 【気配遮断】を解いて、現れたのはステノだ。


「動かないで下さい。それ以上、動いたら切ります」


 こ、怖ひ……。

 ステノって、ジョブなしだけど、確実にアサシンに近づいているよな。

 そもそも城壁を上った手際だって、暗殺者って感じだし。

 俺は城壁に掛けられた鉤縄を見る。

 ミャアがドワーフを引きつけて間に、手早く縄を使って城壁を上ったのだ。


 一体どこで覚えたんだろうか。

 ステノって、通常訓練の他にも自主練してるみたいだから、俺も把握してない技術を持ってたりするんだよなあ。


 そもそも鉤縄なんてどこで見つけてきたんだろうか。

 ブラムゴンの屋敷にあったのか?


「あ……! ダイチ様」


 ルナは指を差す。


 安心するのはまだ早かったようだ。

 ドワーフたちがワラワラと城壁に上ってくる。

 ミャアとステノはあっという間に囲まれてしまった。


 しばらくして、1人のドワーフが進み出てくる。

 女性のドワーフだ。

 背丈こそ小さいが一応成人らしい。

 中華風のお団子ヘアに、特徴的な褐色の肌ととんがり耳。

 男のドワーフよりは遥かにスレンダーだが、胸は結構でてる。

 しかも、二の腕を大胆にさらし、谷間を強調するような服を着ているものだから、俺としては目のやり場に困った。

 向かい合ったら、視線が自然と下を向くから、余計谷間に目が行きそうだ……。


 桃色の目にかけた片眼鏡から短い金の鎖が下がっている。

 よく見ると、服装は大胆だが、着ているものは上等なものばかりだ。


 女性ドワーフは足幅を広げて、城壁に立つミャアとステノを睨んだ。


「アイヤー。どこかで見タ思ったら、豹頭族の娘じゃないアルか」


 え、ええ……?

 こっちのドワーフのイントネーションって、似非中国人風なの。

 ていうか、「アイヤー」って久しぶりに聞いた気がする。


「久しぶりみゃ、メーリン! 昔の誼みゃ。とっととこいつらを下がらせてほしいみゃ」

「何が昔の誼ヨ。借金踏み倒したくせに」

「はああああああ?? 違うみゃ! そっちが不当に値上げしてきたみゃ! そもそも踏み倒したというなら、うちの住み処を完成してから言うみゃ」

「なら払う意志を踏み倒してほしいアル。せめて前金ぐらい出すのが筋あるよ」

「みゃああああああああああ!! なんで値上げしておいて、獣人が前金出さないとダメみゃああああ!!」


 とりあえずわかったことがある。


 ミャアと、あのメーリンと言うドワーフは犬猿の仲だということだ。

 2人の口論はしばらく続くかと思われたが、メーリンがあるものを見つけて、目を剥いた。


「あああああああああああああああああ! わたしらが作った大砲が!!」


 城壁の下でひしゃげた大砲を見つける。

 メーリンの驚く顔を見て、鼻を鳴らしたのはミャアだった。


「もしかして、ミャアがやったアルか?」

「ふふん……。驚いたかみゃ」

「弁償アル!」

「は?」

「弁償するアル! あと借金も払うアル!!」

「何をどさくさに言ってるみゃ! そもそも、そっちが先に撃ってきたみゃ!」

「正当防衛ヨ! こっちは暗黒大陸にやってきたっていう大魔王の話を聞いて警戒してたアル。疑わしきはすべて大砲が、ドワーフの流儀ヨォ!」

「そんな流儀、知らないみゃ!!」


 フー、とミャアは息を吐く。

 戦意を剥き出す獣人族を前にしても、メーリンは冷静だ。

 片眼鏡の奥に強い怒りを滲ませ、側にいたドワーフから槍を奪って構えた。


 まさに一触即発の状態だ。


「ストォォォォォオオオオオプッッッッッッッ!!!!」


 声を上げたのは、俺だった。

 チッタの背に乗り、城壁の側までやってくる。


「喧嘩はやめてくれ。ミャアも爪を収めるんだ」

「で、でもダイチ……」

「ダイチ…………? まさかアレが噂の大魔王アルか?」

「俺の名前を?」


 まさか俺の名前を知ってる種族がいるなんて。


「商売にとって情報が、1番の武器アル。しかし、そんなわたしらでも知らなかったアルよ。獣人が大魔王の軍門に降るなんて」

「ダイチは大魔王だけど、優しい大魔王みゃ!」

「優しい? 信じられないアルヨ?」


 そう言って、メーリンは城壁から降りてきた。

 俺の前に立ち、薄紫色の髪を揺らして頭を下げる。


「初めまして、大魔王様。それにしてもさすがアルね。なかなか派手な登場だったアル」

「それに関してはすまない。使者も立てず、いきなりやってきて君たちを怖がらせてしまった。謝罪する。この通りだ」


 俺は頭を下げた。


 いきなり砲弾を撃ってきたのはドワーフの方だ。

 でも、ここは彼らのテリトリー。

 彼らはそれを守ろうとしたに過ぎない。

 敵が多く、魔族と比べれば能力的に劣るであろうドワーフが、戦いの先を取ろうとするのは普通の行動と言える。


「なるほどアル。あの頭が空っぽな豹頭ひょうあたまむすめよりは、礼儀がわかってるようアルな。けれど、わたしらが手塩にかけて作った大砲は、どう責任とってくれるアルか?」

「それについてもすまない。こっちで弁償させてもらうよ。いくら払えばいいかな?」

「ははは……。さすがは大魔王様。太っ腹ね。そうアルね。金貨1000枚で手を打ってやるアル」


 メーリンは得意げに両手を広げた。


「金貨1000枚って……」

「不当みゃ!」

「高すぎます!」


 魔族が支配するマナストリアでも、貨幣は重要な経済ツールだ。

 金貨を筆頭に、銀貨、銅貨、一般的に銭といわれている鉄貨が流通している。

 当然、金貨が一番価値が高い。

 それが1000枚というと、日本円にして1億円近くの価値を指す。


「わかった。払うよ」

「え? 金貨1000枚アルよ。まさか働いて返すとかいうアルか? やめておいた方がいいアルよ。ドワーフの仕事は、とても重労働アルよ」

「いや、そんなことはしなくていいよ」

「え――――?」


 俺は近くにあった岩に手を追いた。



 【言霊ネイムド】――――金!



 岩がみるみる光を帯びていく。

 やがて現れたのは、真っ新な金の塊だった。


「これでよしっと……。1000、いや、それ以上あるか? 悪いけど、塊でもいいかな? その分上乗せしておいたから」


 俺は金の塊を叩く。

 メーリンは口を開けて呆然としていた。

 幽鬼のようにゆっくりと近づき、金に触る。


「ほ、本物みゃ」

「なんだ、疑っていたのか? 心配しなくてもいい。全部本物だ」


 よっぽどショックだったのだろう。

 メーリンはがっくりと項垂れ、ついに膝を突く。

 しばし放心状態になるのか、と思ったが、その額は地下世界のやや熱を持った地面に当てられた。


「お願いするアル」



 メーリンを、あなたの奴隷にしてほしいアル……。



 …………へっ?



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


今回のびっくりどっきり変態キャラ枠になるかもしれない。


面白い、まさかドワーフが、と思った方は、

是非作品フォロ-、レビュー、コメント、応援の方をよろしくお願いします。

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