第22話 双子へのプレゼントを買いに行こう①

「もしもし父さん? 俺だよ俺。悪いけどさ、お金貸してくれない?」


 端から見れば、振り込め詐欺の現場にしか見えないが違うからな。

 単身赴任をしている父親に、可愛い息子が電話をしているだけだ。俺のどこが可愛いかは、賛否両論があるだろうが触れないでおく。


「いやさ、ちょっと友達の誕生日プレゼントを買わなきゃいけなくてさ。どんなもの買えばいいか分からないんだけどね」


 電話の向こうから、驚いたような声が聞こえてきた。

 どうやら父さんは俺に友達が出来たことに驚いたらしい。


 いや父よ、一応中学の頃から友達はいたからな? 学校でつるむだけで、休日に遊ぶほどの仲じゃなかっただけで。


「うん、今月誕生日なんだって。二人分のプレゼント買いたいから、それで。……え? 違うって! 嘘じゃないって! マジで双子なんだよ! 息子の言葉が信じられないのかよ!」


 なんと父さんは俺が嘘を吐いてゲームを買おうとしてると疑っているようだ。

 いくら俺でもそんな酷いことはしないぞ。最初から金目当てならもっと別の口実使うわ。


「あ、うん……ありがとう。うん、うん。え? 彼女じゃないって! てか俺に彼女とか出来るわけないだろ! もういい? 切るよ。ああ、おやすみ」


 電話を切り、一息つく。


 さて、父さんからの援助も貰えるしミカユカ姉妹へのプレゼントも本格的に考えなきゃな。

 女子って異性の友達からプレゼントを貰う場合、どんなものだと喜ぶんだろう。


 明日の放課後にでも、ショッピングモールに寄ってみるか。




 ◆◆◆◆◆



 翌日、放課後に学校から出ようとしたら朝倉姉妹に呼び止められた。


「リョウくーん!」


「あの……い、一緒に……帰ろう?」


「悪い二人とも、今日ちょっと寄るとこあってさ。また他の日にしてくれ」


「あ、あぅ……そっか……」


「それじゃ仕方ないね-。また明日ねー」


「ああ、じゃあな」


 悪く思わないでくれよ。これも二人へのプレゼントを下調べするための行動なんだから。

 こういうのは本人にバレると誕生日の楽しみが減るだろうしな。なるべく秘密にしておいた方がいいだろう。


「ミカちゃん――リョウ君怪しい――」


「う、うん――そう……だね――」


 ミカとユカは二人で何か話している様だったが、俺には関係ないだろう。




 近所のショッピングモールは平日の夕方なのに客が多かった。

 流石は全国に約200店舗も経営しているだけはある。

 幅広い客層の需要に応えるために、様々な専門店が並んでいて、見ているだけで飽きない。


 さて、女子へのプレゼントといっても何から探せばいいものか。

 小学生の頃は、親から誕生日プレゼントにゲームソフトを買って貰っていたが、友達にそんなもの贈るわけにもいかないしなぁ。

 というかユカの場合、絶対喜ばないだろうしな。ミカは案外喜んでくれる可能性もあるけど、あいつの場合俺があげるより先に、そのゲームを入手してそうだ。


 友達にプレゼントをあげた事も、貰った事もないから凄く悩む。


「高校生だから、そこそこ値段を張った物を選んだほうがいいのか? それとも、あまりに気合いの入った物を贈っても逆に引かれる可能性があるのか? どちらが正解なのか全く分からん……」


「何かお探しでしょうか?」


「へ……?」


 いきなり店の中にいる店員に声をかけられた。考え事をしていて気付かなかったが、どうやら俺はアクセサリーショップの前にいたらしい。


「いや、えっと……。別に探してる物なんて無いんすけど……。いや、アクセサリーも有りっちゃ有りか?」


「ええと、彼女さんへのプレゼントでしょうか?」


「えっ!? いや全然違いますけど!? な、何でそんなこと言うんすか?」


「後ろの方にいる女の子は彼女じゃないんですか?」


「後ろ……?」


 店員の言葉にはてなマークを浮かべながらも、後ろを振り向いた。

 驚くことに、なんとミカとユカが店の外からこっちを見ているではないか。


 怖っ!? 何であいつらがここにいる!?

 っていうか、何見てるんだよ! これじゃあまるで、俺のこと監視してるみたいじゃないか。


「さてはあいつら、俺が用事あるって言ったのを聞いて着いてきたな……」



 俺は店員との会話を打ち切って、店の外にいる二人に話しかける。


「お前ら何しに来たの? メリーさんなの? それともストーカーなの?」


 ストーカーにしても、俺よりもっとマシなやつを追いかけた方が良くないか?

 いやそれはそれで犯罪だからやめて欲しいけどさ。


「りょう君……」


「ひょっとして、彼女いるの!?」


「は、はぁ?」


 急に何を言いだしてるんだろう、この子たち。俺に彼女いるわけ無いだろ。常識で考えろ、常識で。


「ここ……女の子への贈り物を買うのに……有名なお店……」


「そうそう! ユカの友達も、ここのネックレスを彼氏から貰ったーって自慢してたもん!」


「だから……りょう君も……誰かにプレゼント……買おうとしてる……。それって……好きな女の子が……いるのかな……って」


「むしろそれ以外あり得ないよー! だってリョウ君、女の子に贈り物とかしないタイプでしょ? もしするとしたら、彼女ぐらいしか無いって思うもん!」


 散々な言われ様だな……否定出来ないけど。

 だが待って欲しい。俺だって女子に贈り物くらいする。というか、お前らに贈るんだけどな。

 せっかくやる気を出してたのに、あらぬ疑いをかけられて心が砕けそうだぞ。陰キャの豆腐メンタルを舐めるなよ。


「あのね……言っとくけど、そんなんじゃないからな。この店だって、たまたま店員に声かけられただけだし」


「じゃ、じゃあ用事って何なのー!? ユカたちには言えないようなこと?」


「あぅ……ミカ……悲しい……。りょう君に……距離おかれてるみたい……」


「ぐ……。そ、そう言われると俺が悪いみたいに感じてきた……。い、いや今回は俺は悪くない! お前らが心配性なだけだ!」


「えー! やっぱり何か隠してるでしょー!」


 そう言いながらユカが詰め寄ってくるが、慌てた表情もまた絵になるな……とかどうでもいい感想を抱く俺。


「りょう君……ミカ、寂しいな……。隠し事……よくない……よ?」


 ミカが切ない表情で上目遣いをする。狙ったワケではなく、恐らく無意識に行った仕草だろうけど、庇護欲が湧いてくる可愛さだった。


「うっ……。はぁ……分かった、言うよ。ただし、これでガッカリしても俺は責任取らないからな?」


 もう隠しきれないだろう。ここは正直にネタばらしするしかないな。


「誕生日プレゼント探しに来たんだよ……」


「え……?」


「誰の?」


「二人の」


「「ふたり?」」


 ミカとユカは声をハモらせながら首を傾げた。

 おいおい、まさかここまで言って気付かないのか? 嘘だよな?


「だから、ミカとユカの誕生日プレゼントだよ……。今月だろ、確か」


「ひゃう……!」


「そ、そういうことかー! な、なーんだびっくりしたー! もう、驚かせないでよねー」


「いや、こういうのはサプライズが一番かなって思ったんだが。まぁバレちゃったけどさ」


「でも……ミカは……嬉しい……よ。りょう君が……ミカたちのために……何かやろうとしてくれるって……分かったから……」


 そう言ってくれるとありがたい。まぁ、当日の楽しみが減ってしまったから申し訳ないとも思うが。


「リョウ君、ユカの誕生日知ってたんだー……。えへへ、何か嬉しいなー……」


「そ、そういうわけだから、俺もうちょっとこの辺うろついてるわ! じゃあな!」


「あ、待ってよー! ユカたちもついて行っちゃダメかな?」


「……はい?」



 こうして、ミカとユカが同行することになった。

 プレゼントを贈る本人が一緒にいたら、本当にサプライズもクソも無いのだけど、いいんだろうか?

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