第80話 ミカとユカと一緒に屋台で夕餉
「花火まであと30分くらいだねー。そろそろご飯にしよっか?」
「だな。俺はもう腹減って我慢できんわ。流石にキャラメル数個じゃな」
「あはっだよねー。じゃあ何が食べたい?」
「祭りといえば焼きそば、かなぁ。ミカはどうする?」
「うーん……綿あめ……?」
いやそれはメシじゃないのでは? ご飯の代わりにお菓子食ってもすぐに腹減るぞ、経験的に。
その結果追加で何か食うことになって太ってしまうコンボ。俺は太りにくい体質だからいいけど、普通の人がそんな食生活だったらあっという間に太るだろう。
「じゃあ焼きそばと綿あめ、それとたこ焼き買ってくるね!」
「そんなに食いきれるか……?」
「大丈夫、余ったらリョウ君が食べきってくれるから!」
「大食いチャンプ……りょう君がんば……」
「いや別に男子高校生が全員大食いなわけじゃないからな!? 運動部なら余裕だろうけどさ!」
成長期だからって運動してない陰キャが大食漢なわけがないのだ。そんな期待されても困るよ。
宣言通りにユカは焼きそばとたこ焼き、そして綿あめをそれぞれ三人分買ってきてしまった。
とりあえず1セット分の料金をユカに払っておく。お祭り料金だからか地味に高いのが財布に痛い。
とはいえ腹が減っているのも事実、焼きそばのソースの香りに思わず腹が鳴る。
「うぅ……いいにおい……。いただきます……!」
「ん~おいしい~! やっぱりお祭りで食べる焼きそばって特別だよねー!」
「んまいなぁ~。この香ばしさがなんとも言えん。鉄板で焼かれたからか? カップ焼きそばじゃこうはいかないよなぁ」
「袋麺で作ったとしても、家庭用のコンロじゃ火力が足りないしねー」
「うちもりょう君の家も……IHだから……なおさらだよね」
「そだねー。IHだとパラパラ黄金炒飯作るのも難しいから大変だよー」
「炒飯なんて作るのな。なんか意外だ」
「そ、それはリョウ君に……じゃなくて! ミカちゃんの読んでた料理漫画に出てたから、試しに作ってみたの! そ、それだけだからねっ!」
「あれすごくおいしかった……また食べたいなぁ……」
ユカと炒飯、全然イメージが湧かない。ユカはもっとこう、リゾットとかグラタンを作りそうなイメージがある。
和風・中華より洋風の料理が得意そうだ。たぶん以前作ってもらったオムライスが原因だと思う。
餌付けされた雛か俺は。理由が単純すぎるだろ。
俺が焼きそばを食い終わる頃にはミカとユカはたこ焼きを食べ終えていた。ねぇ君ら少食って言ってたよね?
以前母さんに昼飯おごってもらった時も思ったけど、本当は大食いだろお前ら。
普段節制してるからこういう時に抑圧が解き放たれていっぱい食べてしまうということか? 女子って大変なんだなぁ、ダイエットに命がけで。
まぁ成長期なんだからたくさん食ったほうが健康的ってもんだろう。男からすれば鶏ガラのように細い女より多少むっちりしてた方が好ましいってこともある。
最近は漫画やゲームでもヒロインの太ももを太くするのが流行みたいだし。
もっとも俺はぽっちゃり系よりは均等の取れたスタイルのほうが好きなんだが、俺の好みなんてどうでもいいだろう。
「綿あめ甘いね……おいしい。あっ……夢中で食べてたらべたべたしてきた……あぅぅ……」
「もう、ミカちゃん慌てすぎだよ。ほらほっぺ拭くよー」
「むうぅん……ありがとユカちゃん……にゅふふ」
「二人とも早くねぇか!? 俺ようやく焼きそば食い終わったとこなんだけど!」
「リョウ君が遅いんだよ。男の子なのに頼りないなー」
「りょう君には……速さが足りない……!」
言われてみると確かに……。そういえばクラスの陰キャ仲間と弁当食う時は気にしてなかったが、いつも俺が最後に食い終わってたような。
ひょっとして俺って食べるスピードが遅いのか。まさか陰キャゆえに誰かと一緒に食事する機会が少ないから、マイペースに食ってた結果がこれなのか?
食事のスピードにまで影響出るとか陰キャ悲しすぎるだろ。あらゆる点で人生ベリーハードじゃん。
「よく考えてみれば、飯をかき込むように食べたことってあんまりないなぁ」
「ユカたちに合わせて無理に急いで食べなくていいよ。ご飯は美味しく食べるのが一番! 早いとか遅いとかどうでもよくない?」
「大食いと早食いは別……だもんね。りょう君はどっちも苦手っぽいけど……」
「慰めてくれてるのか貶してるのかどっちだよ。まぁゆっくり食べてるおかげで。たこ焼きも丁度いい熱さになったから気にしないけどさ」
出来たてのたこ焼きって口の中やけどするんじゃないかってくらい熱いから、俺はちょっと冷まして食う派だ。
猫舌ってわけではないんだが、ミカとユカが平気な顔で熱々の食べてるのを見るに他の人よりは弱いのかもしれん。
それを猫舌って言うんじゃないのか? と自分にツッコミを入れたくなるが、本当の猫舌はラーメンやコーヒーも無理らしいから俺は違うと思う。
念の為たこ焼きに息を吹きかけると、それを見たミカが首を傾げながら問いかけてきた。
「りょう君……熱いの苦手なの?」
「ちょっとだけな。本当にちょびっとだけ」
「じゃあ……ミカが冷ましてあげる……ね。ふー……ふー……」
ミカはローソクの火も消せないんじゃないかってくらい力なく息を吹いた。
果たしてこれで効果があるんだろうかと疑問に思ってしまうが、ミカの吐息付きたこ焼きと考えると市場価値が高くなりそうだと思える。
そんな気持ちの悪い市場なんて滅びちまえ。誰だよ吐息付きたこ焼きとかキモいこと考えたのは。俺だよごめんなさい。
「ふー……ふー……。これで冷めたかな……。りょう君……あーん」
「えっ、まさかとは思ったけどやっぱりそういう流れ……?」
ミカがたこ焼きを持っているんだから、そこから俺につまようじごと手渡すわけもなく。そりゃ『あーん』という形に持っていくことになるよな。
ほんの一時間ほど前にユカからも『あーん』をされているわけだが、これを受け入れてしまうと同じ日に双子からの『あーん』を味わったことになる。
ギャルゲーでコンプ率100%を目指して各ヒロインの分岐ルートを見てるわけじゃねえんだぞ。
どんな強運だよ俺。隕石でも降ってくるんじゃないか? 祭りの日に隕石っていうとあれだな、某アニメ映画みたいにミカと俺の人格が入れ替わりそう。
とかクソどうでもいいことを脳内でつらつらと述べていると、ミカが不安そうにこちらを見つめてくるではないか。
だからその上目遣いはやめろって。それに勝てる男子いないんだよマジで!
「りょう君……た、食べないの……?」
「……分かったよ、食べるよ。あむっ」
結局素直に受け入れてしまう俺。自分の意志の弱さに呆れてしまう。
結果的には美味しい思いをしているのだから、これはこれでいいんじゃないか。そんな甘えがどこかにあるんだろう。
まぁ実際恥ずかしさこそあれど嬉しいことに違いないから、俺もこうやってミカに応じてしまってるわけだが。
「どう……おいしい?」
「うん……たぶん、今まで食ったたこ焼きで一番うまい」
「んふふ……だよね。生地にお出汁……入れてるのかな……」
そうじゃなくて、ミカが食べさせてくれたからだよ。そう言いたかったけど流石にクサすぎて口には出せない俺なのであった。
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