第3話 一緒に通えるなら
私はレティと廊下を歩いていた。
レティは、お兄様から言われた学園への入学関連のことでかなり落ち込んでいる。
ここは、励ました方がいいだろう。レティは、笑顔の方が似合っているので、なんとか元気を取り戻して欲しい。
「レティ、元気を出して」
「はあ……」
まず、様子見の一言を放ったが、レティの態度は変わらなかった。
どうやら、かなり落ち込んでしまっているようだ。元々が、レティの言動が原因とはいえ、あの扱いは流石に辛いだろう。そのため、この様子も納得できる。
「私は、レティと一緒に学園に通えると嬉しいよ?」
「え?」
「だって、試験に合格すると、二人で通えるよね?」
「あっ……」
私の言葉に、レティは目を丸くする。恐らく、デメリットばかり考えていて、メリットの方は考えていなかったのだろう。
レティにとっても、姉妹で学園に通えるのは、かなりいいことであるはずだ。自分で言うのは少し変かもしれないが、レティは私を慕ってくれている。だから、そう思ってくれるはずだ。
「確かに、それは魅力的ですね……」
「う、うん」
レティは、少しだけ元気を取り戻してくれた。
私の予想通り、その事実を嬉しく思ってくれたようだ。私の自意識過剰ではなかったことも合わせて、少し安心である。
「でも、それでも嫌です……私、試験付きですよ?」
「ま、まあ、それはそうだね……」
「しかも、採点はあのお兄様……わざと間違えることもできない……ああ、優秀に生まれてしまった自分が憎い……」
レティは、とても頭がいい。恐らく、入学試験を突破することもできるだろう。そのため、レティの入学はほぼ決まっているようなものなのだ。
「あ、でも、お姉様は良かったですよね? お兄様の学園に通えるようになって」
「え? あ、うん。こう言うと、少し変かもしれないけど、レティのおかげだね。ありがとう」
そこで、レティが私にそう言ってくれる。
私がお兄様の学園に通えることになったのは、レティのおかげだ。それについては、嬉しいと思っているが、感謝していいのかどうかはわからない。
「いえ、あれは事故みたいなものですから、私に感謝する必要はありませんよ」
「そ、そうかな?」
「ええ、私としては想定していませんでしたから……」
やはり、レティも感謝は受け取りたくないようだ。
本当に、事故のようなものなので、それも仕方ないだろう。
ただ、私としてはありがたかったのは確かだ。感謝の気持ちだけは、忘れないようにしておこう。
「それにしても、お姉様も物好きですよね……」
「え? 物好き?」
「はい。お兄様の学園に通いたいなんて、私には理解できませんから……」
「あ、ああ……」
レティは、そこでそんなことを言ってきた。
私は、尊敬するお兄様の学園に入りたいと思っているが、レティはまったくそう思っていないのだ。
もちろん、レティもお兄様のことは尊敬しているはずだ。ただ、私とレティとでは、距離感が違うのだろう。
「まあ、好きな人の側にいたいという気持ちは、わからない訳でもありませんが……」
「え? いや、別に、そういうのではないよ?」
「そういうの? 別に、私は兄妹の話をしているだけですよ?」
「あっ……」
レティは少し笑いながら、そんなことを言ってきた。
その発言には、少し慌ててしまう。レティは、わかっていてからかっているのだ。こういうことは何度か言われたことがあるけど、いつまでも慣れない。
「でも、お兄様もお姉様のことになると、少し変になりますね」
「え? お兄様が?」
そこで、レティは話を変えてくれた。
からかいつつも、本当に私が嫌になる前に止めてくれる。レティは、優しい子なのだ。
ただ、話したことについては、少し引っかかった。
お兄様が、私のことで変になるようなことなど、あっただろうか。
「何か、変なところあったかな?」
「ええ、ありましたとも。否定していましたが、学園にいれたくないのは、絶対に共学だからですよ」
「え? あれって、冗談ではなかったの?」
「もちろんです。今でも、本気でそう思っていますよ」
どうやら、レティがお兄様の前で言ったことは本気だったようだ。
しかし、お兄様がそのような理由で、私を学園に入れたくなかったとは、考えられない。
「確かに、お兄様は私のことを心配してくれているけど、そこまでではないと思うよ」
「やはり、理解していないんですね。まあ、本人に自覚がないのは仕方ないとも思いますが……」
私の言葉に、レティは呆れたような目をする。
レティは、そこまで持論に自信があるようだ。それなら、もしかして、本当にお兄様はその理由だったのかもしれない
もし、そうだとしたら、少し嬉しい気もする。
お兄様が、私を守ろうとしてくれた。そう思うと、心が温かくなる。
「うわあ……もしかして、私の言っていることが本当なら、行動が嬉しいとか思っていますか? あんなの気持ち悪いだけだと思いますけど」
そんな会話をしながら、私達は各自の部屋に戻るのだった。
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