第4章

第24話 じんが なかまにくわわった

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読んで下さった方ありがとうございます。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


 獣人族の住み処から、俺は村に戻ってきた。

 俺の顔を見るなり、村人たちの顔が綻ぶ。

 手を振る俺を見て、歓声が上がった。


「大魔王様が戻ってきたぞ」

「ご無事だ」

「ルナもステノも元気だぞ」


 わらわらと村人たちが、それぞれの作業の手を止め集まってくる。

 するとソンチョーが進み出てきた。

 すっかり腰もよくなったらしい。

 しゃんと背筋を伸ばし、俺と向き合った。


「お帰りをお待ちしておりました、ダイチ様。して、首尾は――――と、尋ねるまでもないようですな」


 ソンチョーは俺の後ろを覗き込む。

 そこにいたのは、獣人族だった。

 100人以上いるが、これでも住み処にいる獣人の半分である。

 若手がほとんどで、戦闘や狩りが得意なメンツを中心に集めてきた。

 それを率いてやってきたのが、ミャアだ。


「お前が村のソンチョーというヤツか。ミャアは、ミャアだ。よろしくな、ソンチョー」

「彼女は獣人族の長代行だ。若いけど、強さとその責任感は俺が保証する」

「ぬほほほほ。その若さで、獣人族の長代行とは……。後で、その耳をさわらせてもらっても――――」


 ゴンッ!!


 思いっきりソンチョーの頭を叩いたのは、カーチャだった。

 こっちも元気そうだ。


「な、なんみゃ? この変態ソンチョーは?」


 思わぬ挨拶に、ミャアは戸惑っていた。

 うん。マジでそれについてはごめん。

 全くミャジィといい、ソンチョーといい、なんで種族代表にはちょっとおかしな人材がいるのだろうか。


「ごめんな、ミャア」

「べ、別にダイチが謝ることじゃないみゃ。うちにも似たようなヤツいるし」


 ミャアは溜息を吐く。

 若いのに、ミャアも苦労してるんだな。

 わかるぞ、その気持ち。


 俺は思わず「うんうん」と頷いた。


「それに耳を触って良いのは、ダイチだけみゃ」


 それってどういうこと?


「これで戦力が揃いましたね、ダイチ様」


 ルナは嬉しそうに微笑む。

 その通りだ。

 対ブラムゴン戦に向けて、1番のネックだった攻撃力が解決した。

 ここに連れてきた獣人にはすでに名前を付けている。

 獣人のほとんどが戦闘に特化したスキルやジョブを持っていたが、その中でも選りすぐりの人材を集めてきたつもりだ。


「いよいよあの大蛙と戦えるのかい。腕がなるねぇ」


 某世紀末の復讐者のように指をボキボキ鳴らしたのはカーチャだった。

 不敵な笑みと声を上げて、赤く目を光らせる。

 他の村人もやる気満々だ。

 これまで受けてきた仕打ちを仕返すというよりは、今の自分の能力を解放したくてウズウズしている様子だった


「まあその前に、みんなにもう1人紹介しておきたいヤツがいるんだ」


 皆の頭に「?」マークが付く。

 俺は無視して、魂に訴えかけた。



 【言霊ネイムド】――――ジン!!



 …………。

 しんと静まり返った。

 あれ?

 風の精霊ジンが俺の呼びかけに応答しない。

 なんでだ?


「おい。ジン! 出てこいよ。ドリー、ジン寝てるんじゃない? 起こして!」

『ジン! 出てきなさい』

『いやだ。オレ様はまだこいつの軍門に降ったわけじゃねぇぞ』


 ぐ、軍門――ってなんだ?

 負けも勝つもないだろ。

 呪いを解いただけなんだから。


「おい! ジン!! ダイチが困ってるみゃ! 早く出てこいみゃあ!!」

『あ! ミャアさん! は、はい! 今出て行きます!!』


 ジンは現れた。

 アラビアンナイトに出てくるような、太っちょで長い髭を生やした気のよさそうなおっさんという感じからはかけ離れている。

 ちなみに声も山寺〇一さんではない。


 筋骨隆々だが、子どものように小柄な男だ。

 元気の良さは逆立った頭に現れていて、暴風を纏って俺たちの前に出現する。


「風?」

「もしかして、風の精霊様の封印を」


 村人たちは驚く。

 ジンは「へへっ」と鼻の下をこすると、ぺろりと舌を出した。


「そうだ。オレ様の名前はジン。風の精霊様だ。驚いたか!!」


 宙を浮いたジンは、集まった村人や獣人たちを見下す。


「こら! ジン!! ダイチの言うことを聞くみゃあ!」


 ミャアはジンを叱る。


「ミャアさんの言うことでもそれは聞けないね。オレ様は自分より弱いヤツに興味はねぇ」


 ジンは全く言うことを聞かない。

 一方でミャアに対しては、特別な想いを抱いているみたいだ。

 恋心とかではなく、どうやらミャアが放った正拳突きがかなり効いたらしい。

 以来、ジンはミャアの言うことだけは聞くようになった。


「いいのか、ダイチ! あんなこと言われて!!」

「無理強いはしたくないよ。精霊だって、この暗黒大陸に住む住人だからね。それに制御不能ってわけじゃない。ミャアの言うことなら聞くみたいだし。今、それでいいじゃないかな?」

「ダイチがそういうならいいみゃが……」

「ミャアの使い魔ができたと思えばいいよ」

「みゃみゃ! 使い魔?」


 ミャアは耳と尻尾を立てる。

 その響きが気に入ったらしい。

 精霊を使い魔にすることに、乗り気になってくれた。


「じゃあ、早速ミャアに命令してもらおうかな」

「何をみゃ?」


 俺は空に浮かぶ分厚い雲を指差した。


「雲を払ってほしいんだ。今のままじゃ作物に十分な日光を与えることができないからね」

「なるほどみゃ! ジン、空の雲を払ってくれみゃ!!」

「わかった。任せろ!!」


 ジンは凄まじい速度で、空へと上昇していく。

 雲の中に入った直後、空から声が振ってきた。


「おらあああああああああああああ!!」


 突然、鋭い強風が巻き起こる。

 風の剣はたちまち雲を、白い生クリームケーキのように切り裂いた。

 衝撃波が巻き起こると、雲を霧散させる。


 まるでドーナツのように空にポッカリと穴が空いた。

 久方に見た青い空を見て、村人たちは息を飲んだ。

 続いて、歓声が鳴り響く。あるいはむせび泣き、泣き崩れる村人もいた。


「奇跡じゃ! 奇跡じゃ!!」

「あー。ありがたやありがたや」

「すげぇ! 空の向こうって青かったのか」

「まぶしい。そして温かい……」


 村人たちの反応は様々だったが、ジン、そしてそれを連れ来た俺に惜しみない賛辞が送られた。


 俺も久しぶりの日差しに目を細める。

 太陽の光ってこんなにも温かかったんだな。


「ポカポカして気持ちいいみゃあ。なんだか眠くなってきたみゃ」


 ミャアは大きな欠伸をする。

 確かに、それは俺も同感だ。


 でも、気になるのは雲が完全に取り払われたというわけではないことだ。

 雲が取り払われたのは、村の上だけ。

 他は相変わらず、闇に包まれている。


 それについて、ミャアからジンに質問してもらった。


「ミャアさん、すまねぇ。今のオレ様は最盛期の3割以下の力しか出せねぇんだ。今はあの穴を維持するのが精一杯だな」


 ジンが珍しく頭を下げる。


 なるほど。

 ドリーと同じで、ジンも力を発揮できていないのか。


「ジン……。君にも名前を与えてあげるよ」

「オレ様に名前だと? へん! 誰がお前なんかに」

「俺は与えるだけ。付けてもらうのは、ミャアだ」

「え? ミャアが?」


 いきなり俺に振られたミャアは、ピンと尻尾を立てた。


「ミャアさんが名前を付けてもらうなら、有り難い」


 ホントにジンはミャアのことを尊敬してるんだな。

 ある意味、扱いやすいかも。


「ミャア……。何にする?」

「うーん。難しいみゃあ。人に名前を送るのは、初めてで」


 わかるわかる。


「ジンを見て、ありのまま頭に浮かんだ名前でいいと思うよ」

「それなら、ウィンドがいいみゃ」


 ウィンドか。

 こっちの言葉でも、俺の世界での言葉でも「風」だし。

 わかりやすくていいか。


「ウィンドでどうかみゃ、ジン?」

「おお! なかなかかっちょいい名前じゃないか。気に入ったぜ」


 ジン――改めウィンドは空中で小躍りした。

 安直だけど、ウィンドからすればミャアに付けてもらったことが嬉しいんだろ。


 俺は早速ジンにウィンドの名前を付ける。


 【言霊ネイムド】――――ウィンド!


 直後、ステータスが浮かび上がった。



  名前  : ウィンド

 レベル  : 1/5

    力 : ??

   魔力 : ??

   体力 : ??

  素早さ : ??

  耐久力 : ??


 ジョブ  : 風の精霊


 スキル  : 風の癒やしLV1



 ドリーとだいぶ似てるな。

 おそらくイベントをクリアしたことによって、レベルが上がるだろう。

 スキル『風の癒やし』は初めて見るな。

 名前からして、自動回復リジェネ系か、あるいは全体回復系か。


 何にしても、これはでかい。

 てか、こいつ如何にも戦闘系なのに支援系スキルなのかよ。


 まあいいや。

 これで俄然ブラムゴン戦は有利になってきた。

 後は、あいつらがここに攻めてくるまで、育成しまくるだけ。


 ここからが俺の本領発揮というわけだ。


 俺はニヤリと笑った。




~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


ダイチ「ジンってもしかして、え――――――」


面白い、ジンはMではと思った方、

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