第7章
第40話 どわーふぞくの すみか
俺が思い浮かぶドワーフ族というと、背のちっさいおっさんって感じだ。
質実剛健で、頑固な性格。
やたらと筋肉質で、立派な口ひげが生えている。
暗い洞窟に住み、土と火にまみれた渋い職人気質のおっさん。
それがドワーフ族だ。
だが、マナストリアのドワーフは全然違うらしい。
「すっごいケチな種族みゃ!!」
とミャアは半ば憤慨しながら語った。
1度だけだが、獣人たちはドワーフ族と接触を持ったことがあるらしい。
今もミャアの案内で、ドワーフの集落へと向かっている。
「ケチ?? ドワーフが?」
「そうみゃ! 獣人は1度だけエラい目にあったみゃ」
「というと?」
ミャアたちがドワーフと接触を持ったのは、住み処を作るためだった。
実は獣人の住み処は、ドワーフが作ってくれたらしい。
獣人の中にも穴掘りが得意な種族はいるらしく、半分はその種族によるものなのだが、半分はドワーフが請け負ったようだ。
「初めは順調だったみゃ。でも、しばらくしてあいつらは建材の値段が上がったとか、聞いていたよりも地盤が固くて、工期が長引いたとか難癖を付けて、住み処をの建築費を度々値上げしてきたみゃ」
ひどい話だ、というよりは、どっかで聞いたことがあるような話だった。
どうやら異世界でも、こういうことはよくあるらしい。
「初めは仕方なく払っていたみゃが、段々腹が立ってきて、値上げに応じないようにしたら、工事をほったらかしてどっかへ消えてしまったみゃ」
それが本当だったら、ドワーフ族は本当にケチだな。
いや、ケチというか、契約不履行ということで犯罪に当たるかもしれない。
ちょっとドワーフに頼むことに、黄色信号だなあ。
同じことをされたら、個人としては断りたい。
けれど、ドワーフ以上に武器を作る事に長けた種族はいないし。
どうしようか……。
俺が悩んでいると、ミャアの足が止まった。
どうやら、この辺りに集落があるらしい。
「おかしいみゃあ。この近くにドワーフの住み処へ続く穴があるはずみゃが」
ミャアはキョロキョロと辺りを見渡す。
初めに反応したのは、チッタだった。
その後を追っていくと、ポ〇モンのディ〇ダが掘ったみたいな穴がポッカリと空いていた。
「これがドワーフが掘った穴なんですか?」
ルナは穴を覗き込む。
【太光】で照らしても、底が見えない。
相当深い穴らしい。
「ドワーフの根城は、地下にあるからみゃ」
さすがはドワーフって感じだな。
いよいよらしくなってきた。
「入っても大丈夫なの?」
ステノが心配そうに見つめる。
「大丈夫みゃ。死にはしないみゃ。ダイチ、心配ならミャアの身体にしがみつくといいみゃよ」
「え??」
思わず声が出た。
俺は、ミャアの身体にしがみつく自分を想像する。
その…………【成長促進】によって、育ってしまったミャアの身体に……。
いかんいかん。俺は何を考えているんだ。
俺が戸惑っていると、烈火のごとく怒ったのはルナだった。
「ミャアさん、何を言っているんですか?」
「当然の権利みゃ。今回はミャアが案内しているんだから、ダイチがミャアにしがみつくのは当たり前みゃ」
火花を散らし始める。
おいおい。こんなところで仲間割れは……。
「2人とも仲間割れはよくない」
ステノが仲裁に入る。
うん。その通りだ。
仲間割れはよくないぞ。
よく言った、ステノ。
「だから、ダイチ様はステノと一緒に降りる」
「「「なんでそうなる?!」」」
思わず俺まで突っ込んじゃったよ。
こらこら、ステノ。
なんで? って感じで首を傾げるな。
ちょっとあざとい。
ステノの自己主張が激しくなったのはいいことだけどね。
「一応、念のためチッタにしがみつくよ」
穴の深さがわからない以上、安全策は必要だ。
レベルが高く、防御力も高い3人はともかく、俺は普通の人間。
100メートルどころか、10メートルの高さだって、即死するかもしれない。
「チッタ、よろしくな」
『ガウッ!』
チッタは成獣に変化する。
それを見ながら、ルナ、ミャア、ステノが羨ましそうに見つめていた。
「いいなあ、チッタ……」
「ミャアも獣に産まれたかったみゃあ」
「ダイチ様にしがみついてもらえるなんて。チッタ、羨ましい子」
若干殺気まじりになのが怖い。
いよいよ、俺たちは穴の中に入る。
ミャアが先導し、ステノ、チッタと俺、殿はルナだ。
「どわあああああああ!!」
穴の中はツルツルしていた。
落ちるというよりは、滑るという感じだ。
滑り台といえば微笑ましい表現だが、角度が違う。
体感70度ぐらいの急角度で、俺たちは滑り落ちていった。
やがて角度が緩やかになっていく。
すると、急に赤い光の中へと放り出された。
ボフッと俺が飛び込んだのは、柔らかな緩衝材だ。
衝撃を吸収した材質に感心する間もなく、顔を上げた俺は驚きの光景を目にする。
「すげぇ……」
そこは大きな大きな空洞だった。
一瞬、外かと思ったが違う。
上を見ると、雲や星が浮かぶ空ではなく、ただただ暗い天井だ。
そこからまるでこちらを覗くように、巨大な鍾乳石が垂れ下がっている。
気温は暑い。
立っているだけで、じわりと汗が出てくる。
こんな場所で飲むビールはさぞ格別だろう。
きっと日本にいたら味わえない別世界。
まさにファンタジーという感じがした。
地球空洞説の説明に出てくるような空間に、俺はしばし見入る。
口を開けたまま感心していると、俺をさらに驚かせるものがあった。
「みゃみゃ! なんだ、あれは」
「え? なんで地下に――」
「あれって、やっぱり……」
ミャア、ルナ、ステノも驚く。
俺もまた言葉を失い絶句した。
城だ。
地下にあったのは、石あるいは何かの金属を積み上げたような堅牢な城塞だった。
すると、そこをぐるりと取り囲む城壁に動きがある。
小さなおっさん――つまり、俺が想像した通りの種族が、城壁の上で慌ただしく動いていた。
やがて現れたのは、黒鉄に光る大砲だ。
え? ちょっと待て!
この世界に大砲というか、火薬の概念があるのか?
大砲は構造的にはシンプルだけど、その部品を作るのには、相当老練な技術がいるはず。
すごい。
やはりドワーフはかなりの製錬技術と金属加工技術を持ち合わせているようだ。
是非、仲間にしなければ。
俺が興奮している、とついに砲口は俺たちの方に向けられた。
「まさか――――」
もはや制止する暇もない。
ボンッ!
冗談みたいな音を立てて、砲弾が俺たちに向けて発射された。
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