第79話 ミカとくじを引いたけどこれいる?

 キャラメルを舐めながら歩いていると屋台のおっちゃんから声をかけられた。


「よっそこの兄ちゃん、くじやってかない? 一回500円でハズレ無し! 人気のゲームやおもちゃが揃ってるよぉ!」


「一回500円っすか、高いなぁ」


 でもハズレがないってことは最低保障はあるってことだ。損はしないだろうし、一回くらいならやってもいいかも。さてどんな景品があるのやら。

 俺がくじ引きの景品を眺めていると、後ろにいたミカも興味を持ったのか横にやってきて景品をまじまじと眺めている。

 ミカの真剣そうな横顔は匠に作られた彫刻のように美しく、この顔が神に決められた黄金比なのではないかと思ってしまいそうなほど綺麗だった。


 そんなことを考えながらミカの顔を見ていると、ふとミカと目があった。


「あっ……」


「りょう君……! 見てこれ、バトモンのプレミアムレアが景品にある……!」


「えっまじか! これ二年前に出た年末限定商品のカードじゃねぇか! 10種類全部あるぞ、普通に買えば10万円はくだらないはずなのに!」


「これは……やるしかない……!」


「俺もくじ引くか! これは絶対手に入れてやる!」


「おっやる気だねぇ。はい、じゃあ一回500円!」


 俺とミカはおっちゃんに500円玉を手渡して、くじの入った箱に手を伸ばす。

 この時俺たちは景品欲しさに興奮していたのか、二人同時に箱の中に手を入れてしまった。

 普通は順番にくじを引くだろうに、どんだけ慌ててるんだろうと我ながら思う。


 そして当然箱の中でミカの手が俺の手と触れ合ってしまった。

 手が見えないせいで指先の感覚が敏感になっていたんだろう、指先が触れ合っただけだというのにやけにくすぐったく感じた。


「ひゃうっ……! あ、ごめん……なさい……」


「い、いや俺の方こそすまん! あーと、ミカから先にどうぞ?」


「う、うん……じゃあお先に失礼……しましゅ」


 こんなどうでもいいことで何を緊張してるのだろう、俺の顔は真っ赤に茹で上がっていた。

 だがそれはミカも同じようで、薄くメイクしてある頬が紅色に染まっているのが見て分かる。

 なんだかお互い気まずくなって無言でくじを引いた。そのまま無言でくじを開けて中身を見ると、40番と書かれていた。


「40番! おめでとうー伸びる棒だよ、大当たりぃ~!」


「あ、どうも」


 おっちゃんは棚からプラスチックの棒にカラフルな紙を巻いたおもちゃを取り出して俺に手渡す。

 このおもちゃって確か振ったら巻いてある紙が伸びたり縮んだりするやつだよな。

 い、いらねぇ~! 完全に子供の玩具じゃねぇか。高校生がこんなので遊ぶか!


「ハズレ無しって言っても、これ実質ハズレみたいなもんだよなぁ……。こんなの百均で買えるだろうし。ミカはどうだった?」


「えっと……12番?」


「12番! 運がいいね、光るブレスレットだよぉ~!」


「あ……ありがとうございます……」


 ミカが貰ったのは細い棒をポキっと折ったら蛍光に光る腕輪だった。ライブとかでよく見るアレである。

 小学生の頃、お祭りの屋台でも売ってるのを見た記憶がある。数時間程度しか光らないが綺麗な光を発するのをよく覚えている。


「6本セット……お得なのかな?」


「まぁ俺のよりは全然マシじゃないか? それつけるとなんかテンション上がるしさ」


「りょう君の景品は……いつか使うときがくればいいね……」


「いやこんなもん使う時ってどんな時だよ」


 ミカなりのフォローのつもりかもしれんが、たぶんそんな場面は一生来ない気がする。

 そもそも子供時代でも使ったかどうか怪しいしな。これで満足出来るのは友達がいてネタに出来るやつだけだろう。



 伸びる棒を片手に呆然としていると、キャラメルの空箱を捨てに行っていたユカが戻ってきた。


「おまたせー。いやーゴミ箱探すの大変だったよー。人が多くて全然見つからなくって」


「おかえり……ユカちゃん……」


「あれ、ミカちゃんそのケミカルライトどうしたのー? 屋台で買ったの?」


「くじの景品……だよ。6本セットで500円……」


「う、うーん……。中々微妙なところだねー。リョウ君もくじ引いたりした?」


「おう、これが当たったぞ」


 俺は伸びる棒をユカに向けて振る。すると紙の部分がみょーんと伸びてユカの胸元に当たる。

 その後シュルシュルと紙部分が巻き戻り、もとの状態に戻った。うん、やっぱりいらないんじゃないかなこれ。


「リョウ君、それやってて楽しい?」


 ユカが真顔で聞いてくるので俺も真顔になってしまう。何やってんだろうな俺。

 伸びる棒をポケットにしまいつつ、早速これの処分をどうしようかと考えはじめるのだった。



「ポキっと……ふふふ……見て、ライトサーベル……!」


 ミカはケミカルライトの内の一本を折って手に持った。赤い光が綺麗に発光されている。

 赤く光るケミカルライトをぶんぶんと振っているミカを見ていると、なぜだか童心に帰った気分になってくる。

 ケミカルライトなんて普段はお目にかかることがないから特別感があるからなのか、それともお祭りの雰囲気に飲まれているからなのかは分からないけど。


 俺の心中を察したのか、ミカはケミカルライトを一本俺に差し出してきた。


「はいりょう君……青いライトサーベルあげる……。一緒にジェダイごっこ……しよ?」


「ミカは赤だからシスだけどな」


 そう言いながらノリノリでケミカルライトを折る俺。青色に光る棒はとても綺麗で、不思議と高揚感が湧く。


「ぶぅぅん……ぶぅぅん……」


「ブィン、ブィン」


「二人とも、道の真ん中で恥ずかしいことしないでよー! 他の人達が見てるからー!」



 せっかくミカとのライトサーベル対決に熱中していたのにユカに注意されて我に返ってしまった。

 でも確かに祭りの往来で遊ぶのは邪魔で迷惑だよな。いい年して何やってるんだろう俺。

 まぁ正直言うとライトサーベルごっこは楽しかった。久しぶりに友達とこんなことしたな。小学校以来かもしれん。


「やっぱギャラクシーウォーズって名作だわ」


「なにいきなり? あ、さっきのごっこ遊びの元ネタ? ユカも見たことあるよギャラクシーウォーズ! 面白いよねー!」


「流石にあの知名度の映画ともなるとユカでも知ってるか。いやマジ面白いよな、俺子供の頃にテレビで放送されたの見て一気にファンになったもん」


「新三部作も……結果的に上手くまとめたし……なんだかんだ名作だよね……」


「中でも一番面白いのはもちろんアレだよな」


「うん……アレに決まってる……よね」


「あーアレでしょ? ユカも好きだよー」


「エピソード5!」「エピソード3……!」「エピソード8!」


 全員の意見がものの見事に外れてしまった。これは戦争になるぞ。ギャラクシーウォーズの話題だけに。


「えー! エピソード8面白いじゃん! ストーリーが二転三転してハラハラしたもんー!」


「エピソード5が最高に決まってるだろ。序盤の戦闘シーン見たことあんのかよ。あの時代であの空中戦、レベル高すぎだろ」


「エピソード3が一番……ライトサーベル戦がかっこいい……。エピソード3こそ至高……!」


 その後も三人とも一歩も譲らず、互いにここすきポイントを列挙していく羽目になってしまった。

 夏祭りに来て映画の話題で喧嘩するって、俺達は一体何をしているのだろうか。

 でも好きなことの話題になると饒舌になるのがオタクだからね、仕方ないね。


 30分ほど言い合いを続けて、結局誰も意見を曲げずにこの議論は終わってしまった。

 決着は後日、ギャラクシーウォーズ鑑賞会を開いて改めて一番を決めるということで一旦終幕した。本当、祭りに来てまでやることじゃないよなこれ。

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