三日目・1

 心地が良いとは言えない寝起きだった。酒は残っていないが、不安はまだ胸に残っていた。きっとすべてが解決しない限りは解消されない。


 時刻は八時だった。昨晩十二時を過ぎ、酒を飲んだ割には早起きだ。


 身支度を整えて部屋を出ると、一階から金切り声が聞こえてきた。なにごとかと、一段とばしで降りていくと、ゆかりがカウンターの前で喚き散らしているところだった。


「もしかしたら一人で助けを呼びに行ったかもしれないでしょ! 早く追いかけてよ!」

「交代でカウンターで見張っていますから間違いなく外には出ていません。お風呂にもトイレにもいらっしゃいませんでした」

「じゃあ他にどこにいるっていうのよ!」

「まず落ち着いてください。起床時にはもういなかったんですよね?」

「そうよ! だから探してって言ってるんじゃない!」


 対応するコウちゃんに非はなさそうだが、ゆかりの剣幕に押されて縮こまっていた。話から察するに士郎がいなくなったのだとわかった。話しかけるかどうするか迷ったが、自分にできることがあるならば手伝わなければという義務感が顔を出した。


「コウちゃんどうしたの?」

「ああケイゴか。朝起きたら士郎さんがいないって言われたんだが、一階には降りてきてないんだよ。二階にいると思うんだけどトイレとかバルコニー見てきてくれないか」

「了解」と背を向けて階段を駆け上がった。コウちゃんをあのままにはしておけない。早く見つけ出してゆかりさんをなだめてもらわなければいけない。


 二階のトイレには誰も入っていなかった。そもそも俺も朝トイレに行った。一つしかない大便は空いていたからトイレでないことはわかっていた。


 次いで遊戯室。室内にいないことを確認してバルコニーへ。雪は降っていなかったが風が強い。頬に当たる風に肌を切られるかと思うほどに冷たかった。バルコニー用のスリッパを履いて外に出る。見渡す限りの雪景色。だが感動などとは程遠く、行く手を阻む白い壁にしか見えなかった。


 そんなことはないだろうとは思いながらも、バルコニーから駐車場や道路を見下ろした。士郎の車はちゃんとある。人が出ていった痕跡などもない。当たり前だが外部からのタイヤ痕もなさそうだ。


 目端になにかが映り込む。白の中にある、明らかな違和感。視線を下に向けるとなにかがそこにあった。この距離からでもそれがわかる。脱ぎかけの赤いセーター、スネのあたりまっで下ろされている深い色のジーンズ。ほぼ下着姿だったが、その顔を見間違えることはないだろう。雪の中には柳原士郎が一本の棒のような姿で埋まっていた。

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