第21話 ゆうきを ためされる どうくつ じゃ

いつもお読みいただきありがとうございます。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~



「みゃ……? みゃあああああああああああ!!」


 ミャアは突然、悲鳴を上げた。

 なんか顔がすっごく赤くなっていく。

 うん? 俺、なんか変なことを言っただろうか。


 俺は今一度、自分の言動を思い出す。



『ミャア! 君がほしい…………!!』



 ド〇ンかよ!

 やっば! 今のはまずい。

 てか、普通にプロポーズみたいになったじゃないか。



「「ダイチ様ヽヽヽヽ……」」



 ひぃ! ひぃいいい!!


 ルナとステノの目が怖い。

 今にも怪光線を発射せんばかりに赤く光っている。


 と、とにかく誤解を解かねば。


「い、いや、その…………。『君がほしい』というのはだな。君の力がヽヽほしいのであって、君自身をお嫁にほしいというわけではなく」

「あ? へ? あ、そそそそそんなことだろうとは思ってたみゃあ。ミャアはわかってたみゃあ」


 みゃあって語尾につくのか。

 なかなか新しい。

 自分の名前が主語なのも、個人的にポイントが高いぞ。


「そこまでだ、ミャア」


 獣人族たちの住み処から出てきたのは、白い毛の猫族だった。

 おそらく獣人族の長だろう。

 歩哨に立っていた犬獣族が膝を折った。


 ミャアも爪を引っ込めると、同じく膝を折り頭を垂れる。


「大魔王殿、どうぞ中へ」


 そう言って、長は俺たちを住み処にあっさりと招くのだった。



 ◆◇◆◇◆



 住み処の中は思ったよりも広く複雑な空間になっていた。

 大きな空間から枝のようにトンネルが延びている。

 それぞれ地上への脱出路に繋がっているそうだ。

 そのトンネルから横に伸びた道には、獣人族の家があって、さらに深く延びていた。


 なるほど。これは迷路だ。

 脱出路もあちこちに確保されているみたいだし、これでは獣人族を捕まえることはできないだろう。

 こうやって、獣人族は魔族から身を守ってきたのだ。


 獣人族の長の家に招かれると、ミャアと数人の獣人たちが同席した上で話し合いとなった。


 目的を尋ねられた俺は、ここまでの経緯を話し、改めて獣人族の助力を要請する。


「なるほど。わかりました」


 すべての話を聞き終えた長は、ぺしりと膝を叩いた。


「まさか大魔王様が、魔族と敵対するとは……」

「敵対とは少し違うかな。俺は魔族も人族も、そして獣人族も仲良くしてほしいだけさ」

「ほっほっほっ……。変わったお人ですな」

「大魔王なんでね」

「わかりました」

「では――――」

「落ち着いて下され。わかったというのは、あなたの話を理解できたというだけの意味です」


 ミャジィと名乗った長は、白くモフモフとなった前髪の向こうで目を光らせた。

 威嚇したつもりだろうが、それぐらいであっさり引き下がる俺じゃない。

 恫喝の類いは、魔王城にいた時、散々受けていた。

 それと比べれば、ミャジィの眼光はまさに猫に睨まれた程度だ。


 俺は落ち着きを払い、尋ねた。


「どういうことでしょうか、ミャジィさん」

「逆にお伺いしても宜しいでしょうか、大魔王様?」

「どうぞ……」


 ミャジィは髭をさすった後、質問した。


「あなたのお話が本当だという証拠はありますか?」

「大魔王様を疑っているのですか?」

「ひどい! 大魔王様も、私たちも――――」


 横で話を聞いていたルナとステノが、一斉に抗議する。

 だが、それを止めたのはミャジィではなく、俺自身だった。


「ブラムゴンの屋敷に行って下さい。用心棒の首無し騎士が討たれているはずです」

「ブラムゴンと一緒に引き揚げたのではないですかな?」


 ミャジィさんはなかなか俺たちを信用してくれない。

 このままでは議論は平行線だ。

 おそらく、ここまで頑なに俺たちの意見を聞こうとしないのは、何か理由があるのだろう。


「では、どうやったら俺の話を信じてくれますか?」


 その言葉を待っていた、とばかりにミャジィさんの目がまた光った。


「この住み処の近くに、嘆きの洞窟というものがございます」


 なんかどっかのRPGにありそうな名前だな。

 いや、あれは盾の名前だっけ。


「その最奥に行き、戻ってくることができれば、お話を信じましょう」

「ミャジィ! 人間に獣人族の試練を与えるのかみゃあ!!」


 俺が言う前に立ち上がったのは、ミャアだった。

 ふー、とまさに猫のように息を吐き出している。

 一応豹だけどな……。


「試練?」

「嘆きの洞窟は次代の長になる者を試す洞窟なのです」

「そんな場所に、俺を?」

「ええ……。ですから、ミャア。お前も一緒に行って上げなさい」

「な、なんでミャアが、こいつと一緒に!」


 残念ながらミャアの猛抗議は実ることはなく、俺はミャアと一緒に試練に望むことになった。



 ◆◇◆◇◆



 嘆きの洞窟は、住み処からほど近い場所にあった。

 一見して普通の洞窟で、中に入ってもその印象は変わらない。

 ただ暗く、ひたすら1本道が続くだけの洞窟だった。


「なんでミャアがこんなヤツと!!」


 ミャアは何度も聞いた悪態を洞窟の中で響かせる。


「ねぇ、ミャア」

「なんみゃあ? 人間」

「あのさ。なんで俺と離れて歩くの?」


 ミャアとの距離は、3メートルほど空いていた。


「なんでお前と並んで歩かないといけないみゃあ!」

「そ、それもそうだね。でも、どうして俺の後ろを歩くの? 一応案内役なんだよね」

「案内役? はっ! 違うみゃあ。ミャアは監視役みゃあ。お前が逃げないように退路を断ってるみゃあ!」


 ミャアはふんぞり返る。

 一応理には叶ってるけど、よく見るとミャアの足が震えていた。


「ミャア、もしかして怖いの?」

「ななななななななななな何を言ってるみゃあ! みゃ、ミャアに怖いものなんて」

「ミャア……。後ろに人の影が!」

「はん! そんな古典的な引っかけで怖がるミャアじゃないみゃあ」


 うぉぉぉおおおおおおおおおんんんん……。


 その時だった。

 洞窟の奥からうめき声のようなものが聞こえる。

 まさに名前の如く、人の嘆きのようだった。


「みゃっ!!」


 気が付いた時には、ミャアは俺の後ろに隠れていた。

 ガタガタと全身を震わせている。

 今にも涙が落ちてきそうなほど、目を腫らしていた。


「ミャア、君ってやっぱり……」

「ち、ちがうみゃあ! こ、これは……!!」


 ミャアは慌てて俺から飛び退る。

 けれど、さっきより距離が縮まっていた。


 やっぱり怖いんだな。


「大丈夫。今のは風の音だよ。幽霊なんかじゃないから」


 多分この洞窟の奥は地上のどこかと繋がっているのだろう。


「行こう、ミャア」

「ま、待つみゃあ」

「どうしたの?」

「そ、そのぅ」

「?」

「う、動けないみゃあ」

「え?」

「腰が抜けて動けないみゃあ」


 ミャアはすとんと尻餅を付く。

 弱ったな。これは本格的に怯えてるぞ。

 仕方ない。


「ミャア……」


 俺は手を差しだした。


「負ぶってあげるよ」

「負ぶる? そ、そんなことをしなくても、ミャアは……」


 無理矢理立ち上がろうとするが、やはりダメだった。

 どうやら全然力が入らないらしい。


「無理をするなって」

「いやみゃあ! 先に行きたいなら、お前が先に行けみゃあ」

「ミャアをここに置いておく方が心配だよ」

「え?」


 ミャアは呆然と俺の方を見つめる。


「それにミャアは俺の監視役なんだろ? だから、しっかり見届けて、ミャジィさんに伝えてもらわないと。俺が洞窟の奥へ行ったってね」


 俺は背中を差し出すと、ミャアはついに観念し、負ぶさった。


 ムニュ……。


 その瞬間柔らかいものが、俺の背中に当たった。

 思わず俺は「おふっ」と変な声を上げてしまう。


「どうしたのかみゃあ? 顔が赤いぞ、お前」

「な、なんでもないよ」


 出会った時。

 ビキニみたいな服を着た姿を見た時からわかってたけど、予想以上だ。

 ミャアの胸って、結構大きい……。


「ほら、早く行くみゃあ」

「う、うん。わかったから。あまり動かないで」

「みゃ?」


 ミャアってば奔放すぎるだろ。

 いや、気付かれると、マジで殺されるかもだけど……。


 俺はミャアを担いだまま、ゆっくり洞窟の奥へと向かう。



 ひきかえせ…………。



 不意に声が聞こえた。



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


ダイチ「アイテム増殖とかできるかな……」


面白い、それはバグ技だと気付いた読者は、

是非作品フォロー、レビュー、コメント、応援よろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る