第34話 双子の下着透けてますけど

「氷川君、お昼一緒に食べよ~?」


「あ、私も混ざりたい! 氷川君私も~!」


「別に構わないぜー! 飯は人数が多いほうが美味いからな」


「やさしい~。さすが氷川君だよね~」


 相変わらず凄い人気だな金髪のやつ。わざわざ昼飯の時間に他のクラスから女子がやってくる辺り、マジでモテるんだなあいつ。

 確かに顔はいいし性格も明るいから、人気が出るのも分からなくはない。

 俺は陰キャだから、陽キャアレルギーのせいで拒否反応が出るけどな。


 しかし陽キャという生き物は陽という文字が付くくせに陰キャに冷たいあたり、実は陰キャよりも暗い何かを抱え込んでるんじゃかいかと思ってしまう。

 あいつら、友達と少しでも仲が悪くなると陰口叩きまくるからな。陰口を言う相手がいない俺の方がまだマシじゃなかろうか。

 陰と陽、漫画だと後者の方が強いパターンも多いしな。主人公が闇属性だと妙に親近感が湧くし。


 なるほど闇属性は陰キャのことだったのか。つまり陰キャ最強ってわけだ。いやそんなわけないけども。


 くだらないことを考えつつも、俺は弁当を持って陰キャ仲間の元へ向かう。


 しかし、そこで違和感に気付く。

 いつも集まっている机に、俺の座る席が無いのだ。


「あれ進藤、今日は教室で食うの?」


「そ、そのつもりだけど……。どうしたお前ら、なんか冷たくないか?」


 気のせいか陰キャ仲間たちの視線が冷たいような……。


「だってさ、お前最近昼休みになると教室からいなくなるじゃん。どうせ他のクラスのやつと一緒に飯食ってんだろ?」


「よかったな友達が出来て」


「俺たち陰キャは友達が少ないから、他の教室に行くなんて出来ないし、一人で学食に行くことも出来ないからよー」


「進藤君は晴れて陰キャ卒業ですなー、羨ましいこって」


 ま、まさかこの陰湿な空気は……こいつら嫉妬してんのか!?

 正気かよ、陰キャ男子の嫉妬なんて誰も喜ばんぞ! 需要があるのは美少女だけだっつーの!


「待てよ! お前らだって俺が図書室に籠もってる時は、他のクラスに遊びに行ってるだろうが! 人のこと言えた義理か!」


「うるせえ! 昼飯を一緒に食うほど仲良くないけど、雑談にはギリギリ混ざれるレベルの友達なんだよ! だから昼飯はここで食う必要があるの!」


「俺の友達も……俺からしたら貴重な友達だけど、あっちからしたら大勢の友達の一人でしかないし……」


「そ、そうか……まぁ何となく想像はついていたけど」


 なにせ同じ陰キャ同士だ。こいつらの友人関係も何となく察していた。

 だが何が悲しくて本人たちからそんな話を聞かされなきゃならんのだ。

 聞いてていたたまれなくなるわ。中学時代似た経験があるだけに、俺にもダメージが来る。


「そんなわけで進藤は陰キャ同盟から除外だ。悪く思わないでくれ」


「そんな無茶苦茶な……。いや、別に入ってても全然嬉しくない同盟だったけど……」


「うるせぇー! 一緒に飯食う友達が陰キャにすり寄ってくるんじゃねぇー!」


「俺たちみたいな傷の舐め合いをしている中に、お前みたいなやつが入ってくると惨めなんじゃー!」


 うわ、こいつらマジギレしてる。それほど怒っていたのか。

 ここまで来ると俺が悪いような気さえしてくるから不思議だ。


 昼飯の時以外はほとんど会話も交わさないような仲だったけど、こうして追い出されると妙な寂しさがあるな。


「リア充ゴーアウェイ! ドントカムヒア!」


「いややっぱり全然寂しくねえわ! お前ら陽キャより陰湿だよ!」


 やっぱり陰キャは暗いものを抱えているから陰キャなのだと、こいつらの姿を見ていると痛感した。

 他の人から見ると俺も同類なんだろうなと思うと切なくなってくるぜ。





 しぶしぶ弁当を持って教室を出てさまよっていると、窓から中庭の景色が目に入った。

 見覚えのある二人がベンチに座っていたので俺も中庭に向かうことにした。


「よっす二人とも」


「あ、りょう君だ……」


「どうしたのー? 自分からここに来るなんて珍しいねー。もしかして一緒にお昼食べる友達がいないのかなー?」


「ぐっ……」


「え、図星だったの……? な、なんかごめんね……」


「謝るな憐れむな同情するな!」


「りょう君……かわいそう……。ミカが慰めてあげるね……よしよし……」


 頭を撫でても俺の心は癒えないよミカ……。

 陰キャ同士の醜い争いは、そう簡単には吹っ切れないからな。


 しかしここ最近ミカからよく頭を撫でられるな。

 ミカのやつ、誕生日以来お姉ちゃんキャラ押しで行こうとしているのだろうか。

 ただでさえ美少女に触れられるのはドキドキするので、これ以上属性の追加はやめて欲しいのだが。

 俺の心のライフポイントがいくらあっても足りないぞ。


「お、俺のことはどうでもいいんだよ。ここ座ってもいいか?」


「どうぞどうぞー」


「にゅふふ……ここ空いてるよ……」


 ミカとユカは二人揃って左右に移動する。二人の間にぽっかりと隙間が出来たが、ここに座れということか。


 俺は何故毎回二人の間に座ってるんだろう。百合の間に男を挟むかのごとく、美少女姉妹の間に陰キャを挟んで誰が得をするというのか。

 漫画のジャンルによっては読者ブチ切れ不可避だぞこんなの。

 そう言いつつも座っちゃう俺も俺だけどさ。


「それにしても最近暑いよねー。いい加減冷房入れてほしいよー」


「来週から授業中に冷房入れるってさ。7月にならないと駄目って決まりもよく分かんねぇよなぁ。電気代節約とかなのかねぇ」


「あぅ……今日だって30度超えてるのに……早く7月になってほしい……」


「ミカちゃん、休み時間とかにしっかり水分補給してねー? 室内でも熱中症になるって聞いたことあるよー」


「うん……ユカちゃんが買ってくれた鈴木園の麦茶……飲んでるよ……」


 奇遇だな、俺も同じ麦茶を買ってるぞ。あの大物タレントがCMしてるやつな。

 コンビニで手軽に買える上に、安くて量も多いから最高なんだよなあのお茶。

 俺にとって、夏には欠かせない飲み物の一つだ。あれがないとやってられないよな、この季節だと。


「リョウ君も気をつけてね? 本当、毎年暑くなってるよねー。ユカ、汗が止まらないよー」


「ミカも……。制服が肌に張り付いて……気持ち悪い……」


「ねー。汗ふきシートとか制汗スプレー必須だよー」


「汗、制服……はっ!」


 今気付いたけど、汗のせいで二人の体に制服がぴったりと張り付いていて、ボディラインがくっきりと見えているじゃないか。

 しかもうっすらと制服の下に着ている物まで透けてしまっている。

 なるほどこれは男子からすれば目の毒だ。他のやつらに見られる前にそれとなく指摘した方がいいよな……。


「あのさ、ミカ……ユカ……。二人とも、もうちょっと汗しっかり拭いたほうがいいと思う」


「んー? そうだねー、汗かきすぎるとお肌が荒れるっていうもんねー」


「ミカ……汗ふきシートはスースーするから……苦手……」


「いやそうじゃなくてだな……。その、なんと言いますか……汗のせいで制服の下が、その……見えてますよ?」


「えー……? わわっ!」


「ひゃう……!」」


 二人は俺の言葉の意図することに気付くと、慌てて胸元を隠した。

 そして、赤らめた顔で俺の方をじろりと見て、小さな声でぼそっと呟いた。


「リョウ君のえっち……!」


「ミカ……こ、こういうのは……ダメだと……思いましゅ!」


「え、俺が悪いのか!? しょうがないだろ、このまま放っておいたら他のやつにも見られてたかも知れないんだぞ!」


 こんなの理不尽だ、俺は悪くねえ!

 二人とも透けている物の色が違うなぁ、とか思ってしまったのは不可抗力で許してくれ


「リョウ君に見られちゃうのが嫌なのー! もう、これだから男子は困るよねーミカちゃん」


「うん……。ミカ……もうちょっとオシャレなの着けてくればよかった……」


 いやミカよ、反省すべき点はそこなのか?

 もっと定期的に汗を拭きべきだったとか、制汗剤を使っておくべきだったとか、色々あるだろ?

 俺に見られる前提ってなんかおかしくない?


「本当、今年の夏は暑くなりそうだよねー。ユカたちも、もっと気をつけないと」


「何故俺が悪いみたいになっているのか、これが分からない……」


 まぁ二人から冷たい目で見られはしたが、他の男子からの邪な視線を事前に防ぐことが出来たのだと思えば良しとしよう。

 先程見た光景は俺の脳内HDDに永久保存しておくとしよう。

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