第52話 お兄様を止めて
私は、お兄様のいる学園長室に来ていた。
プリネさんをいじめていた貴族に、過剰な処罰を下そうとしているお兄様を止めるためだ。
お兄様は、その貴族達を徹底的に叩き潰すとしようとしている。それは、プリネさんに色々と言ったことが原因ではなく、私に逆らったかららしい。
だが、それでもお兄様がしようとしているのは明らかにやりすぎだ。フォリシス家は、敵に対して容赦をしない家であったが、それは昔の話である。
今のフォリシス家は、人間の善性を信じているはずだ。
「お兄様……もしかして、私のために怒ってくださっているのですか?」
「それは……」
そこで、私は気づいた。もしかしたら、お兄様は私のために怒ってくれているのではないかと。
お兄様は、家族に対する愛が、とても深い人だ。私やレティが傷つくことを、絶対に許さない人である。そのため、ここまで貴族達を潰そうとしているのではないだろうか。
もしそうなら、その心はとても嬉しい。だが、それはやり過ぎていい理由にはならないはずだ。
「……確かに、俺の個人的な私怨が入っていないとは言えない。だが、これはあくまでフォリシス家としての判断だ」
「お兄様……どうしてそこまで……」
お兄様は、私の言葉を肯定しながらも、その判断を変えてはくれなかった。
どうやら、その意思はかなり固いらしい。
お兄様が、ここまで強情になるのは、どうしてなのだろうか。それが、私にはわからない。
「お兄様、もういいんじゃないんですか?」
「む……」
「え?」
私がそんなことを思っていると、レティが声をあげた。
その言葉は、お兄様への制止だった。つまり、レティも私の案に乗ってくれたということだ。
「お姉様に対する危険を排除するのはいいと思いますが、本人がこう言っているんです。それなら、その意向に従うしかないでしょう」
「……わかっている」
レティの言葉に、お兄様はそう答えた。
その言葉の意味が、私はまだよくわからない。
一体、お兄様はどうしてそこまでこだわっていたのだろうか。
「お姉様、お兄様は、お姉様を心配しているから、彼女達を裁こうとしたんです」
「え?」
「お姉様は、フォリシス家の人間ではありますが、複雑な立場にあります。そのため、外部から攻められやすい立場にいます。お兄様はそれを考慮して、危害を加える恐れのある彼女達を排除しようとしたんです」
そんな私の疑問を、レティが説明してくれた。
要するに、彼女達が私に何か報復をしてくる可能性を考慮して、潰そうとしていたということだろう。
やはり、お兄様は私のために行動しようとしてくれていたのだ。
「ですが、お姉様はこう言っていますし、これ以上の強硬はお姉様が悲しみそうです」
「そのようだな……だが、あの貴族達を自由にできないのもまた事実だ。ああいう者達は、手放しにしておくと、何をするかわからないからな……」
レティの言葉もあり、お兄様は考えを改めてくれた。
ただ、やはり彼女達の行動は気になっているようだ。そこまで気にすることではないと思うのだが、お兄様がそう言うなら、本当に警戒するべきなのかもしれない。
「……仕方ない。少々別の方式で奴らを牽制するか……」
「別の方法?」
「これが上手くいくかどうかはわからんが、やってみるとしよう。潰す方が確実だが、それはできないからな……」
どうやら、お兄様は潰すのとは別の方法で、彼女達を牽制するようだ。
ただ、口振りからして、上手くいくかどうかはわからないらしい。
あのお兄様が、そのような心配するのは驚きだ。一体、どのような方法なのだろうか。
こうして、私はなんとかお兄様を止めることができるのだった。
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