進展編!?

第58話(幕間) ユカとミカの8月がはじまる

「というわけでごめんなさいパパ、ママ! ユカ、モデルになるのは大学生になってからにします!」


「そう……ユカが決めたのなら私は何も言わないわ。それで後悔は無いのね?」


「ユカが東京に行くって聞いた時は僕は心配で心配で仕方なかったよ。でもそうか、結局三年後にはいなくなっちゃうのか……寂しいね」


「うん。でもユカ、今の生活が一番大事なの。だからワガママかも知れないけど高校生活を楽しみたいんだー」


「学生時代にしか得ることの出来ないことってあるからねぇ。僕も学生の頃は色々友達と思い出づくりをしたものさ」


 パパは昔を思い出してしみじみと感慨に耽っている。

 そんなパパの肩に手をおいて、ママはニッコリと笑いながら話しかけた。


「あらあら、友達とだけじゃなくて私ともいっぱい思い出作ったでしょパパ?」


「あ、あはは……そうだったねミユ」


 パパとママは高校の同級生だったらしく、おとなしいパパにママが積極的にアプローチして数年がかりで付き合ったんだっけ。

 そのせいで家ではパパのほうがママにタジタジな様子が多々見られるのは、二人の過去に色々あったと想像出来ちゃうなぁ。


 パパはママのからかいをなんとか躱しながら、咳払いをしてユカとの話に意識を向け直した。

 なんか今のパパの仕草、さっきの公園のリョウ君みたい。それを思い出してユカは少し笑っちゃった。


「と、ともかくモデル事務所の方にはちゃんとお断りの連絡を入れておきなさい。せっかく誘っていただいたんだから、断るにしても返事は早いほうがいいよ」


「うんそうするー。元々パパとママに話してから連絡しようと思ってたから」


 わざわざ東京から読モの撮影を見に来てくれて、直々にスカウトしてくれた人にお断りの話をしなきゃいけないのは気が重いけど……。

 でもこういうのは長引かせたら余計気不味くなるから、この後すぐに電話しなきゃ。



「そういえばユカは8月も撮影のバイトを入れてるのよね? 遊ぶ時間もあまりなくて寂しくないの?」


「だいじょーぶ! 読モってそんな週に何回も撮影したりしないし、ミカちゃんやリョウ君とちゃんと遊んでるよー」


「そう、亮君とも順調そうねぇ……うふふ」


「な、なんのことかなーママ!? ユカは単純に友達としてリョウ君と遊んでるだけなんですけどー?」


 もう、ママが変なことを言うから声が裏返っちゃったじゃない。

 だいたいパパがいる前でそういう話をするのやめて欲しいんだけどなー……。

 父親は娘の交友関係に敏感ってテレビで言ってたし、説教されたりしたらサイアクなんだけど……。


 案の定パパはリョウ君の名前を聞いた途端、それまでの落ち着いた態度から一変して急に真剣な顔をした。


「ユカ……そのリョウ君っていうのはユカの彼氏なのかな?」


「は、はーー!? そ、そんなんじゃないしー! パパ、そういうこと言うのサイテーだから!」


「いや、その……なんだな……。もし彼氏じゃないのなら一言だけ言っておきたいんだが……」


「な、なに? 急にマジな空気になってユカ怖いんだけど……」


 高校生の男女がどーのこーのとか、ドラマの頑固おじさんみたいな説教をしてくるのかな。

 でもユカは別に悪い子としてるわけじゃないし、文句を言われる筋合いなんてないもん。

 大体学生時代に色々やってたパパとママに言われたくないよ。説得力ゼロだよ。


「その亮君という子に迷惑かけてないだろうね?」


「心配するのそっちなの!? 父親としてどーなのーそれ!」


「だってユカ……あとミカはミユの娘だからね。ミユの学生時代のことを考えるとその……な?」


「な? じゃないよー! ユカ全然迷惑かけてない……かも? いや、ちょっとは迷惑かけてる……のかなぁ」


 ど、どうなんだろう。ユカが直接リョウ君に迷惑かけてる記憶は無いけど、ユカといるせいで男子からやっかまれてるところもあるし……。

 それに今回のモデルになるかどうかの件でも、余計な心配かけちゃったもんね……。

 あれ? ユカ結構迷惑かけてない?


 パパはママの顔を見て、それからユカを見ながら語った。


「ミユは高校一年生の頃はそりゃあ大人しくて影が薄い子だったんだ。クラスでも存在を忘れられてるくらいのね。でも僕が偶然声をかけて仲良くなっていく内に、どんどん明るい性格になっていってね。今ではこの有様さ」


「あらぁパパ? “この有様”ってどういう意味かしらぁ?」


「す、素敵な僕のお嫁さんだよ」


「ふふ、私もパパのこと大好きよぉ」


「もう……このラブラブ夫婦は……娘としては毎日こんなの見せられてたらやんなっちゃうよー」


 毎日毎日イチャイチャしちゃって、いくらまだ30代だからって元気すぎるよ。

 そう言えばリョウ君のパパと萌絵さんの仲ってどうなんだろう。

 リョウ君のパパが帰ってきてる聞いたけど、萌絵さんとは会うのかなぁ。


「ユカは卒業して東京に行っちゃうと、亮君とは離れ離れになっちゃうわねぇ。そうなる前に色々仕掛けたほうがいいわよユカ!」


「ママは何の応援をしてるの? でも大丈夫だよ、リョウ君も東京の大学に行くって言ってくれたし」


「あらぁ! もう卒業後のことまで考えてるのぉ? 二人とも進んでるわねぇ」


「だ、だから友達として! 友達としてもっと一緒にいたいってだけなのー!」


 その後もママの誘導尋問を受けながらユカは最近リョウ君との間にあったことを洗いざらい話しちゃった。

 ママは楽しそうに聞いていたけど、パパは何故かリョウ君に共感してる様子だった。

 パパ、さっきからユカよりリョウ君に肩入れしすぎじゃないかなー? なにか思うところでもあるのかな。



 話終えるとパパは『そうだ!』とテレビを見ながら何かを思いついたように手を叩いた。


「ユカとミカでその亮君を海に誘いなさい。せっかくの夏なんだ、海で遊ばないと勿体ないじゃないか。僕が車を運転してあげるから、亮君に都合を聞いておいて」


「う、海かぁ……海ってことは水着だよねー。去年の水着、ユカ入るかなー……。サイズ合わなくなってるかも」


 一応言っておくけど太ったわけじゃないからね!

 女の子には水着が合わなくなる理由が色々あるんです!



「ユカよく聞いて。これはママの経験則だけど……夏のイベントは網羅しておいたほうがいいわよ」


「なんか分からないけど凄い説得力だよママ……」


「水着代くらいならパパのお小遣いから出してあげるから、今度ミカと買いに行きなさい」


「ミユ!? しれっと僕のお小遣いが使われちゃってるよ!?」


「可愛い娘の水着姿が見られるんだから安いものじゃない。ねぇ?」



 そういうわけで、パパの計らいによりリョウ君と海に行くことになっちゃった。

 リョウ君ってどんな水着好きなんだろう……。派手なのがいいのかな?





 部屋に戻るとミカちゃんが抱き枕に抱きついて『みーんみーん』って鳴いていた。

 もうミカちゃん可愛い! セミの真似かな、でもこの辺りにはミンミンゼミはいないからクマゼミの真似をしようね!


「ユカちゃん……お父さんたちとお話……終わった……?」


「うん、特に問題なかったよー。ミカちゃんごめんねー。ミカちゃんにもいっぱい心配かけちゃった……」


「うん……でもユカちゃんがいなくならなくて……よかった……よかったよぉ……」


 ユカはミカちゃんのベッドに横になり、抱き枕に代わってミカちゃんに抱きつく。

 そしてミカちゃんの頭をなでなでして、ぎゅうって抱きしめた。


「ミカちゃん、これからもずぅーっと一緒だよ」


「ユカちゃん……ありがとう……あと、ごめんなさい……」


「え? どうしてミカちゃんが謝るのー? ミカちゃんが謝る理由なくない?」


「あぅ……あの、ユカちゃんが……卒業までモデルになるのを我慢したのって……ミカとりょう君と一緒にいてくれるため……なんだよね? だから……ごめんなさい……」


 ミカちゃんはなんて優しい子なんだろう。ユカの勝手な判断に悩んで、その結果に罪悪感を持っちゃうなんて。

 さすがユカのお姉ちゃんだよ。ミカのことをこんなに思ってくれるお姉ちゃんがいて、それだけでユカはここに残ってよかったって思うよ。


「ミカちゃん、違うよ? 卒業するまで我慢するのはミカちゃんやリョウ君のためじゃなくて、ユカのためだもん。ユカ、もっと二人と一緒にいたいって贅沢なこと思っちゃったんだ。だからミカちゃんのせいじゃないよ」


「そう……なのかな……。でも、これからも一緒なのは……素直に嬉しいね……にゅふふ」


「うん!」


「ところで……ユカちゃん」


 ミカちゃんが話を途中で止めてユカに何かを言おうとしている。

 あれ、ミカちゃんの表情が少し青ざめてるけど……もしかして夏風邪!?

 大変、早くパパたちに知らせなきゃ!


 でもそれはユカ杞憂だったみたいで、ミカちゃんが言おうとしたことはもっと別のことだった。


「ミカ……いつの間に東京の大学に……受験することになったの……?」


「あー……」


 ミカちゃんにはパパとママより先にあら方説明を済ませておいたんだけど、よく考えたら本人のいないところで勝手に進学先を決めちゃってたんだった。

 あの時はユカとリョウ君の二人しかいなくて、なんか真面目なムードだったから気にしてなかったけど……確かにミカちゃんには悪いことしちゃった。


「だ、大丈夫だよ! 東京には有名な女子大もあるし、一人暮らしが不安ならユカと一緒に暮らそうよ!」


「それなら安心……かなぁ……?」


 とりあえず納得はしてくれたみたい。ミカちゃんもまだ将来の夢とか決まってないみたいだし、とりあえず大学には行くつもりだったから結果オーライでよかった。

 でも確かに勝手に決めたのは良くなかったよね。ごめんねミカちゃん、今度ユカのお気に入りのぬいぐるみあげるから。



「あ、そう言えばリョウ君と海に行くことになったよー! 今度一緒に水着買いに行こうね♪」


「ひゃう! う、海……? りょ、りょう君も……来るの?」


「うん、パパがぜひ誘ってやれってー」


「水着……肌面積多め……ガチャ集金の季節……あぅ……恥ずかしい……」


 ミカちゃんはユカにはわからない単語を呟きながら、恥ずかしさで枕に顔を埋めちゃった。

 これは水着選びも骨が折れそうだねー……。


 あ、リョウ君に確認のLIME送っとこーっと♪

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