第13話 授業を受けて

 私とレティは、フォルシアス学園に来ていた。

 いよいよ、今日から授業が始まる。フォルシアス学園では、一般的な教養や魔法に関することを習う。


「面倒くさいですねえ……」

「レティ……」


 そんな授業が、何時間か終わった後、レティは私にそう呟いてきた。

 レティは、机に伏せて、本当に面倒くさそうにしている。あまりよくない態度だが、これは仕方ない面もあると思う。


 実はレティは、魔法学校に入学できるどころか、卒業できる程頭がいい。

 そんなレティには、この手の授業はとてもつまらないだろう。理解していることを、再度聞かされるのだ。それはかなり辛いことだろう。


「でも、寝る訳にもいかないんですよね……」

「うん、そうだよね……」


 しかし、レティは授業中に寝ることすらできない。

 それに、公爵家であり、学園長の妹であるレティがそんな態度をとってしまうと、家や学園の品格が下がりかねないからだ。

 流石のレティも、そういうことは避けたいと思っているのだ。色々と言っていても、そこは気にするのがレティなのである。


 それに、レティがそのような態度をとると、間違いなく学園長であるお兄様に伝わるだろう。すると、レティは間違いなく怒られる。

 そういう面からも、レティは寝ることなどできないのだ。


「頑張って、レティ。もう少しでお昼だから、昼食が待っているよ?」

「それは楽しみですが、午後も授業はあるじゃないですか……」

「それは……そうだけど」


 励ましてみた私だったが、レティにそう言い返されてしまった。

 確かに、午後からも授業は待っている。レティにとっては、家に帰るまで苦しい時間が続くだろう。


「はあ……」

「レティ……」


 レティの態度に、私は悲しくなる。

 ただでさえ学園を嫌がっていたレティが、このままではさらに学園を嫌いになってしまう。そんなレティに、どうすることもできない私が、とても情けないのだ。


「見て、レティ様がため息をついていますわ」

「あら? 何かあったのかしら?」

「え?」

「げ……」


 私達がそんな話をしていると、周りからそんな言葉が聞こえてきた。

 レティも気づいたようで、顔を歪めている。


「周りがうるさいですね……」

「あの人達は、貴族の人達だよね……」

「はい。位は、家より低いですけど……」


 今日学園に来て、一つわかったことがあった。

 それは、私達がとても目立っているということだ。

 私達は、公爵家の人間であり、学園長の妹である。そのことから、色々と言われてしまうのだ。


「お姉様のことを、悪く言う人もいましたしね……」

「うん……」


 そして、私のことを悪く言う貴族の人もいた。

 私が、弱小貴族からフォリシス家に引き取られたのは有名な話だ。

 そのことが、他の貴族からは良く思われていないのである。特に、私より位が高かった人達は、かなり私を疎ましく思っているだろう。


「逆に、平民の人達の方が気楽でいいですよね」

「あ、うん。そうかもね……」


 そんな人達とは対照的に、平民の人達はそこまで何も言ってこない。

 この学園には、平民の人達も通っている。お兄様が、位の高い低いなどということに関わらず人を募集しているからだ。最も、そこまで人数は多くはない。


「そもそも、興味がないのかもしれないですけどね。恐怖されているのか、尊敬されているのか、どっちなんでしょう」

「どっちかしかないのかな……?」

「どっちかしかないでしょう。貴族と平民なんて、そんなものです」


 ただ、平民の人達が、私のことを良く思ってくれているという訳でもないだろう。

 そもそも、貴族と平民では、大きな違いがあるため、お互いに干渉しようなどとは思わないのだ。

 平民をいじめる貴族もいるという話は、聞いたことがあるが、今の所そういう場面は見ていない。


「これで、学園が楽しいなんて……あっ」

「えっ?」


 そこで、レティが声をあげた。

 私達の近くに、一本のペンが転がってきたからだ。

 私は、そのペンを拾い、転がってきた方を見る。


「あ、すみません」


 すると、視線の先にいた男子生徒が頭を下げてきた。

 どうやら、その人がこのペンを落としてしまったらしい。恐らく、平民の人だから、頭を下げているのだろう。


「大丈夫ですよ、どうぞ」

「あ、ありがとうございます……」


 私は笑顔で、男の子にペンを返す。

 そんなことで頭を下げなくてもいいと、態度で示したかったからだ。しかし、男の子はペンを受け取るとすぐに席に戻っていった。

 やはり、平民と貴族では仲良くできないのだろうか。いや、そんな訳はない。私は、平民と貴族が仲良くしていた場所を知っている。


「うわあ、すごい笑顔……あれは、落ちましたかね……」

「え?」

「いえ、なんでもないです」


 そこで、レティが気になることを言った。

 落ちたとは、どういうことだろう。よく意味がわからない。

 それに、私はそんなに変な笑顔をしていただろうか。


「はい! 皆さん、席についてください」

「あ、来ましたね……」

「あ、うん……」


 私がそれをレティに聞く前に、先生が来てしまった。

 どうやら、授業が始まるようだ。


 こうして、私達は授業を受けるのだった。

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