第60.5話(レティ視点)

 ※この話は、レティ視点の話です。



 私の名前は、レティ・フォリシス。

 誇り高きフォリシス家の次女にして、神童と呼ばれている才能溢れる美しい天才です。


 私は、お兄様の元に来ています。

 それは、とあることを聞いてしまったからです。


「お、お兄様、どうやら大変なことになったようですね?」

「……聞いていたのか?」

「はい……」


 実は、私はお姉様のお兄様に対する告白を聞いていました。

 たまたま、廊下を歩いている時、話し声が聞こえてきたため、盗み聞きしていたのです。

 まさか、お姉様が私に相談もなく、お兄様に告白するとは思いませんでした。


「盗み聞きとは、趣味が悪いな?」

「あ、いえ……」


 もちろん、盗み聞きは悪いことだと思います。

 ですが、この話だけは聞き逃す訳には行かなったのです。

 私は、お姉様のお兄様への思いをずっと知っていました。その思いを打ち解ける瞬間を、聞き逃すことなどできません。


「まあいい。俺も今はお前に小言を言う気にすらなれない」

「おや……」


 例え、お兄様に怒られてもいいという気持ちでしたが、説教はありませんでした。

 どうやら、お兄様は告白の衝撃で混乱してしまっているようです。

 それなら、私も言いたいことを言わせてもらうとしましょう。説教があってもなくても、これは言うつもりでした。


「お兄様、あの返答はどういうつもりなんですか?」

「何?」

「男らしくないというか、なんというか……お兄様らしくない返答ですよ」

「む……」


 私が指摘したのは、お兄様のお姉様への返答です。

 なんだか、曖昧ですっきりしない返答でした。

 その気がないなら、お姉様にはっきり言えばいいのに、含みを持たせるなどずるいと思います。

 いつものお兄様なら、そのように言葉を逃がすことはありません。真実であろうと嘘であろうと、自信を持ってはっきりと言う。それが、お兄様の特色だったはずです。


「お姉様のことを、実際どう思っているんですか?」

「……」

「答えてください」


 今日の私は、少しいつもと違います。

 私は、基本的にお姉様を悲しませる人を許しません。それは、この兄も同じだったはずです。

 今のお兄様は、お姉様を悪戯に苦しめています。そのようなことが、許されるはずがないのです。


「少なからず……俺が、ルリアに特別な思いを抱いていることは事実だろう」

「ええ……」

「だが、それは曖昧なものだ。俺にとって、ルリアは妹である。家族としての愛情も、そこにはあるのだ」


 お兄様の返答は、そのようなものでした。

 どうやら、お兄様自身も自分の思いをよく理解していないようです。なんでも、結論をつけるお兄様なので、これは珍しい状態でしょう。


「それなら、お姉様にもそのように伝えればいいじゃないですか?」

「それは、できない。俺は、フォリシス家の長男として、あのように返すしかなかった」


 しかし、私が解せないのはそれをお姉様にきちんと伝えていないことです。

 結局、お兄様は逃げています。お姉様の気持に、正面から向き合っていません。


「お兄様、その立場というものを取り払って考えてください。お姉様の気持ちと本当に向き合う気があるなら、リクルドとして考えてください」

「何?」

「そうすることが、お兄様のやるべきことです。立場を理由にするなど、ずるいですからね!」


 私はそれだけ言って、お兄様の元から去っていきます。

 これだけ言えば、お兄様も必ず考えてくれるはずです。

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