第39話 ユカが「違うのミカちゃん!」って言うけど、何が違うのだろう

「来週から期末テストが始まるから、今日から部活動は休みになるぞー。みんなちゃんと勉強しろよー」


「はーい」


 とうとう来てしまった。夏休み前に訪れる最大の試練、期末テスト。

 一年の中間テストなんてテスト範囲が狭すぎて、俺でも順位二桁に入れるレベルだった。

 しかし期末ともなればそうは行かない。だんだん難しい内容も増えてきて、更に中間テストよりも教科が増える。

 内申点の配分的にも一学期の成績はここで決まると言っても過言ではない。


 そんな大事なことをすっかり忘れてしまっていた俺は、今日の今日までアニメやゲーム三昧の生活を送ってしまっていた。

 正直やばい。宿題と予習以外、一切勉強してなかったからな。もう中間の範囲の内容忘れたかもしれん。


「期末テスト……教科多すぎだろ……! 中間でも大変だったのに、家庭科とか保健体育までペーパーテスト出すなよちくしょう!」


 基本の五教科だけでも世界史と地理、物理と化学、数学Ⅰと数学Aって分けられてて大変なのに、その上どうでもいい教科まで勉強出来るか!




「というわけで助けてユカえもん~!」


「その呼び方はやめてほしいかなーリョび太君」


「冗談言ってないで助けてください! このままじゃ一学期の成績が下がって父さんに叱られる!」


「冗談言い始めたのはリョウ君でしょー……。仕方ない、また三人で勉強会やろっか」


ありゃしゃすありがとうございます! さすがユカさんっす!」


「なんか今日テンションおかしくない? 変なものでも食べた?」


 失礼な。俺は誠心誠意感謝の気持ちを込めているのに、ひどい言い草だ。

 運動部の挨拶とかこんな感じだろ、それを真似しただけだ。運動部の挨拶は元気があっていいとよく教師に褒められてるし。

 あいつら朝の挨拶とかも『おあぉーあっすおはようございます!』としか言ってないからな。大声出しておけば正解なんだろう。


「リョウ君、その掛け声おバカっぽいからやめたほうがいいよ?」


「えっ、あ……そう?」


 どうやら陰キャが適当に掛け声を出してもそう上手くはいかないらしい。

 なるほど陽キャが使うと元気がいいと思われて、陰キャだと逆にウザいと感じられてしまうのか。

 運動部のやつら凄えな、声だけで陽キャ感を出すなんて俺には真似できそうにないわ。


「じゃあ一旦帰ってから、ミカちゃんと一緒にリョウ君のお家に行くね」


「早速今日から勉強会か、ありがたい」


「じゃあまた後でねー♪」


 ユカは鞄を片手に四組の教室へと向かった。

 俺も家に帰って、ユカたちが家に来るまでに部屋の片付けをしておかないとな。

 確か同人誌(全年齢向けだぞ)とか机の上に置きっぱなしだったはずだ。

 ついでにコンビニでペットボトルのお茶でも買っておこう。一応ティーバッグは買っているものの、お茶を入れるのが下手すぎてとても客人に出せる味ではない。


「そうと決まれば早く帰らないとな!」




 ◆◆◆◆◆




「ふぅ、ようやく片付いた。同人誌は押入れの中に隠したし、ちょっとエロい漫画は机の引き出しに鍵をかけて封印した。これで二人が来たとしても大丈夫だな」


 俺が部屋の片付けを終えて一息ついていると、ちょうどインターホンが鳴ったところだった。

 タイミングばっちりだな。あと数分早かったら危なかったけど。



「よ、いらっしゃい」


「おじゃましまーす! リョウ君ち久しぶりかもー」


「おじゃま……します……。7月になってから……初めてだよね……」


「そうだっけ? でもユカは日曜に来たばっかりじゃないか」


「ユカちゃん……日曜に遊びに来てたの……?」


「えっと……」


 ミカの質問にユカはバツが悪そうに視線をさまよわせる。

 なんだ、ユカのやつ家族に伝えてなかったのか?


 ユカは若干狼狽しながらも、ミカに説明をし始めた。


「ち、違うんだよミカちゃん! あれは何ていうか、ミカちゃんの読んでた料理漫画のレシピをリョウ君に毒味してもらってたの! ほ、ほらミカちゃんに美味しいオムライス食べて欲しかったし、その練習も兼ねて!」


「毒味てお前。まぁ初めて作ったとは思えないくらい美味かったけどさ」


「リョ、リョウ君! ほ、本当に違うからねミカちゃん!」


 何が違うのだろう、勘違いする要素なんてなにもないだろうに。

 ユカは何をそんなに慌ててるのだろうか。


「ユカちゃん…………りょう君にだけオムライス作るなんて……ずるい……ミカも食べたかった……」


「ご、ごめんねミカちゃん。ミカちゃんにも今度作ってあげるから!」


「やった……♪ ミカ、ユカちゃんの料理……楽しみ……。ユカちゃんに……あの料理漫画のレシピ……いっぱい作ってみて……欲しい」


「うん、分かったよー。……ほっ」


 ユカはミカの笑顔を見て安堵したようだが、何を焦って何に安堵したのかさっぱり分からん。

 俺の察しが悪いのか? でもミカもユカが俺の家に一人で来たことについては別に何とも思っていないみたいだしな。

 ますますユカが慌てた理由が分からん。『違うんだよミカちゃん』ってどういう意味だったんだろう。


 試験勉強を進めながらも、俺の頭には先程の赤面しながらも謎の弁明をするユカの顔がちらついて離れなかった。


 違うってなんのことだろう……。

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