5.いつものバカ騒ぎ(2)
「付近1㎞圏内に神魔出入り禁止の結界を張ってあるから、その中でいるのを捕まえれば大丈夫だよ」
「あーさすが。でもそれだと公爵とアスタロトさんも出られないですね」
「出られないね」
事態が収拾するまで軟禁状態になった魔界の公爵二人。
「ふざけんな。光の速さで捕獲しろ」
「なんでオレだよ。そもそもお前がこうなる前に思い出していれば。というか自分で来ておいて何言ってんだ。お前が捕まえろ」
「あらあら、神魔ということはわたしたちも出られないのね?」
「アパーム様、どうしたんですかこんなところで」
突然現れた水の女神さまにダンタリオンに対するのとは違う意味で聞いた。敬意を払いつつ。その近くには大地母神のアシェラト様も一緒だ。
「ちょっとおでかけしていただけなのだけれど、騒がしいから来てみたの」
言い方は丁寧だが、結局みんな物見遊山じゃねぇかぁぁあぁぁ……!!
嫌な汗をかきそうになりながらオレは心の中でつっこむが、間違っても口に出さない。
と、いうか出せない。
「これはやっぱりゲーム化すべきだよ。常日頃インドアで遊ぶ一木くんたちにもオフラインゲームの楽しさを味わってもらった方がいいよ」
「お前、さり気に参加したいんだろ」
「とりあえず何匹に分裂したのか情報」
「328匹かな。結界の中の特定分子をカウントしてみただけだけど」
清明さんは有能だ。
「多くないですか」
「半端じゃないですか」
「あいつら成長具合で分裂数変わるから、どっちの質問も自然の摂理としか言いようがない」
ダンタリオンの捕捉に魔界産の生き物は自然の摂理に当てはまるのかというそもそも論。
「日本はこんな愛らしい動物が爆増しますの? なんだか事件のようでしたので捕獲してみましたけれど」
そこへシスターバードックがやってきた。たまたまこの辺にいたらしい。
しかしオレはその声に振り返ってぎょっとなった。
シスターは……
どうやっているのか、分裂したそれをまとめて胸の前で団子状にして抱えている。ぱっと見、20匹くらいはいるだろうか。……真ん中あたりにも詰まっているのだろうか。
「はっ! 魔界の生き物が愛らしいとか神のしもべの目は淀んでるな」
「まぁ! この生き物は魔界産なんですの!? 汚らわしい!!」
「こっちに投げつけるな、このアマ!!」
……………………。
シスターは容赦なく抱えていた巨大な塊をダンタリオン向かって投げつけ、容赦なく打ち払ったダンタリオン。おかげで
「なかなかの収穫だったのに、全部散ったね」
「再分裂させてどうするんだよ! キャッチしろよ!」
「あの状況でこんなヤツから何か受け取ろうと思えないわ! 明らかに悪意しかないパスだろうが!」
もはやいつものごとく傍観者と化して散っていったうり坊を眺め見送ったアスタロトさん。
局長が来たことで集まった特殊部隊の幹部……というか司さんや浅井さん、近くにいた人たちは、とにかく捕獲するしかないということを知り、げんなりと散っていった。
うん、通常運行だ。
「制限時間は一時間。5匹以上捕まえられない人は減給処分です」
「なんで罰ゲーム方式なんだよ。減点主義反対!」
『おーぅ、お前ら。一時間以内に5匹以上捕まえられないヤツは減給だからな。黒服白服関係ないぞ』
局長。速攻忍の冗談を取り入れるのやめてください。
この界隈の警官に向かって無線を飛ばす、最強の減点主義者がここにいる。
「10匹以上捕まえられたらボーナス。……一般人はノルマ高いから6匹くらいしとく?」
『特殊部隊のノルマは一人10匹、黒服は5匹。倍捕まえたらボーナスで、それ以外は5匹以上捕まえてくれたらおぢさんが奢る』
局長、無線の割に後半は明らかにオレと忍に向けた私信と化してますよ。それ聞いてるの警官とオレたちだけなので。
しかし見事な飴と鞭だ。
金が欲しい独身世代の一般警官はがぜんやる気を出している。
「ボクたちも参加していいのかな」
興味を引いたのかアスタロトさんも参加表明をしてきた。
「神魔のヒトに参加してもらえるとあっという間に終わりそうなんだけどなぁ…景品とか思いつかんよ?」
「出来る範囲でお願い事をひとつ聞いてもらうとかどうかしら」
「あら、私、行ってみたいお店があるのだけれどいつも行列で入れないの。貸し切りだったら参加しちゃう」
女神様方も乗り気だ。
「オーケーオーケー。景品なんて言わず貸し切りなんか楽勝よ」
まるでキャバレーでボトルを入れるおっさんのごとく……局長は太っ腹にその提案を受け入れた。権力とかアレとかこれとかいろいろで強引に何とでもするだろうから、オレには関わりのないことだ。
「網ください。何か捕獲用の」
「この子たち、噛みついても来ないから素手でも大丈夫よ」
バリバリ参加する気になっている忍を前に、ぬいぐるみのようにぎゅっと小さなうり坊を抱きしめているアパーム様。
……おい、なんかその魔界産、嬉しそうだぞ。
「ジャパスタ映えしそうな構図だ。アパーム様、写真撮っていいですか」
「いいわよ」
「アシェラト様も良かったら捕まえて愛でているところを」
「いい思い出になりそうね」
忍、この状況を楽しんでいるお前たちの感覚がオレにはわからないよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます