第17話 星座占いが一位だったから、美人の双子と仲良くなった

『今日の運勢一位は乙女座のあなた! きっと最高の一日となるでしょう。気になるあの子と急接近するチャンスかも!? ラッキーアイテムはオレンジのボール……』


「星座占いなんて誰が信じるんだよ。つーか何だ、オレンジのボールて」


 ニュース番組の占いコーナーを見ながら、俺は朝飯を食っていた。

 いつもは時に気にもしないのだが、乙女座ということでつい見てしまった。

 乙女座生まれとしては運勢一位っていうのは嬉しい気もするが、俺自身はあまりこういうのは信じない質だ。


 大体ラッキーアイテムがおかしいだろ。どこのご家庭にもあるものを言えよ、そんなんだから他のニュース番組に視聴率が負けるんだぞ。


「オレンジのボールねぇ……」





 あったわ、オレンジのボール……。


 俺の好きな国民的大人気漫画に出てくる、とあるアイテムを模したグッズだ。

 七つ揃えると願いが叶うアレである。


「しかし七つ全部を鞄に入れたのは流石にやりすぎか……?」


 まぁラッキーアイテムって言うぐらいだし、七つ持ってたら願い事くらい叶うか?

 いや、俺は全然占いなど信じていないのだが。別に叶えたい願いなんて無いけどね。“気になるあの子”なんていないし。


 でも念のため鞄に入れておく位はいいだろう。一度気になったら試しておかないと気が済まないのだ。

 乙女座だからな、センチメンタルで繊細で、どうでもいいことに執着してしまう。

 いや、俺の性質を乙女座全体の話のように語るのは、全国の乙女座の同士に失礼かもしれん。


 本当に占いなんて気にしてないけどね。



 鞄の中身を気にしながら通学路を歩いていると、ミカと鉢合わせた。

 そっか、家が近いからこうやって出会うこともあるんだよな。


「あ……りょう君……おはよ……」


「珍しいなミカ。登校中に会うのって初めてだっけ」


「そうだね……にゅふふ……朝からついてる……」


 俺なんかと朝一で顔を合わせて何がついてるんだろうか。俺の陰キャ気質で悪霊辺りなら呼び寄せてしまえそうな自信ならあるけど。


「ついてる……? いやまさかな……」


「…………?」


 そんなわけ無いよな。占いを意識しすぎだ。

 偶然の出来事を占いの結果だとこじつけようとしているんだ。

 朝からミカと出会えたくらいで幸運だなんて、全然思ってないからな。


「あれ、ユカは? 一緒にいないのか?」


「ユカちゃん……何かニュースに夢中……だったよ……」


「へぇ、そんな面白いニュースやってたっけ」


「ううん……占いコーナー……だったよ……」


「占い? それって『朝だよん』って番組だったりしない?」


「うちは……『モヤっと』派……。『朝だよん』は……お母さんがつまんないって……」


「ですよねー」


 悲しいかな、俺が見てるあの番組は朝倉家には不評なようだ。というか毒舌だな朝倉母。

 流石、同時間帯のニュース番組で一番人気が無いだけはある。俺は応援してるぞ。たまにアニメの特集とかやってくれるしな。


 まあアニメ特集って嬉しい反面、見ててちょっと恥ずかしくなるけども。

 何て言うんだろうな、あの現象。共感性羞恥? それもちょっと違うか。

 マイナーバンドがメジャーデビューした感覚? いやそれはもっと違う。

 とにかく、普段からアニメをいっぱい見てるはずなのに、ニュースで取り上げられると何か変な気分になる。まぁどうでもいい話なんだが。


「というかユカって占いとか好きなんだ。やっぱり女子ってそういうの好きなのか?」


「いつもは……そんなに見てない……かな。でも……今日は双子座が一位……だったから……」


「へぇ。ってことは二人は双子座なんだな、双子だけに」


 いや別にギャグを言ったわけじゃないぞ。双子キャラって星座も双子座なのが大体だから、ミカたちもそうなのかなと思っただけであってだな。

 アニメのキャラと現実の人間を同一に考えるなって? それはそうだな……。


 あれ? 双子座の誕生日って確か……。


「もしかして、もう誕生日過ぎちゃってたりする……?」


「ううん……今月の17日……だよ」


「そっか、よかった。もし誕生日が終わってたら、何もお祝いしてなかったもんな。そっか、17日か……覚えとくよ」


「にゅふふ……楽しみにしてるね……」


「お、おう……」


 とは言ったものの、友達の誕生日なんて祝ったことないから、何をすればいいのかさっぱり分からん。

 適当におめでとうと言っておくだけだと、何か薄情な気もするし。かといって、気合いの入れた贈り物を送るのも、それはそれで重いような。

 しかも異性の友達だからな。こういう場合、どうすればいいのやら。ネットの知恵袋で調べておくか。



 しかし、今日は朝から珍しいことが起きるな。

 ミカと登校時間にばったり会うわ、二人の誕生日を知るわ、更にはしれっと約束まで取り付けてしまった。

 これじゃあ、占いの結果を意識してしまうのも仕方がない。いや、俺は断じて占いなど信じないが。




 そのままミカと最近見たアニメの感想を言い合ったりして通学路を歩いていると、後ろから叫び声が聞こえた。

「いや~~~~!!」


「な、何だ!?」


 振り返ると、ユカが全速力でこっちに走ってきていた。ユカの後ろには犬がいて、どうやら追いかけられているらしい。

 どうなってるんだ……漫画でしか見たことないぞ、こんなシチュエーション。


「リョ、リョウ君……丁度いいとこに! た、助けて~!」


 俺が何かを言う前に、ユカは俺に抱きついてきた。


「ちょっ、ユカ……いきなり何するんだよ!?」


「ワンちゃんは好きだけど、大型犬は怖いのー! や~だ~!」


「ひゃう……ミ、ミカも苦手……!」


「ミカ! お前まで抱きついてくるなって! ほら、色々当たってるんですけどっ!? それを言及したら俺が悪いことになりそうだからやめて欲しいんだけど!」


 不味いって! 美人の双子から抱きつかれるとか、嬉しいけど嬉しくないって! 俺が社会的に死んじゃう!

 つーか占いで言ってた“気になるあの子と急接近”ってこれか!? 物理的に近付いてるじゃねーか! 心の距離的な意味じゃないんかい!


「ああもう、意味わかんね~!」




 とりあえず全速力で犬から逃げた。それはもう50メートル走の記録を更新できるんじゃないかってくらいのスピードだ。この時ばかりは自分の潜在能力の高さに感心したね。


「で、いい加減離れてくれませんかねお二人さん……」


 いつまで俺に抱きついてるの? というか、何で犬から逃げてる時も抱きついたままだったの? 何なの、コアラの生まれ変わりなの? 俺はユーカリの木か何かか。


「ご、ごめんね! ユカ、怖くってつい……」


「あぅ……ミカも……ちょっと恥ずかしい……」


「全く、大体どうやったら朝っぱらから犬に追いかけられるんだよ」


 あんな光景初めて見たわ。たぶん俺の中の珍百景にランクインするぞ。


「ユ、ユカは悪くないよー! 占いで赤いヘアピンをしたら、恋の後押しがーとか言ってたから……。それで家を出た後、散歩中の犬がユカのこと追いかけてきて……」


「恋ぃ? ユカ、好きな人でもいるのか?」


「っ!?」


 恋人はいないとか言ってた気がするけど、恋愛対象自体はいるのか。

 そうか、何か寂しく感じるな。これはたぶん、友達に恋人が出来るかも知れないから寂しく感じてるのだ。

 ユカに好きな人がいるからショックとか、そんなのでは無いと思う。あと、俺は友達に恋人が出来たからって嫉妬はしないからな。そんな狭量な人間じゃないし。


 いや……どうだろう。陰キャは嫉妬深いからな。あんまり自信ないわ。


「ち、違うからね! ユカ好きな人とかいないし! てゆーか占いとか興味ないから!」


「ああ、自分の星座が一位だからつい見ちゃった感じか」


「そうそう! もうリョウ君ってば勘違いしちゃってー! 困るなーアハハー!」


 まあそういうこともあるよな。俺だって今日の占い結果を信じそうになっちゃったし。

 でもやっぱり占いなんて当てにならないな。だって俺の見てた番組と、ユカの見てた番組で一位の星座が違うんだし。

 ああいうのを信じるのはダメだな、うん。


「……占い見て良かった♪」


「ん? 何か言った?」


「べっつにー☆」


 ユカは上機嫌に前を歩いて行く。よく分かんないけど、ユカの笑顔を見ると朝から元気が湧くな。

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