第6章
第33話 あんこくきしが ぞうえんであらわれた
早くも第二部はじまります!
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俺は唐突に肩を叩かれる。
振り返ると、ミャアが満面の笑みを浮かべていた。
さらにその後ろには、戦いを終えた人族や獣人たちが立っている。
いつの間にか、集落で待機していたミセスやサポート組も、戦場を訪れていた。
敵の気配はない。
数匹の魔蛙族は海の方へと逃れていく。
ついに俺たちは、ブラムゴン率いる魔蛙族を追い払ったのだ。
「みんな、お疲れ……そして――――」
俺たちの勝利だ!
「「「「おおおおおおおおおおおお!!」」」」
「「「「みゃああああああああああ!!」」」」
人族と獣人族たちの声が響き渡る。
ルナ、ステノ、ミャア、カーチャ、ソンチョー、アバカム、トレジャー、ミセス。
この戦場で活躍し、戦った
その表情は様々だ。
跳び上がって喜ぶ者。
楽しそうに踊る者。
泣いている者。
満面の笑みを浮かべる者。
それぞれがこの暗黒の大陸で、色々な問題に悩み、虐げられてきた。
常に押さえ付けられていた感情が、今この瞬間爆発してもおかしいことじゃない。
一方、俺はというと、少し複雑だった。
この世界に初めて来て、仲良くなったのは魔族だ。
最初の出会いによって、俺が属する側と運命が決まったといっていい。
魔族と交流する中で、こうしたことは争い事は日常茶飯事である。
とはいえ、俺たちは魔族に刃を向けたことになる。
マナガストの大半の勢力にだ。
さすがに「大魔王だから、手打ちにした」とは言いにくいよな。
「さて……。エヴノスたちにどう言い訳したものか」
首を捻る。
すると、また空気が変わった。
『がぅぅぅぅ……』
同じく【気配探知】の上位スキル【第六感】を持つ、チッタも唸る。
大きく釣り上がった瞳は、空の方へと向けられていた。
暗黒大陸の暗い空を覆うような巨大鴉が、1匹優雅に翼を動かしていた。
おそらくイーグルクロウという魔獣だろう。
鷹のような鉤付きの嘴に、鴉の黒い翼。
その背は広く、イーグルクロウの浮揚力も高いため、多くの魔族や魔獣、あるいは食料品などを運ぶのに重宝されている魔獣である。
「イーグルクロウだね。その背には何か乗ってる?」
それが問題だ。
魔族なら、ブラムゴンがあらかじめ用意していた新手かもしれない。
食糧を詰んでやってきたなんてことは考えられないし、見る感じ何も載っていないということはなさそうだ。
「誰か【遠見】のスキルを……。何が乗ってる?」
俺が尋ねると、獣人の1人が応じてくれた。
「人……。いや、違う。甲冑を着た騎士だ。それも真っ黒の――」
報告を聞いて、俺は息を飲んだ。
暗黒騎士だ。
ということは、もしかして……。
しばらくして、イーグルクロウは暗黒大陸の大地に降り立った。
報告通り、ワラワラと暗黒騎士たちが降りてくる。
その数はおよそ100名。
横に広がり、俺たちを半包囲するような動きを見せる。
数の上ではこっちが勝ってるけど、暗黒騎士は群れでも個人でも強い。
正確には、この暗黒騎士を率いている魔族が――だけど……。
「何ですか、この魔族たちは?」
「話し合いをする雰囲気じゃないですね」
「なんみゃ! お前たちは!! やるのかみゃ? 受けてたつみゃ!!」
ミャアは勇ましく啖呵を切る。
他の人族や獣人たちの反応は、大きく分けて2つ。
怯えるように警戒するか、戦いの勢いそのままに相手を睨み付けるかだ。
「ミャア、落ち着いて……。みんなも手を出しちゃダメだからね」
正直に言うと、相手が悪い。
勝てないわけじゃないけど、文字通り死闘になるだろう。
今、勝ち目があっても、みんなが傷付くような戦いはさせたくない。
「ダイチ様?」
聞き知った声を聞いて、俺は顔を上げた。
1人の黒騎士が前に進み出る。
フルフェイスの兜を脱ぐと、豊かな黒髪が広がった。
同時に、氷の瞳とやや唇の厚い女性の顔が露わになる。
「ローデシア……。まさか君が来るなんて」
「はい。お久しぶりです、ダイチ様。お元気そうで安心しました」
「あ、ああ……。君も――――」
にこやかに挨拶を交わす。
暗黒騎士族の族長にして、魔王軍の実質№2。
あのエヴノスに匹敵する実力を持ち主だ。
事実ローデシアのジョブは【達人】。
ソンチョーが持つ【剣豪】の上位互換だといえば、少しその実力の一端がわかるだろう。
弱ったな。
暗黒騎士だけならなんとかなったけど、ローデシアはまずい。
彼女がその気になれば、ここにいる全員の首が飛ばすことすら容易い。
「――――ッ!」
俺は思わず背筋を伸ばした。
ローデシアによって、みんなの首が飛ばされるのを想像したからじゃない。
何か俺の背中に向かって、ただならぬ怨念のようなものが向けられたような気がしたからだ。
「また女の人……」
「綺麗な人ですね」
「ふ、ふん! ミャアだって、いずれ……」
後ろの3人は何を言っているんだ。
ごほん……(閑話休題)。
「心配していたのですよ。突然――」
「待て、ローデシア」
こっちに近づこうと、1歩踏み出したローデシアを止める。
後ろの3人の殺気も気になるけど、目の前の暗黒騎士の出方がわからない以上、ローデシアも危険であることに代わりはない。
「君は何をしにきたんだ?」
「何って、それは――――」
1体の暗黒騎士がローデシアに近づいてくる。
その騎士が耳打ちした途端、ローデシアの表情が一変した。
薄く笑みを浮かべていたのに、報告を聞いた瞬間、神妙な顔を浮かべたのだ。
弱ったな。
今のは別働隊の暗黒騎士だろう。
おそらく森に転がったままの魔蛙族の死体を見つけたんだ。
「ダイチ様、1つお伺いしたいのですが」
「な、なんだ?」
「この先の森で、魔蛙族の遺体を発見しました。何か心当たりはありませんか?」
やったのは、俺たちだ。
そう白状することは簡単だ。
けれど、その瞬間ローデシア――いや【達人】の刃が、俺たち全員の首を刎ねるだろう。
俺は覚悟を決めた。
「俺だ。俺1人でやった!」
断言する。
俺の言葉に後ろでは動揺が広がった。
「だ、ダイチ様?」
「ダイチ様、急に何を?」
「あれはミャ――――もがもが」
「お嬢ちゃんは、ちょっと黙ってな」
ミャアの口を塞いだのは、カーチャだ。
何かしら察してくれたらしい。
勘の良さは村一番だ。
俺は心の中でカーチャに感謝した。
「後ろの人族や獣族は?」
ローデシアは首を伸ばし、後ろの方を見る。
「彼らは関係ない。だから――――」
「なるほど。そうですか」
直後、ローデシアの表情が破顔する。
俺の首を飛ばすはずだった手は、俺の手を強く握った。
さすがダイチ様です!!
…………。
「へ?」
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
第二部「おてんば暗黒騎士の冒険(大嘘)」
面白い、ダイチのターンがやってきた、と思った方は、
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