第16話 熱で休んだら美人の双子が看病しにきた

「あ~……頭痛い……」


 朝起きたら体が怠かったから体温を測ると、結構な高熱が出ていた。

 朝飯を食ったら元気が出るかと思ったが、そう簡単には体調は治らず、念のため学校を休むことにした。

 父さんにメッセージを送り、担任に電話を入れたところで俺の体力は限界、ベッドに倒れるように眠ってしまった。


「…………スゥ」



 起きたら外はすっかり夕暮れになっていた。

 なんと! 半日近く寝ていたのか俺。いや、朝飯の後すぐ寝たから合計20時間くらい寝てたのか?

 でもおかげで体調はマシになった。朝は頭痛が酷かったけど、今は平気だ。


「しかし変なタイミングで体調崩したなぁ。テスト勉強の疲れが今頃出てきたのか? それともまさか、ユカと一緒にいた噂が広まることを恐れて、ストレスで倒れた!?」


 いやまさかな……。昨日今日でそう簡単に噂なんて広まらないだろう。

 ユカと手を繋いでしまったのを見たのはバスケ部の数人だけだ。目撃者もそんなにいないし、大丈夫だろう。


「そんなことより……腹減ったな。昼飯食ってないし、何か食うか」


 一応体のことを考えて、あっさり目の物を食べるか。


「……って、そういえば冷蔵庫の中何もないんだった……。まだ体は怠いけど買いに行くか」


 俺がそう思ったところに、インターホンが鳴る。

 画面を見ると、外にいるのは朝倉姉妹だった。


「えっ!? 何であの二人が来てるんだ!? まぁいいか。とりあえず出ないと」


 玄関を出ると、スーパーのレジ袋を持ったミカとユカが扉の前に立っていた。


「や、やあ……どうした急に」


「それはこっちの台詞だよー! リョウ君学校休んでるし、LIME送っても全然返事しないし、心配したんだからねー!」


「へ、返事が無かったから……すごく……心配した……よ?」


「LIME? あ、ほんとだ」


 スマホを確認すると、二人から十件近いメッセージが送られていた。

 昼前に『今日休み?』と聞いてきた後、数時間おきに俺を心配するようなメッセージをくれている。

 その時間、俺は完全に寝てしまっていたからスルーしてしまっていた。若干申し訳ない。


「LIME無視しちゃったのはごめん……。でも何で俺んちに来たの?」


「一組の先生に聞いたら体調が悪いって言ってたから、お見舞いに来たの」


「ミカは……スポーツドリンクと……フルーツ缶……買ってきた。にゅふふ……風邪の時の定番……」


「ユカも色々買ってきたんだよー。お家に上がってもいい?」


「あ、ああ……構わないけど……」


「おじゃましまーす☆」


「おじゃま……します……」


 何だか不思議だ。ここのところ、俺の家にミカとユカが頻繁に来ているような。

 美少女の双子姉妹が陰キャの家に頻繁に出入りするとか、もはや俺の中では事件レベルだ。

 そしてこんな状況にも少しずつ慣れ始めている自分にも驚きだ。もしかしてリア充にジョブチェンジしたのか俺? んなわけ無いか。




 リビングに戻り、二人に飲み物でも出すかと冷蔵庫を開いて、中に何も無いことを思い出した。

 流石に水道水を出すのも失礼だよな。今度ティーバッグでも買っておくか。


「ごめん、せっかく来てくれたのにお茶も出せないわ……」


「いいって! リョウ君は病人なんだから、ゆっくりしてなよー」


「気を使わなくて……いいよ……」


「そ、そっか……」


 うーん、この絶妙に気を使って貰ってる感じが辛い。

 普段人の優しさに飢えているのに、いざ優しくされると申し訳なさを感じてしまう。

 これが陰キャのサガか。すげぇ悲しい……。


「やべっ、よく考えたらジャージのままだ。だ、ダサいって思われてないか……?」


 ドンキの前にいるヤンキーが着てそうなピューマのジャージ、陰キャの俺に似合ってるのだろうか。

 一応遊び着としても使えなくはないと思ってるんだが、何せユカは読者モデルだからな。

 俺がセーフと思ってる服でも、ユカからすればアウトかもしれん。


 一応着替えたほうがいいのか……?

 でも俺が持ってる部屋着ってほとんどジャージかスウェットばっかりだしなぁ……。着替えてもそんなに変わらん気がする。

 かといって今更制服を着るわけにもいかないしどうすればいいんだ……。


「ど……どうしたの……気分……悪い……?」


「い、いやそんなこと無いけど……。汗かいたから、着替えた方がいいかなって思っただけだよ」


「き、着替え……」


 ミカは何かを真剣に考える様な表情をして、両手をぎゅっと握り決心した。


「ミカが……体拭く……!」


「はい?」




 どうしてこうなった……! 何故俺は自室で、ミカの前で服を脱いでるんだ……。

 言っておくけど、俺に露出趣味とか無いからな。ミカがどうしてもって言うから、仕方なくやっているのだ。


「じゃ、じゃあお願いします……」


「うん……任せて……!」


「おう……」


 ミカが濡れタオルで俺の背中を拭く。その手つきに思わず俺は声を漏らしてしまう。


「うぅ……」


「だ、大丈夫……? 痛かった……?」


「いや全然……むしろ気持ちい――いや何でも無い」


 危ない危ない、もう少しでセクハラになるところだった。

 つーか背中拭かれたくらいで声漏らすなよ。キモすぎだろ俺。

 もしかして自分じゃ気付かなかったけど、俺って背中が弱いのか? また自分の弱点を知ってしまった。嬉しくも何ともねぇ……。


「んっ……んっ……どう……りょう君……?」


「いい力加減……です。はい……」


 どうって聞かれても、何て答えればいいんだー! 気持ちいいって言ったら何か気まずいしさぁ!

 大体ミカもミカだ。背中拭くだけなのに、何でそんな色っぽい声出してるんだよ! 変な気分になるわ!


「んふふ……ミカ……看病ばっちり……!」


 ミカの満足そうな顔を見る限り、本人は100%善意でやってくれてるんだ。俺が変な気を起こすわけにはいかない。

 そう思い、雑念を封じ込めようとしていると、ミカがとんでもないことを言い出した。


「次……前……拭くね?」


「えっ!? いやそれは、ちょっとどうかと思うなぁ!」


「あぅ……ミカ……迷惑だったかな……」


「ち、違っ。そんなつもりじゃなくてだな……。その、つまり……ちょっと恥ずかしいって言うか……」


「恥ずかしい……?」


 ミカさん、何でぽかんとしてるんですか? 俺変なこと言ってないよな? いくら友達同士でも、同級生の女子に裸見られるのって恥ずかしいよな?

 背中はギリギリセーフだとしても、前の方はちょっと……って思うのも仕方ないよな!?


「あ、あとは自分で拭くからいいよ。ありがとなミカ、おかげでさっぱりした」


「そう……なら……よかった……にゅふふ」


 ミカから濡れタオルを貰い、体を拭いていく。結構汗をかいていたらしく、拭いた場所からさっぱりしていく。大分気分が楽になるな、これ。


「さて……残り半分も拭きたいんだけど、ミカ」


「うん? なに……りょう君」


「ズボン脱ぎたいから、部屋の外に出てくれないか。そんな間近で見られると困るんだが……」


「ひゃう! ご、ごめんなさい……! ミカ、ユカちゃんのところに行ってるね……!」


 流石にミカもズボンの下を見るのは恥ずかしいって思ってるんだな。





 俺は全身の汗を拭き終わった後、スウェットに着替えてリビングに戻った。

 リビングには何だかいい臭いが広がっていた。もしかして、料理を作ってるのか?


「あー戻ってきた-台所借りてるよー。リョウ君、食欲はある? ご飯食べれそう?」


「うん。体調も良くなったし、丁度腹減ってたところ」


「よかったー! ミカちゃんと一緒におかゆ作ったんだ☆ よかったら食べてくれる?」


「一生懸命……頑張った……!」


「おお……!」


 出されたのはタマゴ粥だった。トロトロに煮込んだ米に、黄金に輝くタマゴが混ざっている。ダシの香りが鼻腔をくすぐり、食欲が湧いてくる。

 あれ……? トロトロに煮込んだ・・・・・・・・・……? おかしいな、俺がリビングを離れてから十分かそこらしか経ってないはずだが。

 おかゆを作るにしては些か短時間過ぎやしないだろうか。


「えへへ……実はレトルトのおかゆでしたー」


「ミカ……お湯で温めた……!」


「へぇ、レトルトのおかゆなんてあるのか。普段は買わないけど、こういう時はありがたいなぁ」


「でしょー。味も結構美味しいよ、食べてみて」


 確かに、見た目は凄い美味しそうだ。匂いも堪らん。レトルトなら味はしっかりしてるだろうし、不味いなんてことは無いだろう。

 だが、俺の頭にミカが作った弁当の記憶が甦る。解凍しきっていないおかずのモサモサとした食感が忘れられない。

 まさか今回も温める時間が足りなかった、なんてオチが待ってないだろうな……。


 いや、体調が悪い俺のためにせっかく二人が作ってくれたんだ。ありがたく頂こう。


「いただきます……あむ」


「ど……どう……?」


「美味い……。いや、何て言うか普通に美味いなこれ。味付けはさっぱりしてるけど、こういう時は逆にありがたいわ」


「そ、そっか……よかったー」


「やったね……ユカちゃん……」


「うん! 無事成功だねミカちゃん!」


 ミカとユカはお互いの手を握って喜び合う。うんうん、姉妹仲がよろしい様で何よりだ。

 しかし、我ながらこんな美人姉妹に看病して貰えるなんて信じられんな。

 女子の看病なんて俺には一生縁が無いと思ってた。あったとしても、病院の看護師さんくらいか。


 二人の顔を見ていたら、さっきまで感じていた体の怠さも吹き飛んだ気がした。


「ありがとな……ミカ、ユカ。明日はちゃんと学校に行くよ」


「うん……でも……無理しないでね……」


「早く元気になってね。ユカたちも待ってるから」


「ああ……」



 二人が帰った後に体温を測ると、微熱にまで下がっていた。

 今夜ゆっくり寝れば、明日の朝には元気になってそうだ。


 早く学校に行きたいな。そんな風に思ったのは、たぶん高校に入ってから初めてだった。

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