第59話 私の思い

 私は、一人自室で過ごしていた。

 今日は、サルティス様が来て、色々とあったがもう夜になっている。

 その中で、私はお兄様のことを考えているのだ。


「はあ……」


 私の中にある確かな感情。それは、お兄様への思いである。

 だから、お兄様とサルティス様が婚約するかもしれないと聞いて、ひどく動揺した。そして、それをお兄様に聞いてしまった。

 そのことについて、色々と考えてしまうのだ。


「お兄様……」


 私のお兄様への憧れは、昔からずっと続いている。

 貴族の所作を知らない私に、色々と教えてくれたお兄様に、私は心惹かれるようになっていった。厳しくも優しいお兄様に指導してもらう内に、そのような気持ちを抱いてしまったのだ。

 それからも、お兄様はすごかった。

 一人で自立して、学園を立ち上げ、その学園を運営し続けている。その手腕も、学園長としての振る舞いも、私を惹きつけて離さない。


「でも……」


 しかし、それは許されない思いである。

 お兄様の妹である私が、そのように恋焦がれることは許されないことだ。

 決して、この思いが実ることはない。それは、絶対的な事実なのである。


「いや、でも……」


 だが、そう思う度に考えてしまう。本当に、そうなのだろうかと。

 私とお兄様は、血が繋がっていない。そのため、そういう関係に、絶対になれないという訳ではないのだ。

 私達と似た関係で、結ばれた貴族達もいると聞いたことがある。


 しかし、お兄様に関しては、そのようにいかないのが現実だろう。

 なぜなら、お兄様は義理でも妹に手を出す人ではないからだ。


「うーん……」


 このことを考えると、私はいつも混乱してしまう。

 期待してしまう自分と、現実を突き付けてくる自分、その二つの自分に翻弄されて、考えが纏まらなくなるのだ。


「お兄様に憧れている人は、多いよね……」


 お兄様に思いを抱いている人は、たくさんいるだろう。

 その地位や容姿に惹かれる女性は、とても多いと聞いている。

 その中の誰かが、お兄様の心を射止めないとは限らない。そうなったら、お兄様は婚約してしまう訳だ。


 しかも、お兄様の婚約はそれだけで決まる訳でもない。

 もしかしたら、家の発展のために、どこかの令嬢と結ばれる可能性もある。

 基本的に、お兄様はそのような話を断っているらしいが、いつ気が変わるかもわからない。


「うっ……」


 もしお兄様が婚約したら、私はどうなってしまうのだろうか。

 絶対に、落ち込むことは確かだ。ただ、その後仕方ないと思ったりするのだろうか。


「仕方ないか……」


 それで、私は本当にいいのだろうか。

 お兄様への思いを隠し、一生を終える。それが、正しいことだとはわかっている。

 しかし、それで私は後悔しないのだろうか。


「後悔か……」


 両親を亡くしてから、私は色々と後悔した。

 もっと、お父さんやお母さんに、親孝行しておけばよかった。もっと、甘えておけばよかったなど、そのようなことだ。


「そういう後悔は、したくないよね……」


 私は、そう思ってしまった。

 後悔したくないと、思ってしまったのだ。

 そのため、私は決意する。この思いを、お兄様に伝えると。

 それが、私が後悔しない、最善な手なのだ。

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