第23話 けっこん しますか?

 ミャアの拳をまともに喰らったジンは怯む。

 洞窟に渦巻いていた暴風がふと止んだ。


「いいぞ! ミャア!!」

「みゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃ!!」


 おお! 連打連打。

 すげぇ連打だ。

 凄まじい回転率でミャアはジンに拳を叩き込む。

 これなら世界も狙えるぞ、ミャア!


「これでおしまいみゃあ!!」


 ミャアは拳を振り上げた。

 大きく振りかぶり、フィニッシュブローを炸裂させる。

 スキルでもなんでもないけど、ジンは思いっきり吹き飛んだ。


「やったみゃ!!」

「いや――――」


 まだだ。


 吹き飛ばされたジンはいとも容易く反動を殺す。

 ふわりと空中で回転した後、地面に降り立った。


 もしかして、あの凄まじい攻撃で無傷なのかよ。

 あいつは郭●皇か!


 とはいえ、懸念がなかったわけじゃない。

 ミャアの力は強いといっても、まだレベル1だ。

 ジョブの補正があるとはいえ、ミャアはまだ女の子。

 素の獣人の力とさほど変わらない。


 呪いを受けて暴走した風の精霊には、1歩も2歩も及ばないのが現実だ。


『うがあああああああああ!!』


 ジンは吠える。

 それはまるで悲しい悲鳴のようだ。


 暴風が唸り、再び俺とミャアに襲いかかった。


「みゃああああああ!!」

「ミャア!!」


 近くにいたミャアが耐えきれず吹き飛ばされる。

 俺は走る。ミャアが岩壁に叩きつけられる前に間に入った。


 いっっっっっっつぅぅ!!


 さすがに骨をやったかもしれない。

 だが、これぐらいならルナに治してもらえるだろう。


「ダイチ、ごめん。ミャアをかばって……」

「大丈夫。これぐらいなら――――いつつつつつ」


 弱ったな。

 ちょっと頑張り過ぎたか。

 思ったよりも深傷かもしれない。


 その間にも、ジンが迫ってくる。

 触れるだけでバラバラになりそうな暴風を纏ってだ。


 すると、俺とジンの間にミャアが割って入る。

 大きく手を広げた。


「ダイチは傷つけさせはしないみゃ!」

「ミャア、何を言って――――」

「だって! ダイチは!!」



 ミャアのご主人様だからみゃああああああああ!!



 え? ええ??

 どうして、そうなるの?


 いやいや、驚いている場合じゃない。

 ミャアの「ご主人様」発言を聞いても、ジンの歩みは止まらなかった。

 風の精霊の割には、鉄の心臓を持っているらしい。

 今の言葉に動揺しない精神を少し俺に分けてほしいものだ。



「それはダメ……。ダイチ様は私の大魔王様」



 突然聞こえてきた声に、ひやりと背筋が凍った。

 現れたのは、ステノだ。

 うまい!

 『気配遮断』で隠れていたのだろう。

 ステノはジンの側に現れた。


 ステノは人族でノージョブだ。

 けれど、ミャアと同等、いやそれ以上の基礎能力を持っている。

 ジンが纏った暴風を物ともせず踏み込むと、石のナイフを振るった。

 ジンの身体から赤黒い血が迸る。

 ダメージは些少といったところか。

 だが、一瞬だがジンの暴風が緩んだ。


 そこに現れたのは、ステノの影に隠れていたルナだった。


「ええええええええええええいいいいぃぃ!!」


 ルナの手にはすでに魔力が握られている。

 ややふらつき、体勢不十分のジンに叩きつけた。



 【浄化】!!



 ルナのスキルが大きく発光する。


『おおおおおおおおおおおおおおお!!』


 ジンは吠える。

 纏っていた黒い影が、みるみる光に食われていった。

 やがて全て食らい尽くすと、ジンから呪いの気配が消滅した。


 ジンは一瞬少年のような屈託のない笑顔を見せる。


「ありがと、よ」


 そのままバタリと倒れてしまった。

 ドリーにその様子を確認してもらう。


『浄化完了です。お見事です!』

「よっしゃ! よくやったな、ル――――」


 俺が褒める前にルナは俺に飛び込んできた。


「良かった……。ダイチ様が無事で本当によかった」


 ルナの目に涙が光る。

 どうやらかなり心配させてしまったらしい。


「ごめんな、ルナ。心配かけて……。ただすまん」

「いえ。謝らなくてもいいんです。ダイチ様が無事であれば――」

「いや、そうじゃなくて……。今、俺――――肋が折れてて」


 やば……。痛みで意識が――――。


「キャアアアアアア!!」

「ダイチ様! しっかり!!」

「ダイチ、目を覚ますみゃあ!!」


 遠くの方でルナとステノ、ミャアの声が聞こえる。


 3人とも元気そうだ。

 良かったな、と思いながら、俺の意識は暗転した。



 ◆◇◆◇◆



「俺とミャアを結婚させようとしていたぁ!!」


 獣人たちの住み処に戻って、俺はとんでもない事実を知った。

 それを白状したのは、ミャジィだ。


「だってのぅ。大魔王様と獣人の間に既成事実を作ることができれば、獣人安泰じゃろ」


 それって政略結婚じゃないか。

 ミャジィたち、そんなことを考えていたのかよ。

 獣人ってもっと脳筋なイメージがあったけど、全く違うらしい。

 まあ、動物の中にはカラスとか、人間よりもしたたかで強欲な動物もいるしな。


「じゃあ、最初から俺に協力する気はあったのか?」

「まあの。大魔王様にお近づきになれるなんて、滅多にないし。それが困っているというなら、恩を売るのは当然じゃろう」

「なら、なんで俺たちを嘆きの洞窟に行かせた?」

「それはそのぅ、あれじゃよ。あれ……」


 ミャジィはポッと顔を赤くする。

 なんだか照れながら、くねくねと身体を動かし始めた。

 若干気持ち悪い。いや、超気持ち悪い。


「暗い洞窟、2人の男女、生死を伴う危機……。これだけシチュエーションが揃ってて、何もないなんてことはないじゃろ、てへ!」


 ミャジィはマスコット的なポーズを取る。

 だが、全然可愛くない。

 すると、横で殺気が膨れ上がった。


「ダイチ様、殴っていいですか?」


 ルナはさも当然とばかりに、拳を握れば。


「ダイチ様、斬っていいですか?」


 ステノは石のナイフを掲げた。


 マジだ。

 だって、2人とも目に光沢はないんだもん。

 気持ちはわかるけど、殺しちゃいかん。

 まあ、半殺しぐらいならいいだろ。


「いや、大魔王殿! そこは止めるべきじゃろ! やめて! わしは可愛い――――ぎゃあああああああああああ!!」


 成仏しろ、ミャジィ。

 ってまだ死んでないか。

 ルナ、後で回復させてやれよ。


 俺は部屋の角に立ったミャアの方に視線を向ける。

 喧騒からなるべく離れ、何か考えているように見えた。


「ミャアは怒らなくていいのか? ミャジィの突拍子もない提案で、トラウマになってる洞窟に行かされたんだぞ」


 俺が声をかけると、ミャアは「みゃ!」と耳と尻尾を立てる。

 ちょっと頬を赤らめながら、ようやく発言した。


「みゃ、ミャアは別にいいみゃ。嘆きの洞窟の奥に辿り着いたし」


 ああ。そうか。

 ミャア自身は満足してるんだ。

 元々洞窟の試練から逃げ出したことが、発端だったからな。

 それが克服できて、ミャアとしては納得しているんだろ。


「これで大手を振って、獣人の長に名乗り出ることができるな」

「うん……。それにみゃ、ダイチ」

「ん?」

「ミャア、別にダイチとの結婚を――――」


「「ダメです!!」」


 ルナとステノの声が見事に重なった。

 その圧力を受けて、ミャアは「みゃっ!」と悲鳴を上げる。


「ダイチ様と結婚なんて許しません」

「そ、そうです。結婚反対です」


「「ダイチ様と結婚したければ、わたしたち倒してからにして下さい!」」


 勢いよく「結婚反対」を掲げるが、ミャアも負けていない。


「なんで2人に結婚反対されなきゃダメみゃ! ダイチはミャアのご主人様みゃ!!」

「そんなの認めません」

「そう! 大魔王様はわた――――み、みんなの大魔王様です!!」


 3人の口喧嘩が始まった。


「あわわわわ……。3人とも落ち着いて」


「ダイチ様、黙ってて!」

「ダイチ様、黙ってて下さい」

「ダイチは、黙るみゃあ!」


 声を揃える。

 すごい剣幕に、さすがの裏ボスの俺でも太刀打ちできなかった。


「ほっほっほっ! さすがは大魔王様。すみにおけませんな」

「生きてのか、ミャジィ」

「ほっほっほっ! かろうじて」


 白い髭を真っ赤にしながら、ミャジィはピンピンしていた。

 この爺さん、老いぼれのように見えて、あと100歳は生きるんじゃなかろうか。


 すったもんだはあったが、こうして俺たちは獣人たちの協力を取り付けることができたのだった。



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


某ゲームはビアンカ一択でした(異論は認める)


面白い、私はフローラ派だ、と思った方は、

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