第4話 通知結果は

 お兄様と話した後、私は自分の部屋に戻って来ていた。

 ベッドに横になり、先程のことを振り返る。


「ふふ……」


 そうすると、自然と笑みが零れてしまった。

 お兄様の学園に通える。それは、私にとってとても嬉しいことだった。


 私にとって、お兄様は憧れの人だ。強く凛々しく気高いお兄様は、私にとってずっとそういう存在だった。


「もう、十六歳か……」


 そんなことを考えていると、あることを思い出してしまう。それは、私がこの家に来た時のことだ。


 私、ルリアは、フォリシス家の本当の娘ではない。両親が亡くなって、身寄りが無くなった私を、今のお父様が引き取ってくださったのだ。


「お父さんとお母さんがいなくなってから、もう十年くらい……」


 私の本当の両親は、フォリシス家の遠い親戚に当たる貴族だった。治める領地も小さく、このフォリシス家と比べると、弱小貴族という他ないだろう。

 ただ、私達の暮らしは幸せなものだったと思う。領地の住人とも、打ち解けており、特に問題もない平凡な日々だったはずだ。

 しかし、両親が病に倒れてしまったことで、その日々は失われてしまった。結果的に、両親は亡くなり、幼かった私だけが取り残されてしまったのだ。


「あの時は、大変だったなあ……」


 そんな私を助けてくれたのが、今のお父様だ。

 お父様は、私の両親に以前助けられたことがあるらしく、遠い親戚ということもあって、私を領地ごとフォリシス家の管轄に入れることを決めたのだ。

 そうして、私はフォリシス家の一員になったのである。


「それからも、大変だったかな……」


 それから、私はフォリシス家の人々と出会った。

 お父様、お母様、お兄様、レティ。皆、いい人で私を助けてくれた。


「お兄様……」


 その中でも、お兄様は特別だ。

 お兄様は、忙しいお父様やお母様に変わり、私の指導をしてくれた。

 弱小貴族であるためか、特に何も言われてこなかったマナーやルールなど、私は色々なことを学ばせてもらったのである。

 そういう風に接していく内に、私はお兄様に憧れるようになった。厳しくも優しいお兄様に、惹かれていったのだ。


「ふう……」


 色々あったが、私ももうすぐ魔法学校に入学する。

 期待も不安もあるけれど、頑張ってみよう。そう思い、私は来る日に備えるのだった。




◇◇◇




 魔法学校への入学が近づいて来た頃、私はレティに呼び出されていた。

 今日は、レティの合格発表の日だ。そのため、結果を教えてくれるのだろう。


「レティ?」

「あ、はい……入ってください」


 私が部屋の戸を叩くと、レティは落ち込んだような声で返事をしてきた。

 この反応が、どちらなのかは少し判断に困る。

 レティは、行きたくないと言っていたので、受かっているかもしれない。しかし、単純に落ちて落ち込んでいる可能性もある。


「お邪魔するね……」


 私はゆっくりと戸を開けて、部屋の中に入った。

 すると、すぐに合否の書いてある書類を見つける。


「あ、受かったんだね? おめでとう」

「ええ、受かってしまいました……」


 そこには、合格と記されていた。つまり、レティの魔法学校への入学が決まったのだ。

 ただ、レティは落ち込んでいる。やはり、お兄様の学園に通うのは嫌なようだ。


「レティ、受かったのに落ち込むのは、駄目だよ?」

「くっ……自分の頭の良さがにくい」

「レティ、落ち着いて……」


 レティは、頭を抱えていた。

 合格したのに、この反応とは、中々おかしなものである。


「いっそのこと、引きこもりましょうか……」

「だ、駄目だよ。そんなの……」

「嫌です。引きこもりたいです。お兄様なんかが運営する学校になんて、行きたくないです」

「ほう?」

「え?」

「は?」


 レティが、色々と嘆いていると、とある声が聞こえてきた。

 この声を、聞き間違えるはずがない。これはお兄様の声だ。

 私は、ゆっくりと後ろを振り返る。


「この俺などが運営する学校に行きたくないか……」

「あ、お兄様、その違うんでしゅ」


 あまりの動揺に、レティは舌を噛んでいた。

 しかし、その程度でお兄様の怒りは収まらない。


「前々から思っていたが、お前は俺への尊敬の念が、まったく足りていないようだな……」

「い、いえ、違うんです。というか、お兄様の方こそ、何をしているんですか? 乙女の部屋に勝手に入ってくるなんて」


 そんなお兄様に対して、レティは強引に話題を反らそうとした。

 確かに、お兄様はいつの間にか現れていた。ここは、レティの部屋だ。いくらお兄様でも、勝手に入るのは駄目だと思う。


「俺はきちんとノックをしたぞ。それに答えなかったのは、お前達だ。部屋にいるのがわかっている以上、何も返答がないのはおかしいと思うのが当然だ。故に、心配して中に入った。何か、反論はあるか?」

「くえ……」


 どうやら、お兄様はきちんとノックしていたようだ。

 それは、私も気づいていなかった。レティの方に集中してしまっていて、聞き逃してしまっていたようだ。

 それなら、お兄様が部屋に入るのも納得である。むしろ、私達を心配して入ってきたお兄様に、感謝するべきだ。


「お兄様、ご心配ありがとうございます。そして、気づかなかったことは申し訳ありませんでした」

「それは構わない。お前達の身に何もなくて、安心することはあっても、怒りを覚えることはない。聞き逃すことなど、誰にでもあることだろう」


 お兄様は、本当に私達を心配してくれていたようだ。この優しさには、感謝の気持ちしかない。


「じゃ、じゃあ……」

「ただし、お前が述べていた言葉に関しては許しがたいことだ」

「げえ……」


 レティに関しては、可哀そうだとも思うが、自業自得のようにも思える。あまり、ああいうことは言うべきではないと思う。


 こうして、レティへの説教が始まるのだった。

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