第30話 さくせん みんながんばれ

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~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~



 暗黒大陸の大地の上に、大きな魔蛙族が大の字になって伸びていた。

 俺はそれを指差しながら、すっかり姿が変わったブラムゴンを睨む。


 一体どうしてそういう姿になったか、俺もわからない。

 推測だが、誰かに能力値が上昇するようなスキルを受けたのだろう。

 姿形はすっかりボスキャラという感じでも、俺がブラムゴンから逃げ出すことはない。

 後ろに控えるルナとステノ、チッタ、さらにたった今ドッドローを撃退したミャアも、変わり果てたブラムゴンに背を向けることはなかった。


「わかっただろう、ブラムゴン。お前たちを心配して言っているんだ。降参しろ」


「だまれぇぇぇぇぇぇえええ!!」


 ブラムゴンは一喝する。

 蛙の口から出た言葉とは思えない。

 まるで狼の遠吠えのようだった。


「調子に乗るなよ、大魔王! いや、ダイチ!! ドッドローを倒しただけでつけあがるな」


 そう言うと、ブラムゴンは不気味な声で鳴いた。

 さらに崖の下から魔蛙族が上ってくる。

 ざっと見て、総数500匹といったところだろう。


「なかなか壮観な眺めだな」

「どっちかというと気持ち悪いです」

「ルナに同意です」

「焼いて食ってもおいしくなさそうだしみゃ」

『ガウ……』


 500の魔蛙族を見ても、ルナたちの反応は変わらない。

 むしろ士気が上がっているような気がする。

 早く自分が得た力を試したくてしょうがないのだろう。


 だが、さすがに500の魔蛙族相手に対し、正面から突撃するのはまずい。


「ステノ……」

「はい」


 俺が合図すると、ステノは『気配遮断』を使う。

 そのまま俺たちは森の方へと逃げ出した。


「ブラムゴン様、ヤツら森の方へ逃げました」


 魔蛙族1匹がブラムゴンに報告する。

 おそらく『気配感知』のスキルを持つ魔蛙族だろう。

 ドッドローは一撃で倒れたが、あそこにいる魔蛙族は皆エリートだ。

 皆、俺が育成した魔族で、いくつか知った顔もいる。

 それ故に、あまり戦いたくないんだけどね。


 報告を聞いたブラムゴンは、ふんと鼻息を荒くした。


「森に逃げ込むつもりか! 逃がすか! 追え! 追うのだ!!」


 ブラムゴンの下知が下る。

 500匹の魔蛙族は大きく跳躍した。


 一方、俺はチッタの背中に乗り、森を目指す。

 風のように早いチッタの後ろで、ルナ、ステノ、ミャアが軽々と追いついていた。

 森に入り、俺たちは一旦カーチャや獣人たちと合流する。


「すぐ来るよ。皆、配置について」

「わかった」

「気合い入れるみゃ、お前たち!!」

「「「「応!!」」」」


 森の中に潜み、魔蛙族を迎え撃つ。


「森に逃げても無駄だ! 1人残らずあぶり出してやる!!」


 ブラムゴンの威勢のいい声が聞こえる。

 すると、魔蛙族は大きく跳躍した。

 どすん、と重々しい音を立てて、森に着地する。

 木の幹を押し倒し、重量があるものは大地すらめくり倒す。

 その下には、森に潜んでいた村人の姿もあった。


 踏みつぶされる村人の姿を見て、ブラムゴンは奇妙な笑い声を響かせる。


「げっげっげっげっげっげっげっ……。良い声で鳴くじゃないですか。ダイチ、あなたも踏みつぶして差し上げますよ」

「さて、それはどうかな、ブラムゴン」


 俺は口角を上げた。


「アバカム、トレジャー、今だ!!」


 俺は指示を出す。

 すかさずアバカムは動いた。



 【幻影解除】!!



 幻影系のスキルを解除するスキルを使用する。

 その瞬間、魔蛙族が踏み倒した木や村人の姿が消える。

 森だと思っていた場所が、まだ更地だったのだ。


「な、なんだ?」

「何が起こってる?」


 魔蛙族は動揺していた。

 そこにトレジャーのスキルが炸裂する。



 【落とし穴】!!



 その瞬間、魔蛙族の下に大きな穴ぼこができあがる。

 ひたすら深い、底のない穴だ。


「「「「「「ギャアアアアアアア!!」」」」」


 魔蛙族たちの口から次々と悲鳴が上がった。

 本来水を掻く手足を、空中でバタバタと動かしながら、闇の中へと消えていく。

 いくら跳躍力のある魔蛙族でも、この闇からの脱出は難しい。


「な、なんてことだ……」


 ブラムゴンの顔が真っ青になる。

 なんの戦果もまだ上げていないというのに、この【落とし穴】によって前方にいた魔蛙族50匹がいなくなったからだ。


「アバカム、トレジャー。よくやった!!」


 俺は兄弟に向かって、親指を立てた。

 2人はがっしりと兄弟同士で手を握り合い、嬉しそうにこちらを向く。

 だが、まだ戦いが終わったわけじゃない。


「かああああああああああああああ!!!!」


 大声が戦地に響き渡る。

 スキル【凍てつく波動】だ。

 一定範囲のスキルの効果を無力化する力を持っている。


 かなりのレアスキルだ。

 いわゆるボスキャラと言われる者しか、スキルは発現しないはず。


「覚えがあるぞ。そうか。あの老体で、海を渡ってきたんだな」


 俺は森の外にいる魔蛙族を睨んだ。


 そこにいたのは、真っ白な髭を生やした如何にも老齢といった魔蛙族だ。

 名前はバラムゴン。

 覚えている。

 魔蛙族の中で初めて俺が名前を付けた爺さんだ。


「助かりました、父上」

「何の……。さあ、行け。息子よ」

「ハッ!!」


 罠の心配をする必要がなくなった魔蛙族は、再び森の中に侵入してくる。


「罠を破られてしまいましたよ、ダイチ様」

「心配ないよ、ルナ。この戦いは最初から勝負が付いてるから」


 それに俺たちが仕掛けた罠は、落とし穴だけじゃない。


「さあ、迎え撃とう。大丈夫。俺たちなら勝てる」


 問題ない……。

 俺たちの戦いは、まだまだ始まったばかりだ。



 ◆◇◆◇◆



「はああああああああああ!!」


 裂帛の気合いを吐き出し、ソンチョーが飛び出していく。

 迎え討つは、自分よりも遥かに大きな魔蛙族だ。

 その魔蛙族が襲いかかってきた老人を見て、目を丸くする。


「馬鹿め! じじぃ、死に急ぎたいのか?」


 魔蛙族は口を開ける

 高速で撃ち出されたのは舌だ。

 魔蛙族はその跳躍力や単純な膂力が注目されがちな種族である。

 一方で、舌に鉄の城門ぐらいなら軽々と突き破るほどの貫通力があることは、あまり知られていない。


 老人の身体を貫くなど造作もないことだった。



 ズザアアアアアアアアァァァァァァァァッッッッッッッ!!



 時に城門すら破壊する舌が、見事に2枚に下ろされる。

 だが、斬ったのは舌だけではなかった。


「な、なんだと……!」


 魔蛙族の血が溢れる。

 直後、その巨躯が斜めにずれると、魔蛙族は絶命していた。


「ふん。またつまらぬものを斬ってしまったわい」


 ソンチョーは魔族の血が付いた片刃の剣を払う。

 神妙な顔で、慎重に鞘を収めた。


 だが、すぐにその顔は崩れる。


「イタタタタタタタタタタ……」


 ソンチョーは鞘に収めた剣を杖代わりにして、腰を曲げる。


「ぬぬぬ……。どんなにレベルアップしても、年にはかなわんな……」

「そうか。なら、死ね……。爺ぃ!!」

「ぬっ!!」


 殺気と気付いた時には遅かった。

 先ほどよりも速く、舌がソンチョーに向かって伸びていく。

 慌てて剣を抜いたが遅い。


「ダメじゃ!!」


 思わず悲鳴を上げる。

 だが、その舌がソンチョーの身体を貫くことはなかった。

 途中で弾かれたのだ。


「何者だ!!」


 慌てて新手の魔蛙族は舌を引っ込める。

 その時、舌の先に矢が刺さっていることに気づいた。


 魔蛙族はスキル【遠見】を使う。

 森の奥に、矢を構える女の姿を見つけた。


「か、カーチャ!!」


 魔蛙族とともに、ソンチョーもまた驚く。


 そのカーチャはすでに2射目を用意し、魔蛙族に狙いを付けていた。

 ふん、と鼻息を荒くすると、カーチャは口を開く。


「爺ぃが無理をするんじゃないよ」

「何を言う! 今、無理せずして――――イタタタタタタタ……」

「言わんこっちゃない……。あんたは1度退きな」

「待て待て。この魔蛙族はどうする。結構、強いぞ、こやつ」

「心配しなくていい」



 そいつはあたしがやるよ。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


ダイチの代わりに突っ込むけど、

ソンチョー、その言葉はどこで覚えたんや。


面白い、ソンチョーある意味キャラがぶれすぎ、と思った方は、

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