第14話 通り過ぎる人
私とレティは、昼食をとっていた。
フォルシアス学園には食堂もあるが、私達は教室でお弁当だ。
「いやあ、やっとお昼ですか……」
「レティ、お疲れ様。お弁当、食べよう」
「ええ、食べますとも。これだけが、楽しみだったと言っても過言ではありませんからね……」
この時間は、レティも楽しそうにしている。
基本的に、レティは食べることと寝ることが大好きだ。そのため、このお昼は、学園でレティが唯一楽しみにしている時間ともいえる。
「うわあ、おいしそうですねえ……」
お弁当を出すと、レティは顔を輝かせた。
本当に、このお弁当を楽しみにしていたようだ。
その反応は、私にとっても少し嬉しいものである。
「それにしても、お姉様もよくやりますよねえ。三人分のお弁当を作るなんて……」
「う、うん……」
なぜなら、このお弁当を作ったのは、私だからだ。
私は、自身とお兄様とレティの三人分のお弁当を作っているのである。
「まあ、お兄様だけという訳にもいかないし……」
「あーあ、まあ、そうですか……」
実は、学園を建てた当初から、お兄様のお弁当は私が作っていた。
そして、私とレティが通うことになったので、三人分作ろうと決意したのだ。お兄様だけ作って、自身とレティの分は作らないというのもおかしな話だろう。
「それにしても、お兄様もよくお姉様に作らせていますよね……」
「あ、うん……」
「普通、こういうのは使用人の仕事だというのに……」
「で、でも、私がやりたいって言ったから……」
お兄様は、何故か私がお弁当を作ることを許してくれた。
こういうのは、使用人がやるのが普通だ。そのため、私に作らせるのは、中々おかしなことらしい。
しかし、お兄様はそれを許してくれている。私がやりたいと言ったので、尊重してくれているのだろう。
「まあ、あの人は妹の弁当が食べたいだけでしょうけど……」
「え? お兄様が? そんなことはないよ。お兄様は、私の意思を尊重して……」
「それは、美化というものです。大体、こんなことは使用人達だって、皆知っていますよ」
私は、レティの言うことが納得できなかった。
あのお兄様が、私のお弁当を食べたいという理由だけで、このような判断をするとは思えない。きっと、一人前になるために、料理もできるようになっていた方がいいといった理由からだろう。
最も、お兄様が私のお弁当を食べたいと思ってくれているなら、それはとても嬉しいことだ。
「お兄様が、私のお弁当を……」
「お姉様、ちょっと気持ち悪いですよ?」
「え? あ、ごめん……」
私が思わず喜んでいると、レティにそう言われてしまった。
レティは、時々こういうことを言う。ただ、お兄様のことを考えている私は、変になることがあるので、それも仕方ないだろう。
「まあいいです。早く食べましょう。お腹が空きました」
「あ、うん……」
こうして、私とレティはお弁当を食べるのだった。
◇◇◇
私とレティは、昼食を食べて、午後の授業を受けていた。
そこで、私は隣のレティにある変化が起こっていることに気づく。
「……うっ」
昼食後であるためか、レティは激しい眠気に襲われているのだ。
このままでは、本当にまずいだろう。
ただ、授業中であるため、私にはどうすることもできない。
「……あっ」
そこで、レティの目が突如見開いた。
そのあまりの変化に、私は驚いてしまう。
「あれ……」
「うん……」
しかも、教室にいる他の人達も小声で声をあげ始めた。
「えーえ、皆さん、静かに……」
心なしか、先生も緊張しているように見える。
一体、どうしてしまったのだろうか。
「……」
「……」
困惑する私に、レティがアイコンタクトをしてくれた。
それにより、私はやっと気づくことができる。教室の外に、お兄様がいるのだ。
廊下を歩いているだけだが、その視線は確かに教室に向いている。何かの用事のついでに、授業の様子を見て回っているのだろう。
だから、教室の皆が急に姿勢を正し始めたのだ。
入学式のことから、お兄様は畏敬の念を抱かれているふしがある。お兄様の警告が、生徒の皆に響いた証拠だ。
「……」
私はお兄様から意識を外し、目の前の授業に集中する。
誇り高きフォリシス家の人間が、授業に集中しないなど、あってはならないのだ。
こうして、私もレティもきちんと授業を受けることができた。
最も、レティはお兄様が去った後は、眠気と戦っていたが。
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