第44話 ラリホー!

 地鳴りか!

 そう勘違いしてもおかしくない音だった。

 事実、打撃音というよりは、爆発音に近い音を聞いて、ドワーフが集まってくる。


 一方、俺たちも固まっていた。

 視線を向けている方向は、むろん初代ドワーフ族長の像とルナである。


 像は無事だ。

 すごい音だったから、ついルナが倒したと思ってしまったが、そうではない。

 だが、無事で済まなかったものはある。

 ルナではない。

 彼女が選んだ金砕棒だった。


 太い鉄の棒が、根本からぼっきりと折れている。

 折れた先は跳ね返り、少し離れた先の地面に突き刺さっていた。


「アイヤー!」


 頭を抱えたのは、チンさんだった。

 折れた金砕棒の下に向かう。

 生まれたばかりの赤ん坊でも見つけたかのように抱き上げた。


「うちの商品が……」

「す、すみません」


 ルナは謝る。

 だが、チンさんは首を振った。


「いいアル。わたしが侮っていたアル」

「チンさんの武器屋は、安くて良質なのが売りアル。だから、わたしも信頼していたアルが……。まさか折れてしまうなんて、ビックリあるヨ」


 メーリンも会話に加わって、肩を竦めた。


 けれど、俺も驚いた。

 まさか鉄製武器ですら、ルナは折ってしまうとは。

 それだけ魔法鉱石ミスリル製の像が硬いってことでもあるんだけど、ルナの力も相当なものなのだろう。


 これに『怪力』のような補助スキルが入るのだ。

 金砕棒を2倍の大きさにして、丈夫にしたって、衝撃に耐えることは難しいだろう。


「1つ聞くアルが、相手はどんな化け物アルか?」


 チンさんは尋ねる。


「ゴーレム騎士ですけど……」

「アイヤー……。それをあらかじめ聞いておけば良かったね。ゴーレム騎士の石の鎧はとても頑丈ね。鉄じゃ壊せないアルよ」

「じゃあ、魔法鉱石ミスリルを使えば……。魔法鉱石ミスリル製の武器なら、ルナも扱えるんじゃないでしょうか。あっ……材料なら、持ってますよ」


 俺は【言霊ネイムド】を使う。

 あっという間に、魔法鉱石ミスリルの塊を出してみせた。

 黒く光る石に戦きながら、チンさんは首を振る。


「それだけじゃダメネ」

「材料が足りないってことですか? それじゃあ、もっと――」

「そういうことじゃないネ、大魔王様」


 神妙な顔でメーリンは言った。

 横のチンさんは頷き、解説を加える。


魔法鉱石ミスリルがあっても、加工できないと意味ないね」

「え? もしかして、魔法鉱石ミスリルが扱える職人がいないとか?」


 俺が質問すると、チンさんは頭を振った。


「職人はいるネ。いっぱいいる。問題は“火”ね」

「火??」

「年々火の温度が下がってるアル。どれだけ燃やしても、それ以上の温度にならないアルよ」

「それって――――」


 俺はあることに気付き、ドリーを呼び出す。

 その勘は当たった。


『おそらく火の精霊サラマンダーが封印されてしまったからでしょう』


 ウィンドのおかげで、俺たちは日光を手に入れた。

 だが、未だに村の気温は上がらない。

 一定以上で止まって、それ以上の温度に上昇しないのだ。


『サラマンダーは暗黒大陸の熱を司る精霊……。火の温度が上がらないのも、それが原因だと思われます』

「――――だそうだ」

「なるほどネ。合点がいったアル」

「じゃあ、火の精霊の封印を解けば良いのではないでしょうか?」


 ステノが提案する。

 だが、事はそう簡単に運ばないらしい。

 メーリンは頭を振った。


「残念アルが、わたしたち火の精霊がどこにいるか知らないアル」

「え? ドワーフたちも知らないの?」


 弱ったな。

 こういう場合、ゲームならドワーフが知っているものなのに。

 ヒントなしで探せっていうのか?

 昔のRPGじゃあるまいし。


「火の精霊がどこにあるかは知らぬが、心当たりならあるぞ」


 どこか威厳たっぷりの声が聞こえてきた。

 今気付いたけど、すでに俺たちは多くのドワーフに取り囲まれていた。

 音を聞いて、集まってきたのだ。


 その人垣が割れる。

 1人のドワーフが進み出てきた。


 相変わらず子どものように小さいけど、赤いマントを引きずって歩いてくる様には、独特の威厳がある。

 頭に被った王冠からして、ドワーフの族長だろう。

 どうやら、族長は似非中国人みたいな口調ではないらしい。

 その代わり、視線は鋭く、睨まれただけで背筋が凍った。

 如何にも族長らしい。ザ・族長だ。

 ソンチョーとミャジィに爪の垢を煎じて飲ませてやりたいぐらだい。


「ラリホー!! 大魔王殿とお見受けするが……」


 ら、ラリホー??

 あ! 似非中国人の次は、そっちのドワーフかよ。

 懐かしすぎるわ!!


「ら、らりほー……。そうです。大魔王のダイチです」

「――――ッ!!」

「え? なんで驚いた顔をしてるんですか?」

「す、すまない。ラリホーといって、ラリホーと返してきたのは、大魔王様だけだったので」

「んん? ラリホーってドワーフの挨拶の言葉じゃないの?」

「違うアル。族長が勝手に流行らせようとしている言葉アル」


 族長が勝手に…………って――――。


「ちなみに意味は〇〇〇って意味だぞ」


 卑猥!

 下ネタを挨拶にしようとするなよ。


 前言撤回……。

 どうして、種族の族長ってこう変わったというか、性に奔放というか。


「平たく言えば、変態ですよね」


 ステノ、君はいつからそんなに容赦のない女の子になったんだい……。


「何をしに来たアルか、族長」

「族長ではなく、パパと呼びなさい」

「え? メーリンって族長の娘だったの??」

「そうアルよ。……あ。でも、パパっていっても金銭的な繋がりで――」


 ちょちょちょちょ! やめて!

 色々と夢を壊すのはやめて。


「はっはっはっ……。メーリンは照れ屋なのだ」

「あ……。族長、今わたしのことを呼び捨てにしたナ? はい。……銀貨5枚、早く払うがよろし」


 メーリンは手を差し出す。

 すると、族長は涙を流しながら、懐にあった銀貨をその手の平に置いた。

 一体、この2人ってどういう関係なんだろうか。


「それで族長……。火の精霊の心辺りがあるって」

「ああ。この城から地下空洞を伝って東に行ったところに、封印の洞窟と呼ばれる入口が魔法の門に閉ざされた場所がある」

「チッ!」


 突然、メーリンが舌打ちする。

 あ……。さては知ってて、言わなかったな。

 きっと情報を下に、俺から金をせびろうとしていたのだろう。

 油断も隙もないヤツだ。


「そこに火の精霊がいると?」

「わからん。だが、魔獣が徘徊しておってな。とても危険な場所であることは確かだ」

「魔獣か……」


 手がかりがない以上、そこを当たってみるしかないか。


「行くみゃ、ダイチ!」

「参りましょう、ダイチ様」

「そうだね。行ってみよう」


 まあ、ミャア、ステノ、ルナがいれば…………って、ルナはどこへ?


 俺は周りを見渡す。

 ルナはまだ像の前で立ち尽くしていた。

 顔を下に向けて、何やら落ち込んでいる。


「どうした、ルナ?」

「はい。……その、折角ダイチ様から買っていただいた物を――」

「なんだ。そういうことか。気にしてなくていいのに」

「でも……。初めてダイチ様に買ってもらったものだから」


 そんなことを考えていたのか。


 俺はルナの頭に手を置く。


「ありがとう、ルナ。そう大事に思ってくれて」

「ダイチ様?」

「俺の贈り物を大事にしてくれるのは嬉しいよ。でも、壊れたものを元通りにはできない。だから、今度はルナがもっと大事にしてもらえるような武器を贈るよ」


 俺はルナの目を見て、言った。


「手伝ってくれるかい?」

「……はい。喜んで」


 ようやくルナに笑顔が戻る。


 金砕棒を持った時のルナも勇敢で頼もしい。

 けど、やっぱりルナには笑顔が似合う。

 ルナやみんなの笑顔を側で見るためにも、早く火の精霊を見つけないとね。



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


金砕棒、永遠なれ……。


面白い、ルナはやっぱり正ヒロイン、と思った方は、

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