第51話 止めるべきこと
私は、お兄様の元に来ていた。
プリネさんとともに、保健室にいたが、どうしてもことの顛末が気になってしまったのだ。
すると、中で徹底的に追い詰めるというような言葉が聞こえてきたため、思わず扉を開けて、学園長室に入ってしまった。とても失礼なことをしてしまったが、今はお兄様を止めることを優先したい。
「お兄様、あの人達の処罰について、少しお話があります」
「話か……一応、聞いておこうか?」
私は扉を閉めてから、お兄様の元に歩んでいく。
どうやら、話は聞いてくれるようだ。ただ、口振りからすると、私の意見を取り入れる気はないように思える。
そんなお兄様の意見を、なんとか変えなければならない。それは、かなり厳しいだろう。 だが今は、私以外にお兄様を止めることはできない。そのため、私がやるしかないのだ。
「彼女達を徹底的に叩き潰すと聞こえましたが、それに間違いはないですか?」
「ああ、俺はあの貴族達を徹底的に叩き潰す。それに、間違いはない」
念のため確認したが、やはり私の聞き間違いではなかったらしい。
お兄様は、私とプリネさんに色々と言った貴族達を、叩き潰すつもりなのだ。
しかし、いくらなんでも、それはやり過ぎだろう。
「お兄様、彼女達は確かに間違いを犯しました。ですが、それだけでそこまでする必要はあるのでしょうか?」
「ほう……?」
「これはあくまで、生徒と生徒の問題です。それなのに、そのような対応はやり過ぎだと思います」
お兄様の徹底的に叩き潰すとは、家も含めて全てということである。
彼女達がしたことは、許されることではない。だが、これは生徒間の問題だ。それに、家まで巻き込ものは違うだろう。
「お前は一つ勘違いをしているな?」
「え?」
「これは、単に生徒間の問題という訳ではない」
「生徒間の問題ではない? 一体、どういうことですか?」
そう思った私に対して、お兄様はそんなことを言ってきた。
その言葉の意味が、少しわからない。
今回は、あの貴族達が私やプリネさんに色々と言っていたことが問題であるはずだ。それは、まぎれもなく生徒間の問題ではないのだろうか。
「プリネという女子生徒をいじめていたのは、生徒としての問題だ。だが、あの者達は、地位が遥かに上の公爵家の人間を侮辱した。それは、単に生徒間の問題ではない」
「私に対する言葉が、問題だったのですか?」
「お前を侮辱したのが、駄目なのだ。そのような者を放置することは、フォリシス家の威厳に関わる。それに、あの者達に上の者に逆らってもいいという思想を植え付けるのは、貴族として許されないことだ」
「それは……」
お兄様の言葉で、私は少しだけ理解する。
貴族社会は、上下関係にとても厳しい場所だ。
私の出自はともかく、彼女達は公爵家の人間に逆らったのである。それが許されないことであるというのは、理解できないことではない。
「確かに、お兄様の言うことには一理あります」
「わかったか? それなら、この話は終わりだ」
「ですが、徹底的に追い詰めるというのは、納得できません。彼女達は、確かに間違いを犯しました。しかし、まだやり直せない訳ではないはずです」
しかし、私はお兄様の判断に納得できなかった。
いくら、先程の理由でも徹底的に追い詰めるのは、やり過ぎだろう。
確かに、それなりの罰を下さなければならなないかもしれない。だが、お兄様がやろうとしているのは貴族としての再起をできない程、潰そうというのだ。
彼女達がしたことと、それが見合っているとは到底思えない。
「フォリシス家の人間は、敵に対して容赦をしない。それが、我が家のしきたりだ。故に、徹底的に叩き潰すだけだ」
「そのようなしきたりは、既になくなっているはずです」
「……」
私の言葉に、お兄様は何も答えなかった。
フォリシス家は、敵対者を容赦なく叩き潰す。その思想があったのは、確かなことだろう。
少なくとも、お父様が私の両親と出会うまでは、それが普通だったと聞いている。
だが、今は違うはずだ。それなのに、お兄様は少々行き過ぎている。
そこまでする理由が、今のお兄様にはあるのだろうか。
こうして、私はお兄様と話し合うことになった。
この話は、まだ続きそうである。
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