6.いつものバカ騒ぎ(3)
「いよーし、行ってこい」
「え、オレもですか?」
「局長命令だからよぅ」
「他人事みたいに言わないでください」
とはいえ。ここにいても仕方ないので、協力することにする。いつもお世話になっている特殊部隊の人たちが文字通り人の3倍くらいの勢いで動いているのが見えるので、ささやかながらの感謝の選択である。
捕まえられるか、わからないけど。
「秋葉、3匹捕まえてここに同時に持ってこられたら褒美に何か言うこと聞いてやんよ」
「お前はやる気なしか」
「こういう時はな、大物は動かないのがポイントだ」
「小物で悪かったね」
全く他意なくアスタロトさんがそう言いながらダンタリオンの後ろを通りすがっていったので、ダンタリオンは固まっている。
「ほら秋葉と忍にはソナー代わりにこれあげるから。何かあったら連絡して」
清明さんからハンデももらった。場所が分かっても捕まえられるかは別として有難くいただく。
「やりぃ! 5匹以上でおっさんの奢りゲットー!」
「ルースさんも来てたんか」
「今日はなんか、この辺にみんな集まってるね」
「磁場が出来てるのかな」
謎の見解をだしながら、5匹まとめて首ねっこをつかんで吊るしているルース・クリーバーズを眺める清明さんと忍。
この人はノルマ20匹くらいでも行けそうではないだろうか。明らかにふつうではない。特に何か懸賞がかかった場合。
「施し目当てに協力するなんて、神父の風上にも置けませんわよ、ルースさん」
その時、ボコォ!っと音がしてルース神父の後頭部を何かが直撃した。衝撃で手を離してしまうルース。
「あー!!! 何すんだよ、姐さん!」
「何すんだではございません。奉仕の精神でこういうことはするのが筋というものです」
シスターバードックは、敬愛するフェリシオン神父に何かと迷惑をかけるルースも矯正すべき「敵」として認識している。
「このっ」
後頭部に当たって伸びているそれをすかさず拾い、ものすごい勢いで投げ返すルース。
「甘いですわ!」
「うっせ! もう一匹くらえ!!」
もう一匹ってちょっと待って。投げ合いに発展している弾は回収すべき生物では。
放っておこう。
「ソナー見て追い込めそうなとこ行くか」
「秋葉、あっち」
と忍と狭い路地に入った。
入った直後に、言われた。
「公爵3匹でいいって言ったよね。司くんに三匹まわしてもらおう」
「……オレ、恩返しのつもりで協力してるんだけど、逆にそこ譲ってもらうとこなんか?」
「いうこと聞いてもらえるなんて、滅多にないよ。きっと司くんは……」
「ほら、これあげるから頃合いみて持って行ったらいいよ」
うん、まぁどちらかというと積極的に協力してくれるだろうな。ダンタリオン、お前の人望はこんなものだ。そして協力してくれるヒトは司さんだけでなく……
オレは探索が始まって数分で、アスタロトさんからそれが3匹入った袋を素直に受け取った。
「ありがとうございます」
「持ち歩くのなんだから、隠しておこう」
スタート地点に探し物を隠すという、灯台下暗し計画で他の個体を探しに行く。途中からは忍が本気で遊びたがっているので一人でおっぱなしてオレはマイペースにソナーの表示を追うことにした。
* * *
30分後。
「指定数、回収完了しました!」
「早かったな」
「かわいいわ。魔界にもこんなにかわいい生き物がいるのね」
アパーム様とアシェラト様はニンゲン女子よりはるかに高い女子力で花を振りまきながら、キャッキャウフフしている。
飴と鞭作戦に加え、神魔が参加したことにより、意外に早く回収が完了した。なんとなくげんなりしているのはノルマを達成できなかった警官だろう。
いちいち数なんて数えてないから、お咎めも何もないと思うが。
「よし、ノルマ未達成者は今夜のおぢさんの安らぎのために酒とたばこを買ってこい。銘柄はシックススターの重い方で。つまみもあったらご機嫌な感じになるなぁ」
局長、完全にそれただの個人的な使いっパシリです。
しかし、それくらいで済むならと問われてもいないのにノルマ未達成者の黒服警官は自主的に店に走っていった。ある意味、ものすごいカリスマだ。
「まさかお前が4匹も回収してくるとはな……侮っていた」
悪い。内三匹はアスタロトさんの差し入れなんだけど、たぶんお前が間接的にアスタロトさん小物発言した報いだと思うから、素直に使うわ。
「公爵、私は?」
「シノブ、お前は5匹くらいならやると思ってた。ナゴミが何かくれんだろ?」
「楽しそうでいいねぇ。よし、今日はおぢさんおススメのお店で飲むか!……と言いたいところだけど、今時セクハラになりそうだから他に何か……ある?」
ある?って言われても。この人に何お願いするんだよ。何お願いしても銃口向けられる予感しかしないわ。
「んー じゃあ交代でいいので特殊部隊の人たちに、バカンスください」
「お前な、この時期にバカンスとか」
「3日連続の夏季休暇みたいな感じでもらえるとゆっくり過ごせるんじゃないかなぁと思う」
「確かになぁ。テスト勉強も一夜漬けより睡眠少し取った方がいい点出るって言うしな」
ふいに。局長は一夜漬けのさなかに豪快に寝落ちしていたタイプに思う。
「あいつらなら少し休ませてもダレることはないだろ。大体方針も決まったし、好きにさせてやるか」
それは結局のところ、信頼関係なのか。……一方通行にせよ、悪くない判断だと思う。
そしてこの、いつも通りといえばいつも通りの事件は幕を下ろし、理由も告げられずに特別休暇を3連続取れという局長直々のお達しに、特殊部隊の人たちは、無用に恐れおののくのだった。
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