黒い仔山羊と酔った金糸雀
だからね、あたしが独り身で誰に迷惑かけた事あるか? 被害
全力で謝る。謝っても許してくれないかも知れないけど、加害の自覚が無いので謝るのが限界だ。
土下座もあるよねー。
でも土下座って、やってみたら楽なんだよねー。ただ土下座ポーズでごめんなさい!って言うだけだから、中途半端に謝って終わらせようとするよりも、よっぽど楽。そもそも、謝罪を要求されてる時点で劣勢なんだから、その辺見極め大事よね……。
カラン、とグラスの中の氷が音を立てる。
空いたグラスに白ワインを注ぐ。
加水されて飲みやすくなるから、買いやすい値段の白ワインも美味しく頂けるのよ。
なのにさ、ワイン通を自称する同僚の煩い事よ。あり得ないとか味と香りが云々と、マジ煩い。
あたしはただ、そのお酒を美味しく呑みたいだけなのに、聞いてもいない講釈垂れるんだ。はいはい、ご高説ごもっともって聞き流すと、大体あの娘、言ってやったって顔して大人しくなる。もはやルーティーンだな。
だからこそ、家呑みの醍醐味はなんと言っても雑音が無い、という一点よね。何をどう飲もうと、何をどう食べようと、なんかもうへべれけになっても、煩い雑音が無いという一点において、酒好きは家呑みよ。
異論は……いっぱいありそう。ま、異論しかないよね。
そんな常識人の皆さんに聞きたい。
三十
さてと。オッケー、あたし酔ってる。うん、分かってる。
でだ。
独り暮らしの
ちらっと玄関の方見ると、うん、ちゃんと
きゅーっとグラスを傾けながら、酔眼で美男児を見据える。
ウェーブの掛かった艶のある黒髪を灰白色の二つの大きなバネッタで押さえつけている。漏れた前髪がパタリと額に掛かっているところが超キュート。緑がかった黒い瞳はテーブル上のおつまみの、どれが美味しいのか探るように見回している。テンションが上がってるのか、
視線を下げると、白いYシャツに赤いリボンタイとか、素敵過ぎんだろ。しかもベストとか。お仕着せじゃなくてあつらえね。無駄なシワの出ない佇まい、最高すぎ。
ヤバい。かなり回ってる。美男児超萌え。
そしてグラスが開いたから、にゅーボトルを開けよう。どうせ明日は金曜日。全く予想してなかったけど、自主的三連休もぎ取って良かった。
いや、日曜はイベントだ。そこは何とか頑張ろう。
何も言わずキッチンに移動して、もう一本開栓する。冷蔵庫からレーズン入りのチョコレートを取り出してリビングに戻る。
さも気付いていないと無造作にチョコレートをテーブルに投げ出すと、美男児の視線はチョコに釘付けだ。やはり。そして心の中で、ニヤリ。
ニヤリじゃねぇ、あたし。いい加減目を逸らすのやめろ。突然沸いた男児に違和感感じないのか?
そんな風に、あたしの脳にちょっぴり残っていた理性がガンガン警鐘を鳴らす。
いくら酔ってても、さすがに解るよ。おかしいでしょ。この状況。
だって今、目の前で美男児と黒にゃんこが、にゃーにゃーにゃーにゃー喧嘩してますよ。にゃんこかなり怒ってるよ。実家の猫思い出した。シャーシャー言い出してるのはホントに怒ってる。なのに男児は猫語?なのかにゃーにゃー言い返してる。あ、猫ぱんち。あれって牽制なんだよね。あんまり痛くない……はずなのに、男児叩かれた手を庇ってる。ツメ出てたんかな。
可愛過ぎんだろ。にゃんこと戯れる男児とか。なんのご褒美だ。明日死ぬのか? あたし。
美男児とにゃんこの仲良しバトルをつまみに、くいーっとグラスを干す。
うん、いい感じいい感じ。なんか世の中どうでも良くなってくる。
はーい、あたし酔ってまーす。うぇーい!
なのに目の前で、猫と男児がマジ喧嘩始めました。お、猫が男児の右手を取って……おお!猫キック! 猫キック決まりました! 美男児右手をぶんぶん振って猫を振り解こうとしてます!
楽しくなってきた。楽しいな。嫌な事、嫌だった事、どんどん消えてく。
おお!? 男児、反撃か!? 反撃だった! ぱしーん!って猫の頭を叩いたら、ああ! 男児噛まれた! 噛まれました! 甘噛みじゃなくてガチ噛みだ! あれは痛い! 知ってる! マジ痛い! 血ぃ出る!
後で消毒してから絆創膏貼ってあげるね……ふああ……楽しそう。いいな、この子達。
仲良く喧嘩しな、だっけ? 小っちゃい頃、ケーブルテレビのアニメ専門チャンネルで見た。猫と鼠のやつ。
あたしは楽しく見てたんだけど、原産国の友達が出来た時に好きなアニメの話から作品名を言ったら、なんでか微妙な顔された。吹き替え版しか知らなかったから、風刺とか良くわかんなかった。
分かんないからさ、猫が死にそうになるといつも喧嘩してた鼠が凄く心配するのが嬉しかった。
いつも喧嘩してても、やっぱり仲良しなんだなって。
平和な世界だよねぇ……大好き。
ゴトン。
頭とテーブルがごっつんこ。
あんまり眠いから、力尽きちゃった。
でもいいもの見れたな。眼福眼福。
もうちょっと頑張ろうって思えた。ありがとう! お酒の神様! ありがとう! 酔い神様!
もう、眠いよ…………。
後片づけ、したくないなぁ……。
「あぁ! ほらぁ! 君のせいでお姉さん寝ちゃったじゃん! どうすんの!?」
「あちし、さっきからずっと早くしろって言ってたじゃん! ばほが美味しそうなのに目移りしてさ! チョコに涎垂らしてたのが悪いんじゃん! あちし悪くないもーん」
「もう! もう……。うぅー……」
「もう、ばほ。ねぇ、泣かないで? この人すっかりふらふらぐらぐらしなくってるからさ、次行こうよ? ね?」
「ううー…………。 ぐすっ」
「はぁ、世話がやけるにゃ」
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