第39話 しんき くえすとを じゅちゅうしました
そのままゴーレム騎士と戦う予定だったのですが、
急遽、展開を変えました。
エヴノスの間抜け面が見れると思った方、申し訳ない。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
褒賞式典は終わりを告げた。
若干トラブルはあったが滞りなく進み、暗黒大陸にやってきた魔族たちは帰途に付く。 黒い羽根を散らし、空へと舞い上がっていくイーグルクロウたちの姿は、なかなかに壮観だ。
「大丈夫ですか、ダイチ様?」
心配げに見つめたのは、ローデシアだった。
暗黒騎士たちの撤退も始まっている。
現場指揮は他の者に任せているが、ずっとこうしているわけにもいかないはずだ。
俺は手短に伝えた。
「心配するな、ローデシア」
「やはりあなた様を暗黒大陸に残しておくのは……」
「なんだ、そっちの心配か。それも問題ない。ここでの生活は慣れたよ。おいしい料理を作ってくれるお母さんもいるしな」
「わかりました。大魔王様がそこまで言うなら」
「ああ。……1ヶ月後を楽しみにしていてくれ」
「はい」
ローデシアはイーグルクロウに乗る。
1つ羽ばたくだけで、突風が俺を薙いだ。
気が付いた時には、遠い空の上だ。
「ダイチ」
最後に声をかけてきたのは、エヴノスだった。
挨拶もそこそこに、こちらはすでにイーグルクロウに乗っている。
なんか終始機嫌悪そうだったからな。
早く魔王城に帰りたかったんだろう。
「1ヶ月後を楽しみにしているぞ」
ぬはははははははは……。
高笑いを浮かべたエヴノスが、暗黒大陸の暗い空へと舞い上がっていく。
巨大な竜は王者の風格を漂わせながら、北の海へと竜首を向けた。
しばらく俺は手を振り続け、水平線の向こうに影が消えると、手を下ろす。
胸に一抹の寂しさが残る。
振り返ると、ルナたちがこちらを向いていた。
今俺には暗黒大陸で知り合った多くの仲間がいる。
その中には、俺と同じ人族も混じっていた。
それでも、去って行く魔族たちを見て、寂しいと思ってしまうのは、たとえ種族が違っても、エヴノスたちもまた同じ戦場を戦い抜いた仲間だからだろう。
今回の式典で、お互いの種族が和解するのは、まだまだ時間がかかるのを感じた。
それでも、いつか色んな種族が幸せに暮らせる世界になることを、俺は切に願った。
さて次の相手はゴーレム騎士になってしまった。
1ヶ月後、俺たちの力量を計るため、再びエヴノスたちがこの大陸に訪れることになっている。
そこで俺が領主になれるかどうかが決まるのだ。
正直に言うと、ゴーレム騎士は強い。
魔王エヴノスの近衛兵だしな。
ブラムゴンよりも遥かに格上だ。
「ゴーレム騎士の特徴は、なんと言っても防御力である」
村に帰った俺は、早速みんなにゴーレム騎士の特徴を教えていた。
ゴーレム系の魔族は総じて防御力が高い。
特にゴーレム騎士は石の鎧など身に纏っている。
これで底上げされ、さらに硬くなっている。
「つまりは一筋縄ではいかない相手だということだな」
俺は話を結んだ。
「でも、ダイチ様」
ルナは手を上げる。
「私たちのレベルを上げれば、済むことではないのですか?」
「スキルも上げれば楽勝みゃ!!」
ミャアはぶんぶんと拳を振るう。
ブラムゴンとの一戦が少し消化不良だったのかもしれない。
帰ってからも、身体を動かし続けていた。
「残念ながら、事はそう単純な話ではないんだ」
「どういうことですか、ダイチ様」
ステノが首を傾げた。
後ろにたったカーチャや、ソンチョー、ミャジィも難しい顔を浮かべている。
「確かにレベルやスキルを上げれば、いつかゴーレム騎士の防御力を上回ることができる。特にミャアなら、うまくスキルを重ねれば、ゴーレム騎士の身体を撃ち抜くことができるはずだ」
「ならば、あの場で戦えばよかったのでは?」
「ミャジィ、話はそう簡単じゃない。前にも言ったかもしれないけど、ステータスの値と身体の頑強さはイコールじゃないんだ。素手での攻撃力が、身体の限界以上を越えることになれば、身体の方がもたなくなる。その場合、回復も効かない」
「そんな……」
聖女のルナはショックを受けていた。
「では、どうするのじゃ?」
「みんなにはソンチョーのようになってもらう」
「こんなスケベ爺ィになれっていうのかい?」
「いや~、照れるのぅ」
「ごめん。言い方が悪かった。つまりは――――」
みんなの武器を作ろうってことさ。
「私たちの……」
「武器……」
「面白そうみゃ」
ルナ、ステノ、ミャア――うちの主戦力3人娘は、目を輝かせた。
「だが、うちの村には鍛冶師がいない。獣人の方にはいるのかい?」
カーチャが尋ねると、ミャジィは首を振った。
「いや、うちにもおらん。そもそも我ら獣人は火を好かん。鉄を溶かすほどの炎なんぞ想像するだけで恐ろしいわい」
「うん。だから、見つけようと思ってるんだ」
「何を見つけるのですか、ダイチ様」
ルナは質問した。
「その前に、確認しておきたいことがある。みんな、聞いてくれ」
「もうみんな、聞いてるみゃ」
「なんでしょうか、ダイチ様」
俺は少し躊躇いながらも、みんなに問うた。
「今回、みんながゴーレム騎士と戦うことになったのは、元はと言えば俺のわがままだ。そこでみんなに確認しておきたい」
俺が暗黒大陸の領主でいいのかな……?
…………。
しん。
いきなり静まり返ってしまった。
みんなの表情は何か意外だ。
鳩が豆鉄砲を食ったような――という顔をしていた。
質問の答えに悩んでいるというよりは、質問自体に驚いているというか。
俺も戸惑っていた。
こんな反応されるとは思ってもみなかったのである。
はあ……。
1つ息を吐いたのは、ミャアだった。
手の平を上にして、やれやれと頭と尻尾を振る。
「何を聞きたいのかと思えば、そんなことかみゃ」
「そ、そんなこと?」
一大決心とは言わないけど、こちらとしては結構勇気がいる質問だった。
みんなの本音を聞くことになるんだし。
「ミャアさんの言う通りです」
『キィ!』
ルナとチッタのコンビも、ミャアと同じ反応だった。
「そんなの聞かれるまでもないね」
「決まり切っておるじゃろう」
「我ら獣人の腹はいつも決まっておる」
「ついていきます! ダイチ様」
私たちの領主になってください、ダイチ様。
最後はみんなが頭を下げる。
その姿を見た瞬間、目頭が熱くなる。
心が震えた。
「こちらこそよろしく頼む」
俺もまた頭を下げる。
今の仲間は、今目の前にいる人たちだ。
ここにいるみんなを幸せにする。
エヴノスたちにはちょっと申し訳ないけど、俺たちが強くなるために、少しの間だけ踏み台になってもらおう。
それぐらいなら、エヴノスたちも力になってくれるだろう。
頭を上げると、みんなも頭を上げた。
いい顔をしている。
目標に励む人々の顔だ。
「じゃあ、行こうか……」
「どこへ行かれるのですか、ダイチ様?」
『キィ?』
「どこへでもお供します!」
「武器を探しに行くのかみゃ?」
いや、武器じゃない。
俺たちが探すのはある種族だ。
ファンタジーで武器作りの名人と言えば、やはりあの種族だろう。
ドワーフ族に会いに行こう!
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
次回、新章です。
面白い、ドワーフ族登場が楽しみ、と思った方は、
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