第56話 王族襲来
私とレティは、お兄様とともに外で馬車を待っていた。
サルティス・アルミシア様を出迎えるためである。
「あ、来ましたね……」
「うん……」
レティの言葉に、私はゆっくりと頷く。
少し遠くに、馬車が見える。いよいよ、サルティス様がやって来たのだ。
「ふう……」
「ルリア、大丈夫か?」
「あ、はい……」
深呼吸をした私を、お兄様は心配してくれる。
フォリシス家に来てから、私は色々な貴族と対峙してきた。その中でも、王族と会う時の緊張は一番だ。
そのため、今もかなり緊張している。だが、お兄様の声で少しだけそれも薄れてきた。きっと、なんとかなるはずだ。
「あっ……」
そんなことを考えている内に、馬車が着いていた。
私達は、ゆっくりと頭を下げる。
その直後、馬車の中から華やかな服を着た女性が下りてきた。
「皆様、ご機嫌よう。今日は、急な訪問で申し訳ありませんでした」
出てきて早々、サルティス様はそのように謝罪してきた。
一応、サルティス様も非常識な訪問であることは自覚しているようだ。
それなのに、この訪問をしなければならなかったということは、余程重要な用件があるのだろう。
「いえ、問題ありません。本日は、ようこそおいでくださいました、サルティス・アルミシア様」
「リクルド様、お久し振りですね。お元気そうで、何よりです」
「ありがとうございます」
サルティス様に対して、お兄様は笑顔で対応する。
この笑顔は、お兄様が外部の人に対応するための笑顔だ。
つまりは、作り笑いである。本当は、サルティス様に対して怒っているが、それを表に出さない。これも、仕方がないことなのだ。
「ルリア様もレティ様も、変わりはありませんか?」
「はい、サルティス様」
「ありがとうございます」
そこで、サルティス様は私達にも話を振ってきた。
私もレティも、少し声を震わせながら、それに答える。
王族というのは、この国で最も高い地位に位置する人達だ。そのような人達には、無礼があってはいけない。
そのため、慎重に対応する必要があるのだ。
「さて、立ち話もなんですから、中でお話ししましょう。本日は、私に用があるということでしたね?」
「はい。リクルド様に、是非聞いてもらいたい話があるのです」
「わかりました。では、お部屋の方へご案内いたします」
お兄様の言葉で、サルティス様は早速中に入ることになった。
それによって、私は少し安心する。私とレティの役目は、このお出迎えと帰る時のお見送りだ。それ以外は、お兄様が対応するらしいので、私達は部屋で待機しておけばいいらしい。
こうして、私とレティはしばらく部屋で待機することになるのだった。
◇◇◇
私とレティは、部屋で待機していた。
現在、お兄様とサルティス様が話をしている。その間は、一応自由にすることができるのだ。
「いやあ、緊張しましたね……」
「うん……」
流石のレティも、今回はかなり緊張したらしい。
それも、当然だろう。王族というのは、この国のトップだ。その人達相手に、緊張しないという方が無理である。
「王族なんて、関わることがありませんから、やっぱり厳しいですよね。普通の貴族だったら、話は別なんですけど……」
「私は、未だに普通の貴族の人達でも緊張するけど……」
レティは、他の貴族と話す時は、そこまで緊張しない。
生まれながら、公爵家で育った彼女にとって、それは日常の一部でしかないらしいのだ。
一方、私は未だにどの地位の貴族でも緊張してしまう。やはり、生れながらの公爵家は違うのだ。
「平民の人達は、私達と話す時、あのような気分なのでしょうね……」
「うん……そう考えると、私はプリネさんや他の平民の人達に、そこまでいい対応ができていなかったのかな……?」
「どうなんでしょうね……」
そこで私が考えたのは、先日までのプリネさんや平民の人達への対応である。
やはり、地位が上の人間に近づかれるのは嫌なのだろうか。
自身が同じ体験をして、改めてそう思ってしまうのだ。
「最近は、こういうことがありませんでしたから、忘れていましたね……」
「うん……」
こういうことは、もう少し考えなければならないのかもしれない。
今回の出来事で、私はそう思うのだった。
そういえば、貴族と話す時緊張する私でも、学園ではそれを感じたことがない。
何故かわからないが、学園では皆平等であるように感じてしまうのだ。
そのことに少し疑問を覚えつつ、私はレティとともに待機しているのだった。
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