インターバル 白沢木冴子

 私は後悔などしていない。


 金城恭一を殺したことも、久坂瑠璃子を殺したことも、安城早苗のことも。唯一、柳原士郎のことだけは今でも夢に見る。彼は私の人生を妨害しなかった。にも関わらず殺してしまったからだ。


 普通の人間であったら、良心の呵責でどうにかなってしまうかもしれない。そもそも普通のひとは人殺しなどしないだろう。そういう意味でも、もしかしたら私は選ばれた人間なのかもしれない。


 金城恭一は死んで当然だと思っている。彼は私の弟、海堂達夫を殺したのだ。当然の報いだ。


 両親が離婚したのは私が十二歳の時だった。弟は母について行き、私は父についていった。それからたまに二人だけで会っていた。


 私は父のことが嫌いだった。癇癪持ちで横柄で、それでいて自分はなんでもできると思い込んでいる。そんな人だから、母に離婚を切り出されたときは激高していた。暴力も振るった。それがトドメになり離婚は成立した。


 父と一緒なのは嫌だったし、達夫と離れることも嫌だった。当時から達夫のことはなによりも大事だった。しかし十二歳という年齢では、自分の力ではどうすることもできなかった。


 そんな私が達夫を男として見始めたのは十五のときだった。


 私は達夫を愛していた。そして達夫も私を愛してくれていた。だがそれが禁断の恋であることは十分に理解していた。そう、お互いに。


 達夫が死んだと知った直後は悲しさと切なさで胸が張り裂けるかと思った。だが達夫が自殺をするような男でないことはわかっていた。だから父の名前を使っていろいろと調べた。ときには色仕掛けを使った。そして金城恭一に行き着いた。正確には金城恭一とその仲間たちだ。


 本当ならばもっと上手くやれるはずだった。金城恭一並びにその仲間たちをじりじりと時間をかけて追い詰めてやりたかった。彼らの生活ルーティンを把握し、事故に見せかけるのが計画だった。その一環としてあのペンションに訪れた。幡辺浩二が恭一の弟だと知ったからだ。


 あのペンションで恭一を見たときは身震いした。眼の前に天使が現れた気さえした。金城恭一を天へを誘う、目のつり上がった天使だった。


 本当はやるべきでないとわかっていた。計画をしっかり練らなければ、全員を殺すことができないからだ。


 しかし衝動を抑えることができなかった。


 トリックなど考えている時間はなかった。ナチュラルに、ポピュラーに殺すしか道はなかった。最初は大雑把でも構わない。推理は自分がすればいいからだ。その後、適切な人間を犯人に仕立て上げればいいだけの話だ。探偵なんてヤクザな商売についたのだって、こういうときに威力を発揮させたかったからだ。


 金城恭一を殺したことで、私は自信をつけた。


 殺す自信、探偵として振る舞い犯人を捏造する自信だ。


 その自信があったから、金城以外の男たちも殺した。何十年もかかったが、私は復讐を果たしたのだ。


 終わったあとは爽快感があった。アイツらを殺してやったという快感は非常に耽美だった。間違いだなんて思わない。間違っていたらこんな気分には絶対になれない。


 だが最近になって気付いたことがある。こんな回りくどいことをする必要があったのかどうか、だ。


 憎い気持ちはもちろんあった。だが、私が本当にすべきなのは復讐だったのか。


 真にやらねばならなかったのは、達夫を一人にしないことではないか。


「結果がすべてだ」と声を大きくした人が言う。けれどその結果が終着点と同意義ならば、人が生きていること自体が無意味だ。死という結果が見えているのに結果主義の奴隷が生きているのはなぜなのか。彼らは死を結果として見ていないからだ。なぜ見ないのか。見ていないのではなく見ようとしないのだ。都合が悪いものを見ようとしない、だから見えない。


 私は違う。その結論に至ったのだから。


 彼らと同じ世界で生きるのは窮屈だ。私は私であって彼らではない。


 決断するまでもない。自分の結末は自分で決める。自分が納得した形を結果にしたいからだ。


 誰に左右されない、これが私という人間の軌跡だ。

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