2022/9/28 「同衾の日」

 約150年前、突如宇宙より飛来した未知の敵性存在は地球の侵略を始めた。人類は地球連合軍を結成し、それに対抗した。地球連合軍は敵性存在の巨大な躯体と渡り合うために全長約15mの人型機動兵器を開発した。地球連合軍は全世界総動員令を発し、男はパイロット、女は生体ユニットとしてそれぞれ改造手術を施し利用された。

 この戦争が始まってから30年ほど経った頃、日本は人口減少に歯止めが効かず、既に戦前の半分以下となっていた。これを重く受けた日本政府は既に崩壊していた高齢福祉を廃止し、現役世代や従軍世帯を強く支援し、”重婚”政策を施行した。この政策は驚きの効果を示した。まず開戦からおよそ100年続いたこの戦争で日本の人口減少は、政策施行2年後から若干の減少はあれどほぼ横ばいとなっていた。そして、戦後5年目の人口増加率は10%を超えた。

 そして、法的に終戦とされた日を日本では『終戦記念・平和の日』として国民の祝日に制定された。しかし、侵略してきた敵性存在は本隊ではなかったという調査結果や人型機動兵器を利用した国家間戦争が勃発していること、戦後恐慌による治安の悪化等を鑑みて国民からはよく思われていなかった。また戦後、日本では大きな転換点であった重婚政策の施行日と平和の日の月日が同じであったために、『同衾の日』と呼ばれ親しまれている。

 『同衾の日』が全国に広まって約50年、この日には若者たちは性に開放的になり、全国規模で乱痴気騒ぎになる文化が生まれていた。

 

 今日は同衾の日だ。従軍学校同期のパーティに来ていた。いつもより露出度が高めの女子たちはイケメンとか戦闘シミュレーターでのランキング上位者の周りに群がっていた。夜10時になると一度男女でわかれ、大きなベッドのある部屋や小さなベッドのある部屋にいる好みの男子のもとに女子が訪れる。その逆もある。男たちは夢を見て大きな部屋を使いたがるが、実際は人気のある者しか使えない。もちろん重婚が可能なので男が複数いる部屋もあり、人気の男のおこぼれに与る者もいる。

 俺はモテない男子だ。この日を待ち遠しにしていたが実際来るとなんとも切ないことか。俺だって好きな子がいる。幼馴染で、内気でちょっと地味めな短い黒髪が綺麗なやつだ。でも彼女もパーティ中は万年ランキング上位のイケメンを眺めていた。一応彼女にどの部屋に入るかは伝えた。しかし12時になっても彼女は部屋に来ない。隣の部屋の親友もまだ誰も来ていないらしい。所詮俺たちはおこぼれに与ることもできず、重婚制度での優遇のために契約結婚だけされ利用されるだけの存在なのだ。

 などと心で嘆きもうこのまま寝てしまおうかと思っていると、部屋の扉が開く音がした。バッと顔を上げ音のする方を見ると汗で肌が湿り、前髪がおでこにくっついて疲れている様子の幼馴染が顔を赤くして立っていた。

「……いい、かな……」

俺は正直絶望的だった。俺が想っていた幼馴染は人気者で初めての事を済ませ、俺を利用しにやってきたのだと。落胆してベッドに潜り、目を閉じながら俺は少し間を置いて口を開く。

「……なんだよ。あいつのところでいい思いしてくればいいじゃないか。なんでわざわざ俺のとこに来たんだよ。見せつけに来たのかよ」

彼女はふふっと笑って話した。

「あの人、たしかにかっこいいよね。成績もいいし、これからの稼ぎも良いかもしれない。従軍成績が高ければ与えられる権利も高くなるもんね。でもだめだったの。……あの人とはしたけれど、すぐ果てちゃうし、いいところに当たらないし、あと声がちょっと……。やっぱり付き合い長くて、初めてを捧げた人の方がいいなーって思って」

どういうことだ?もしかしてこいつって結構性豪?付き合いが長くて初めてを捧げた人って一体……。俺は混乱してどうにかこうにか思考を巡らせる。彼女の交友関係や性格を再考察する。

「ねぇ、初めて、憶えてないの?」

唐突に頭の真後ろ数センチから悪戯めいた声が聞こえてくる。瞬時に俺は悟る。こいつはこの数秒で俺のベッドに入ってきて、体が接触するスレスレの位置にいるのだ。俺は彼女の気配を強く感じて体が硬直する。そして彼女は続ける。

「しょうがないよね。よく私が朝起こしに行くでしょ。それで私達が11才のとき、私が起こしに行ったらなんだかすごく元気だったみたいで、そのとき私も性に興味津々だったからしちゃったんだよね。気づいてるものだと思ってたけど、ぐっすりだったんだね。目が覚めたときにパンツが汚れてることに気づいた君の顔がすごく可愛かったよ」

ベッドの中で脚を絡めてきている。どうやら俺はこの後かなり絞られるようだ。

未だ俺は彼女の方を、振り向けないでいる。

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