ぼっちとギャル 1日目 II
彼女のことを一言で表すなら、ギャルである。彼女の存在はこの金持ち学校で若干浮いているといえば浮いているが、だからといって俺と交友関係を持つのはそれはそれでおかしい。
なにせ、ギャルである。ぼっちな俺とは無縁の存在。いやなんなら、天敵とすら言えるだろう。彼女を猫に例えるならば、俺はネズミだ。
狩る側と狩られる側が仲良くするなんてことは普通あり得ないし、だからこそ俺はこの状況に「おかしいな」と思っていたりする。
「数学はともかく、英語なら案外いけるかと思ったんだけどな」
「ウケる」
「国語は最悪文章を読めないなんて展開を覚悟したが、文字は読めるようで安心したよ。やっぱりあれか? 常にSNSとかで文字を読んでいるからとか」
「ウケる」
「……日本史だとかの社会科目は、教えると言ってもやり方が俺にはよく分からんからな。まあ時代の流れをおもしろおかしく説明できれば頭に入りやすくなるんだろうが、それをいきなり今やれと言われてもな」
「ウケる」
「お前はそれしか言えないのか?」
「ううん。そんなことないよー」
「……そうか」
ならなんで「ウケる」を連呼するのだろうか。今時のギャルはそう返事をしないといけないなんて決まりでもあるのだろうか。
(オタクで言うところの「それな」「分かる」「草」に近いワードなのだろうか……いや「ウケる」だけだとバリエーション少なすぎないか?)
よく分からんな、と思いながら俺の机を挟む形で椅子に座っている少女を眺める。
長い金色の髪に、白い肌。手首には……シュシュ? だっけかみたいなものを付けていて、ナチュラルメイクやネイルもバッチリ。制服は程よく着崩していて──うん、白ギャルってやつだな。
とはいえ、公立中学に大量発生していたような不良系のギャルとはかなり違う。あんな感じだったらどうしよう俺死ぬしかねえじゃんと内心恐怖していたが、神崎はアホなだけでその点は大丈夫そうだった。
「なんか失礼なこと考えてなかった?」
「気のせいだ気のせい」
急に
恐るべし、ギャルの直感力。勉強ができなくてもたくましく生きていけるんだろうなと思わせる"圧"が、そこにはあった。
それでいて勉強を頑張ろうとする向上心もある。神崎は無敵なのだろうか。
まあ、今はアホの子なんだけどな。
「今日は頭打ちだな。お前の学力を伸ばすには、中学時代から遡る必要がある。となると、今この場でどうにかするのは不可能に近い」
「ウケる」
「……まあ、続きは明日の放課後だ。中学時代の教科書や問題集を持ってきてやるから、それでどうにかするぞ」
だから今日は解散だ、と言ってスクールバッグを肩にかける。すると神崎も立ち上がって、口を開いた。
「一緒に帰ろ」
「ウケる」
口調伝染した。
◆◆◆
「つーかどっか寄る?」
校門を出て真っ先に告げられた神崎の言葉に、俺は首を傾げることになった。
「寄るって……どういうことだ」
「ウケる。どっか寄って遊ぶ? って意味だけど」
「あー」
そういえば世の学生たちは、帰りは寄り道なるものをするのだったか。俺は一度も寄り道なんてせずに真っ直ぐ帰宅して、部屋に篭ってゲームをしていたから咄嗟には思いつかなかった。
「俺は寄り道をしたことがないから分からん。神崎に任せるよ」
「ウチはウチで双葉くんが楽しめそうな場所が思いつかないから、任せられても難しいんだけど」
「……凄いな神崎、説得力しかないぞ」
「ウチは天才だからさ」
「お前のは天才の成績じゃないぞ。アホの成績だ」
「は?」
「ごめんなさい」
うーん寄り道、寄り道か。俺はどこに寄れば楽しめるのだろうか……うん、まるで分からん。
「よし、普通に帰るぞ」
「ウケる」
「俺自身が思いつかんかったからな」
まあ帰り道にラーメンを食うとかは憧れるが、ギャルってラーメン好きなのだろうか。
俺にはよく分からないが、ギャルはパンケーキとかそういうものを好む気がする。そんなリア充空間に行ってしまえば、俺は間違いなく死ぬだろう。大気に漂うリア充成文が俺を内側から破壊し、全身の毛穴という毛穴から血が噴出する未来が見えるぜ。
「パーンケーキ食いに行ってスプラッター映像に早変わりはわけわからんしな」
「あ、この前観に行った映画でそんなんやってたよ。殺人パンケーキで、町中のカップルがゾンビ化。家に引きこもってる人たちだけが生き残ってんの。めっちゃウケたし」
どんな映画だよ。殺人パンケーキってなんだよ。そしてそれを楽しめたのかよ。
この世界の広さを知りながら、俺は神崎と一緒に帰路につくのであった。
ぼっちな俺にギャルが「勉強を教えてほしい」と話しかけてきた 弥生零 @yosida777
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