第6章

第33話 あんこくきしが ぞうえんであらわれた

早くも第二部はじまります!


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


 俺は唐突に肩を叩かれる。

 振り返ると、ミャアが満面の笑みを浮かべていた。

 さらにその後ろには、戦いを終えた人族や獣人たちが立っている。

 いつの間にか、集落で待機していたミセスやサポート組も、戦場を訪れていた。


 敵の気配はない。

 数匹の魔蛙族は海の方へと逃れていく。

 ついに俺たちは、ブラムゴン率いる魔蛙族を追い払ったのだ。


「みんな、お疲れ……そして――――」



 俺たちの勝利だ!



「「「「おおおおおおおおおおおお!!」」」」

「「「「みゃああああああああああ!!」」」」


 人族と獣人族たちの声が響き渡る。

 ルナ、ステノ、ミャア、カーチャ、ソンチョー、アバカム、トレジャー、ミセス。

 この戦場で活躍し、戦った戦士もののふたちが勝利の凱歌を上げる。


 その表情は様々だ。


 跳び上がって喜ぶ者。

 楽しそうに踊る者。

 泣いている者。

 満面の笑みを浮かべる者。


 それぞれがこの暗黒の大陸で、色々な問題に悩み、虐げられてきた。

 常に押さえ付けられていた感情が、今この瞬間爆発してもおかしいことじゃない。


 一方、俺はというと、少し複雑だった。

 この世界に初めて来て、仲良くなったのは魔族だ。

 最初の出会いによって、俺が属する側と運命が決まったといっていい。


 魔族と交流する中で、こうしたことは争い事は日常茶飯事である。

 とはいえ、俺たちは魔族に刃を向けたことになる。

 マナガストの大半の勢力にだ。


 さすがに「大魔王だから、手打ちにした」とは言いにくいよな。


「さて……。エヴノスたちにどう言い訳したものか」


 首を捻る。

 すると、また空気が変わった。


『がぅぅぅぅ……』


 同じく【気配探知】の上位スキル【第六感】を持つ、チッタも唸る。

 大きく釣り上がった瞳は、空の方へと向けられていた。


 暗黒大陸の暗い空を覆うような巨大鴉が、1匹優雅に翼を動かしていた。

 おそらくイーグルクロウという魔獣だろう。

 鷹のような鉤付きの嘴に、鴉の黒い翼。

 その背は広く、イーグルクロウの浮揚力も高いため、多くの魔族や魔獣、あるいは食料品などを運ぶのに重宝されている魔獣である。


「イーグルクロウだね。その背には何か乗ってる?」


 それが問題だ。

 魔族なら、ブラムゴンがあらかじめ用意していた新手かもしれない。

 食糧を詰んでやってきたなんてことは考えられないし、見る感じ何も載っていないということはなさそうだ。


「誰か【遠見】のスキルを……。何が乗ってる?」


 俺が尋ねると、獣人の1人が応じてくれた。


「人……。いや、違う。甲冑を着た騎士だ。それも真っ黒の――」


 報告を聞いて、俺は息を飲んだ。

 暗黒騎士だ。

 ということは、もしかして……。


 しばらくして、イーグルクロウは暗黒大陸の大地に降り立った。

 報告通り、ワラワラと暗黒騎士たちが降りてくる。

 その数はおよそ100名。

 横に広がり、俺たちを半包囲するような動きを見せる。


 数の上ではこっちが勝ってるけど、暗黒騎士は群れでも個人でも強い。

 正確には、この暗黒騎士を率いている魔族が――だけど……。


「何ですか、この魔族たちは?」

「話し合いをする雰囲気じゃないですね」

「なんみゃ! お前たちは!! やるのかみゃ? 受けてたつみゃ!!」


 ミャアは勇ましく啖呵を切る。

 他の人族や獣人たちの反応は、大きく分けて2つ。

 怯えるように警戒するか、戦いの勢いそのままに相手を睨み付けるかだ。


「ミャア、落ち着いて……。みんなも手を出しちゃダメだからね」


 正直に言うと、相手が悪い。

 勝てないわけじゃないけど、文字通り死闘になるだろう。

 今、勝ち目があっても、みんなが傷付くような戦いはさせたくない。


「ダイチ様?」


 聞き知った声を聞いて、俺は顔を上げた。

 1人の黒騎士が前に進み出る。

 フルフェイスの兜を脱ぐと、豊かな黒髪が広がった。

 同時に、氷の瞳とやや唇の厚い女性の顔が露わになる。


「ローデシア……。まさか君が来るなんて」

「はい。お久しぶりです、ダイチ様。お元気そうで安心しました」

「あ、ああ……。君も――――」


 にこやかに挨拶を交わす。

 暗黒騎士族の族長にして、魔王軍の実質№2。

 あのエヴノスに匹敵する実力を持ち主だ。


 事実ローデシアのジョブは【達人】。

 ソンチョーが持つ【剣豪】の上位互換だといえば、少しその実力の一端がわかるだろう。


 弱ったな。

 暗黒騎士だけならなんとかなったけど、ローデシアはまずい。

 彼女がその気になれば、ここにいる全員の首が飛ばすことすら容易い。


「――――ッ!」


 俺は思わず背筋を伸ばした。

 ローデシアによって、みんなの首が飛ばされるのを想像したからじゃない。

 何か俺の背中に向かって、ただならぬ怨念のようなものが向けられたような気がしたからだ。


「また女の人……」

「綺麗な人ですね」

「ふ、ふん! ミャアだって、いずれ……」


 後ろの3人は何を言っているんだ。


 ごほん……(閑話休題)。


「心配していたのですよ。突然――」

「待て、ローデシア」


 こっちに近づこうと、1歩踏み出したローデシアを止める。

 後ろの3人の殺気も気になるけど、目の前の暗黒騎士の出方がわからない以上、ローデシアも危険であることに代わりはない。


「君は何をしにきたんだ?」

「何って、それは――――」


 1体の暗黒騎士がローデシアに近づいてくる。

 その騎士が耳打ちした途端、ローデシアの表情が一変した。


 薄く笑みを浮かべていたのに、報告を聞いた瞬間、神妙な顔を浮かべたのだ。


 弱ったな。

 今のは別働隊の暗黒騎士だろう。

 おそらく森に転がったままの魔蛙族の死体を見つけたんだ。


「ダイチ様、1つお伺いしたいのですが」

「な、なんだ?」

「この先の森で、魔蛙族の遺体を発見しました。何か心当たりはありませんか?」


 やったのは、俺たちだ。

 そう白状することは簡単だ。

 けれど、その瞬間ローデシア――いや【達人】の刃が、俺たち全員の首を刎ねるだろう。


 俺は覚悟を決めた。


「俺だ。俺1人でやった!」


 断言する。


 俺の言葉に後ろでは動揺が広がった。


「だ、ダイチ様?」

「ダイチ様、急に何を?」

「あれはミャ――――もがもが」

「お嬢ちゃんは、ちょっと黙ってな」


 ミャアの口を塞いだのは、カーチャだ。

 何かしら察してくれたらしい。

 勘の良さは村一番だ。

 俺は心の中でカーチャに感謝した。


「後ろの人族や獣族は?」


 ローデシアは首を伸ばし、後ろの方を見る。


「彼らは関係ない。だから――――」

「なるほど。そうですか」


 直後、ローデシアの表情が破顔する。

 俺の首を飛ばすはずだった手は、俺の手を強く握った。




 さすがダイチ様です!!




 …………。


「へ?」


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


第二部「おてんば暗黒騎士の冒険(大嘘)」


面白い、ダイチのターンがやってきた、と思った方は、

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