第57話 待ち時間

 私とレティは、部屋で待機していた。

 現在、お兄様とサルティス様が話をしている。その間は、部屋で待っておかなければならないのだ。


「一体、なんの話をしているんでしょうね……」

「そうだね……」


 お兄様とサルティス様が、どんな話をしているのかはわからない。

 だが、重要な話であることは確かだ。そういう話でなければ、サルティス様がわざわざここに来るはずはないだろう。


「……もしかして、婚約とかじゃないですよね?」

「え?」


 レティの言葉に、私は固まった。

 レティは一体何を言っているのだろう。

 何故か、思考が纏まらない。婚約とは、どういうことなのだろうか。


「あ、すみません。変なことを言いましたね、ごめんさない」

「あ、いや……」


 困惑する私に、レティはそう謝ってきた。

 そのことで、私は少しだけ冷静になる。

 レティの言っていたのは、お兄様とサルティス様が婚約するのではないかという話だ。

 その可能性は、ない訳ではないだろう。王家とフォリシス家の結束を強めるために、結婚させる。貴族では、珍しい話でもない。


「レティの言う通りだよね。お兄様とサルティス様の結婚、あり得ない話ではないよね……」

「いえ、あり得ない話だと思います」

「え?」


 そんな私に対して、レティははっきりとそう言ってきた。

 そこまで断言できる要素があるのだろうか。


「お兄様は、このフォリシス家を背負っていく人ですよ? そのような人が、王族と結婚するのは、少々まずいでしょう」

「そうなの?」

「はい。家の当主となる人が、それより上の地位の方と結ばれてしまうと、フォリシス家が支配され兼ねません。もちろん、王族の方にその気はないでしょうが、そういうことはわかっているはずです」

「な、なるほど……」


 レティの説明で、私は理解した。

 確かに、お兄様が王族と婚約関係になることはなさそうだ。

 そのことに、私は少し安心する。いや、安心していいのだろうか。

 お兄様も、いずれは誰かと婚約する。今は大丈夫でも、いつかはその時が来るだろう。その時のために、覚悟していなければならないのではないだろうか。


「お姉様? どうかしましたか?」

「あ、いや、なんでもないよ……」


 そんなことを考えると、少し苦しくなってきた。

 このようなことを考え過ぎるのはよくない。今は、とりあえず考えないようにしないと、大変なことになるだろう。


「それにしても、待っているのも大変ですね……いつ、話が終わるんでしょうか?」

「そうだね……でも、お兄様はもっと大変だろうし……」

「まあ、そうですけど……」


 私の空気を察してくれたのか、レティは話を変えてくれた。

 確かに、この時間は大変だ。終わるまで、落ち着くことができないからである。

 最も、一番大変なのは、実際にサルティス様と話しているお兄様だ。そのため、私達が弱音を吐く訳にはいかないのである。


「でも、こんな長い時間、この変な感覚になっているのも、苦しいですよ。いつ終わるかも、わかりませんし……」

「まあ、そうだとは思うけど……」


 もちろん、レティの言っていることも理解はできる。

 この時間も、本当に苦しいものだ。


「それに、私達も呼ばれる可能性もありますしね……」

「それは……」


 さらに、この時間は終わりを待つ時間という訳でもない。

 もしかしたら、呼ばれて、サルティス様の前に立たなければならない可能性もあるのだ。

 その不安も合わせて、とても苦しい時間なのである。


 こうして、私達は待ち続けるのだった。

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