第10話 同じ場所に
入学式が終わってから、私とレティは教室に来ていた。
ここで、ホームルームがあって、今日の日程は終わりだ。
ただ、ホームルームはまだ始まっていない。少し、休憩を挟んでから、ホームルームとなるようだ。
「はあ、ドン引きですよ。あんなの……」
「レティ……」
そんな中、レティが私にそう言ってきた。
これは、入学式でのお兄様の言動を言っているのだ。
「入学式で、あんな挨拶する学園長なんて、他にいないですよ。もう、妹として恥ずかしいですよ」
「そ、そんなことないよ。立派で、すごい挨拶だったよ?」
「いえ、あれはないでしょう」
レティは、お兄様の言葉が相当気に入らなかったらしい。
立派な言葉だったと思うが、レティの言いたいこともわからない訳ではない。
「まあ、確かに少し過激だとは思ったけど……」
「少しじゃないですよ。あれは、過激すぎます……」
レティは、頭を抱えてしまった。
これは、まずい。レティが、学校に行きたくない理由が、また増えてしまう。
引きこもろうとしても、お兄様が引きずり出すとは思うが、できればレティにも、学校が楽しい場所だと思ってもらいたい。
「レティ、そんなことより、周りの人と話してみない?」
「え?」
「ほら、友達とかできたら、学校も楽しくなるよ?」
私の言葉に、レティは目を丸くした。
しかし、これは我ながらいい案だと思う。友達ができれば、レティの学園生活も楽しいものになるはずだ。
そうしたら、レティも学校に来たくなる。これは、完璧な作戦だ。
「嫌ですよ」
「え?」
だが、私の案はすぐに却下されてしまった。
レティは、呆れたような表情で、私を見てくる。
「人見知りの私が、友達なんて作れる訳がないじゃないですか?」
「え? でも、挑戦してみることが……」
「そんなことは、やるだけ無駄ですよ。恥をかくだけです」
私の説得にも、レティは応じてくれなかった。
レティは、昔から人見知りだったが、ここまでだったとは驚きだ。もしかしたら、お兄様の行動により、人に話しかけるのを恐れているのかもしれない。
「私は、お姉様がいれば充分ですよ。せっかく、一緒に通えることになったんですから、それでいいじゃないですか?」
「レティ……」
どうやら、レティの意思は固いようだ。
ここで、無理強いして、さらに学校が嫌いなってしまったら困るので、わたしそれ以上何も言えなかった。
「はい。皆さん、ホームルームを始めますよ」
そこで、先生が教室に入ってくる。
もう、ホームルームが始まるようだ。
「丁度来ましたね」
「あ、うん……」
先生も来てしまったため、私は話を切り上げざるを得なかった。
レティの学校嫌いについては、また今度なんとかるすしかないようだ。
◇◇◇
ホームルームが終わり、今日の日程も終了した。
そんな時、レティが私に話しかけてくる。
「さて、お姉様。とっとと帰りましょうか」
「あ、うん……」
今日はもうやることがないので、帰るしかない。
そのため、レティの判断は大いに正しいだろう。
ただ、私には少しだけ気掛かりなことがあるのだ。
「どうかしましたか?」
「あ、うん。お兄様のことを考えていて……」
「お兄様のこと? なんですか?」
私は、お兄様のことを考えていた。
お兄様は、この学園で働いている。それは、学園長としての仕事だ。
「同じ学園にいると思うと、少し嬉しくて……」
「ええ……同じ場所にいるだけですよ?」
私の言葉に、レティは少し引いてしまった。
確かに、我ながらおかしなことを言っているという自覚はある。
ただ、お兄様の学園にいるという事実は、私にとってとても嬉しいものなのだ。
「お姉様は、お兄様のことになると、時々気持ち悪いですね」
「そ、そうかな……」
やはり、レティに気持ち悪がられていたようだ。
確かに、こんなことで喜ぶのは変だろう。少し、気持ちを切り替えなければならない。
「まあ、お兄様もお姉様のことになると気持ち悪いんですけど……」
「え?」
「いえ、なんでもないです」
そこで、レティが気になることを言ってきた。
ただ、誤魔化されてしまったので、あまり深堀はできそうにない。
レティは、時々お兄様に変な評価をすることがある。今回のも、きっとその一環だろう。
「それよりお姉様、もう帰りますよ。ほら、周りに人がいなくなっていますし……」
「あ、そうだね」
気づけば、教室からは人が消えていた。
私達も、もう帰らなければならないだろう。
「ごめんね、レティ。変なことを言ってしまって……」
「いえ、慣れているからいいです」
「な、慣れているの……?」
「ええ」
こうして、私とレティは帰路につくのだった。
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