第50話 ミカとお泊り①
「りょう君……どのアニメ見る……? 昔の名作って言ったら90年代? 80年代?」
「惜しいなミカ、今日見るのはこれだ! “機兵勇士グフドム”だ! ロボットアニメを語る上では避けては通れない作品だな」
ミカは作品のタイトルを聞いた後に小首をかしげる。
「あれ、りょう君グフドム見たことなかったの……? ロボアニメ好きって言ってなかったっけ……」
「俺が見たのは映画版なんだ。三本の総集編に纏められてて話の大筋は分かるけど、細かいエピソードがテレビ版から削られてるらしくてさ」
「そっかぁ……じゃあこれを機にテレビ版を見るんだね……!」
「そういうこと。さあ菓子とジュースの準備はいいか? トイレは先に済ませておけよ。これからグフドム全43話をぶっ通しで見るんだからなぁ!」
俺の言葉を聞き、ミカは恥ずかしそうにトイレに向かっていった。
今のはデリカシーが無かったか。でも途中でトイレ行きたいって言われるよりかはマシじゃなかろうか。
念の為俺もトイレを済ませておくか。一階はミカが使ってるだろうから二階のトイレを使おう。
俺は階段を登っていき、二階のトイレの扉を開けた。
すると――
「ひゃう……! りょ、りょう君……!?」
今まさに下着を下ろそうとしていたミカが、何故か二階のトイレに入っていた。
白の布地に可愛らしいピンクのレースやリボンがついたパンツだった。
「えっミカ!? どうして二階に!?」
「りょう君見ないで……! は、恥ずかしいから……っ!」
「あ、すまん! 見てない、何も見てないから!」
俺は慌ててトイレの外に出て、そして一階のトイレに逃げた。
とりあえずトイレで用を済ませてリビングに戻ると、恥ずかしそうにクッションを抱きしめるミカの姿があった。
「あの……見た……よね?」
「見た、といいますと……」
「ミ、ミカの……パンツ……見えた……でしょ?」
「えっと、まぁ……その、見えちゃいましたねハハハ……」
何で笑ってるんだよ俺は。でも仕方ないじゃないか、あれで見てないなんて言える程俺の神経は図太くないんだから。
しかもちょうど下着を脱ごうとしていた場面を目撃してしまったのだ。
俺の意思に関わらず脳内HDDに既に保存されてしまっている。
「あぅ……恥ずかしい……もうさいあく……」
「だ、大丈夫だって! 可愛い下着でミカに似合ってたから! うん!」
「りょう君……フォローになってないよそれ……」
「だ、だよなぁ。ところでミカさん、どうしてわざわざ二階のトイレに?」
「だってミカ、一階のトイレの場所……知らないもん……」
ミカは控えめながらも俺に批難の目を向けてくる。
そう言えばそうだった。前回ミカがトイレを使ったのは中間テストの勉強会の時。あの時は二階のトイレの場所を教えたんだっけか。
それで未だに一階のトイレが分からないからわざわざ二階に行ったってことか。これは俺の伝達不足だな。
「ま、まぁ色々アクシデントはあったけどアニメ鑑賞始めようか。ほら、ミカもソファに座ってさ」
「うん……さっきのはミカも忘れることにするね……あぅぅ」
口ではそう言いつつも中々切り替えられない俺たち二人は、ぎこちない空気の中“グフドム”を見始めた。
『こいつ浮くぞ!』
『相手が人間じゃないならぁ!』
「凄い……70年代のアニメとは思えない演出……」
「ああ……流石に今のアニメみたいに綺麗な作画じゃないけど、思わず息を呑むような戦いだ」
とても数十年前に作られたアニメだとは思えない。流石は今でも続いているシリーズの元祖なだけはある。
小さい頃に映画版を見て、このアニメのプラモデルをいくつ買ったことか。
テレビ版は一つ一つの場面を丁寧に描いていて、総集編の映画とはまた違った魅力があるのも飽きがなくていい。
『やるようになったなグフドム!』
『ウコン色の機体……まさかやつは!』
「ここでライバルと実力が拮抗し始めるんだよな。主人公が機体の性能頼りじゃなく、その実力を発揮し始めるんだ」
「因縁の宿敵同士……燃える展開……!」
「今でもゲームなんかでよく見る二人だからな。続編も含めるとこいつらの関係は深くて面白いぞ」
「ミカ、グフドムシリーズ追いかけてみようかな……」
「おお! それなら俺も嬉しいぞ!」
「ゲーセンで有名な……対戦ゲームもあったし……興味湧いてきた……かも」
「いやそれは色々と魔境だから止めたほうがいいような……」
グフドムには全シリーズの機体が登場する人気対戦ゲームが存在している。
最新シリーズが今もゲーセンで稼働しているし、家庭用に移植されたりもしている。
確かに大人気ゲームだが2on2という性質上プレイヤー同士で喧嘩したりゲームバランスが大味だったりなど、色々と問題も多い。
以前ゲーセンでミカが対戦ゲームをしているところを目撃したけど、たぶんミカと相性が良すぎて凄い混沌とした光景になると思う。
そのうちミカが台パンしだしたら嫌なので、俺は友人としてゲームは勧めないでおく。
その後もグフドムを見続けていると、外はすっかり暗くなっていた。
俺たちは一旦休憩を挟むことにした。スーパーの弁当を食べて、それぞれ順番に風呂に入ることとなった。
ミカが先にシャワーを浴びることとなり、俺はリビングで悶々とした気分で右往左往していた。
「ミカがうちの風呂を使ってるなんて、こんなことがあっていいのか? 美少女がうちの風呂を使ってるんだぞ、これは一大事だ。大事件だ。陰キャにあるまじきイベントじゃないか……! 俺はどうすればいいんだ……!」
どうもしないのが正解なのだが、この時の俺は正常な判断など出来るはずもなく、頭の中で変な考えが浮かんでは消えていた。
要するに美少女がすぐそこでシャワーを浴びているというシチュエーションにドキドキしていたのだ。
浴室の扉がガチャリと開く音に敏感に反応したり、洗面所でごそごそとした物音が鳴るだけで全身の血流が物凄い速度で流れているのを感じる。
完全に陰キャ童貞の反応なのだが、実際そうなのでしょうがないだろう。
「りょ、りょう君~……」
洗面所からミカの呼ぶ声がする。俺は至って平静にその声に応えようとした。
「ど、どうしたァ?」
駄目だ、思いっきり声が上ずってしまった。
「ちょ、ちょっと困ったことに……なっちゃった……」
はて、どうしたのだろうか。風呂場で何かあったのか?
もしかして滑って頭をぶつけたりしたとか。ミカならやりかねないな。
ここには俺とミカしかいない。もし怪我をしているなら大変だ。
俺はさっきまでの興奮した気持ちなどさっぱり忘れて、ミカの元へ駆けつける。
「大丈夫かミカ!?」
「え……」
「あ……」
そこにはタオルで体を隠した、ほぼほぼ全裸のミカが立っていた。
「あ、あ、ひゃう~~……!!」
「ご、ごめん! ミカが困ってるみたいだから何かあったのかなって思って!」
「み、見ないで……くだしゃい! 見ちゃ……ダメ!」
咄嗟に顔を背けてミカの姿を見ないように努めるも、既にばっちり見てしまった後なので弁明のしようもない。
風呂上がりのミカの肌は白い素肌がうっすらピンク色になっていて、どこか色気を感じさせる雰囲気があった。
「あの……シャワー浴びたのはいいんだけど……ミカ、着替えをリュックに入れたままだったから……取ってきてもらいたい……んだけど」
「き、着替えな! 分かった、すぐ持ってくる!」
「そ、それと……寝間着忘れちゃったから……よかったら、りょう君の服……貸して……ください……」
「お、オッケー! 任された!」
俺は急いで自分の部屋に行き、ミカが着れそうな服を用意する。
そしてミカのリュックから着替えを取り出そうとしたが、そこでまた問題が起こる。
「これ、下着だよな……。いいのか、俺が手にとってしまっても……」
しかしこれがないとミカは着替えも出来ないんだ。やるしかあるまい!
あまり意識しないように着替えセットを手に取り、俺の使っていないジャージと合わせてミカに届けに行く。
そして洗面所の扉を少しだけ開けて、着替え一式を差し出す。
「ミカ、着替え用意したから使ってくれ。……それと、さっきは本当にごめん」
「ううん、ミカも気にしない……から。りょう君、絶対誰にも……言わないでね?」
誰が言うものか。こんなの人に言えるようなことじゃない。
もし誰かにバレたら俺が除き犯としてお縄に付くことになるじゃないか。
いや決して故意ではないのだがっ!!
その後着替え終わったミカがリビングに戻ってきた。
風呂上がりで髪も完全には乾いていない、肌が上気した姿のミカ。
俺のジャージを着ているせいかサイズが合っておらず、袖の部分からかろうじて指先が見えていた。いわゆる萌え袖ってやつだ。
まさか現実で萌え袖を見る日が来ようとは……しかもめちゃくちゃ似合ってるし……最高かよ。
「にゅふふ……このジャージ、とっても大きい……くんくん……えへへ、りょう君のにおいがするね」
「か、嗅がなくていいから!」
一応洗濯してるから臭くはないはずだが、女子に匂いを嗅がれるのは恥ずかしい。
もし臭いと思われたら普通にショックだ。
「じゃあ、次はりょう君……シャワーどうぞ……」
「あ、ああ。じゃあ入ってくる」
俺はシャワーを浴びながら、この悶々とする気持ちを取り払おうと頑張った。
さながら滝行で煩悩を取り払う修行僧の気分だ。ここで邪念を一切捨てて、残りの時間をミカと楽しく過ごすのだ。
「そういえば、ここでミカもシャワーを浴びてたんだよな……」
って駄目だ駄目だ! 言ってるそばから煩悩に支配されそうになってるじゃないか俺!
まだお泊り会が始まって数時間、こんな調子で大丈夫なのか俺!?
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