第11話 呼び出しと称賛

 私とレティは、家に戻って来ていた。

 それからしばらく経って、私達はお兄様に呼び出されていた。


「あの、お兄様、今日は一体どのようなご用件でしょう?」

「ふん、ふん……」


 私もクラーナも、何故呼びだされたかはなんとなくわかっている。

 それは、恐らく今日の入学式でのことについてだろう。

 今日あった入学式で、お兄様が登壇した時、新入生が騒ぎ始めたのだ。そのことで、お兄様は怒っていた。そのため、私達が呼び出されたのだろう。


「ああ、お前達もわかっているとは思うが、今日の入学式についてのことだ……」


 やはり、私達の予想通りであった。

 ただ、そのため、私達が怒られる訳ではないはずだ。なぜなら、お兄様の表情や態度が、柔らかいからだ。


「も、申し訳ありません! 私は言葉を発しました!」

「すみません。私も、それを注意するために一言を発しました」


 しかし、まず真実を話し、謝らなければならないと思った。

 私達も、黙っていた訳ではない。レティが発言し、私がそれに注意した。つまり、私達は一言ずつ発しているのだ。

 この真実を隠しておく訳にはいかない。例え、それでお兄様に怒られても、仕方ないのである。


「それはわかっている」

「え? わかっている?」

「それは、どういうことでしょう?」

「ああ、お前達の様子は観察していた。自身の妹だ。あれだけ人数がいても、すぐに目に入ってきた」


 どうやら、お兄様は私達の発言に気づいていたようだ。

 その事実に、私は感激する。あれだけの人数から、私達を見つけてくれるのは、とても嬉しいことだ。


「まあ、それはいい。とりあえず、お前達個人の評価から言っておこう。まずは、レティ」

「は、はい……」

「お前が、一言を発したことについては、あまり褒められたことではないだろう」

「は、はい……」

「だが、ルリアに注意され、それを正したこと、そして、この俺に包み隠さず言ったことは評価できる。よって、今回は許すことにしよう」

「あ、ありがとうございます!」


 お兄様は、まずレティの評価を話し始めた。

 レティが、一言を発したことについては、駄目だったようだ。

 しかし、その後の対応をお兄様は評価していた。事前に、全てを話すべきだとレティに言っておいて、本当によかったと思う。


「次に、ルリア」

「はい」

「お前が言葉を発したのは、レティを咎めるためだ。そのことに怒る程、俺の心は狭くない」

「は、はい……」

「故に、お前は許す許さない以前の問題だ。むしろ、その行動は評価に値する」

「あ、ありがとうございます」


 私の方も、問題なかった。

 自身の行動が正しかったと知れて、私は安心する。


「だが、お前達以外の者達は、問題であるといえるな」

「あ、はい……」


 そこで、お兄様が話を切り替えた。

 どうやら、ここからは私達以外の人達の話であるようだ。


「あのような場で、騒ぎ始めるなど、まだまだ未熟者が多いと言わざるを得ない」

「まあ、お兄様が出てきて、驚く気持ちはわからなくはないんですけど……」

「ほう? あの者達の考えが、わかるとでもいうのか?」


 お兄様の言葉に、レティが口を挟んだ。

 それにより、お兄様の表情が少し変わる。それは、興味深いといったような表情だ。

 つまり、レティに騒いだ人達の気持ちを代弁するように言っているのである。


「ほら、お兄様、外見はいいじゃないですか? それに、家柄も仕事も完璧。そのような人が出てきたら、黄色い声援の一つくらいはあげたくなると思いますよ」

「……くだらん理由だな。いや、あのような者達らしい理由ではあるか」


 レティの言葉に、お兄様は納得したようだ。

 お兄様にとっては、自身に向けられる熱い視線も、くだらないものらしい。

 それは、私にも少し響いてくる。私も、お兄様に熱い視線を送っていないとはいえないからだ。


「まあいい。俺にとっては、お前達がそういう者達とは違ったということが重要だ」

「……あれ? ということは、今日は説教ではないんですか?」

「……今頃気づいたのか?」


 レティは、今頃今日呼びだされたのが、説教のためではないとわかったらしい。

 日頃から、怒られてばかりなので、今まで気づかなかったのだろう。


「こういう考え方を、俺は本来好かないが、お前達が正しい判断をしたことを、俺は嬉しく思っている。最も、下の妹は少し違ったが、それもいいだろう」

「うっ……」


 お兄様は、私達に対して、賞賛の言葉をかけてくれる。

 お兄様に褒められるのは、とても嬉しいことだ。


「だが、それは普通のことだ。故に、褒めるなど本来あってはならないことだ。だが、俺は喜ばしく思ってしまう。これが、兄としての性なのだろうな……」

「お兄様……」


 少し微笑みながら、お兄様はそう言ってくれた。

 その全てが、私の心を揺さぶってくる。お兄様に喜んでもらえて、本当に嬉しい。

 こうして、私達はお兄様に褒められるのだった。

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