21.国家機密はファミレスで(2)

明らかに森さんの食事にケチをつけ、理由を指摘した忍に対して反論しているスサノオと二人のこの構図。


「………………」

「司さん、オレも森さんからスサノオと意思疎通できるようになったことしか聞いてなかったんですよ。今の会話は衝撃的です」

「衝撃というか、疑問しか湧いてこない」


どうでもいい疑問なので敢えて黙殺したのかもしれない。


「日本人はグルメだから、始祖に近い立場の神様もグルメでもおかしくないのでは」

「お前はさっきから何を考察してるんだ。なんでこの状況からまともな推論が出てくるのかわかんねーよ」

「そういえばずっと森の内側にいたことはいたのに、今更食事がどうのというのは、意思疎通できるようになってから感覚共有もするようになったということか?」


すごいですね、司さん。忍の考察より更に現実的で有益すぎる疑問出てきた。


「そう……いうことかな。考えたことなかった」

「森さん、忍もですけど時々すごく何も考えない時ありますよね」

「うん、デミグラスソースとか前にも食べたことあるわけだし、今はじめて味わいましたみたいな感想だから、多分、司の言う通り」


……この食事会、そしてスサノオの食の好みというまったくどうでもよさそうな状況から、とても大事な情報が飛び出してきた。


「初めてか~ なんかこう、感想聞きたいドリンクバーカクテルを作って来てもよろしいか」

「ヤだ。だってそれ飲むの私だから」


忍、お前は一体何をカクテルしようとしたんだ。森さんが断るってことは明らかにおいしい系ではなく実験系だぞ。それ散々暴れまわったカミサマに飲ませようとかどういう思考回路なの。


司さんは黙ってそのやりとりを見守っている。


「……今のところ、害はなさそうなんだな」

「ないよ。私はスサノオの話を聞くし必要な時は身体を貸す。逆に不必要な時は乗っ取ったりしないのが私とスサノオの約束事。そもそもふつうに日常送るには未経験なことが多いスサノオにとっても不便だということに気づき、協定ができました」


あー確かに。乗っ取った後、戦場ならやりたい放題だけどふつうに何もない時、何をどうしたらいいかわからないよな。

ということに気付いた森さんはきっとそれを交渉の要素にして、説得したに違いない。


相手にとってのデメリットとメリットを明確にして、WIN-WINに持ち込む。

これは時折、忍がやっていることでもある。


「しかし、今、司の発言に対して若干の反論があったので、今後は本人が聞いていることを認識して発言した方がいいと思う」

「……そうか。内部でどうなっているのかわからないが、あとでどんな感じか教えてくれ」


そこは帰宅してからゆっくり話せばいいことだろう。きっと聞きたいことも色々出てくる。

何せ同居人が突然ひとり増えてしまったのだから。



「司さんも森さん通して話すようになるんですかね」

「……」

「? 森さん、どうしました?」

「うーん、話すことなんかないくらいのこと言ってるからちょっとへそ曲げたね」


まぁ司さんは森さんが乗っ取られないように一度は力技で封じたし、次はスサノオが司さん襲ってたし、関係としては微妙だろう。へそ曲げたくらいで済むのが不思議だが。


「スサノオ、天ぷら食べる? 和食だけどスサノオのいた時代にはなかったのでは」

「……食べるって」

「すごいな、忍。そうやってふつうに会話できんのか」


ていうか食事の話題はふつうに会話が成立するのか。どういうことだよ。


「基本、本人がいるという時はふつうに話しかければ普通に答えてくれるし、森ちゃんが通訳してくれる」


何、通常運行みたいになってんの?

この辺りが常人には理解できないところでもある。

今度ばかりはオレも慣れというか理解に時間がかかりそうだ。


世の中には理屈ではわかっていても、理解に時間のかかることはけっこうある。


「……」


司さんは黙っている。自分との会話は現時点で成立しないと判断したんだろう。一通りの報告会が終了したのであとはふつうに和やかに食事をとって、締めとなった。


そして後になって思う。



あの感じ。しゃべれない不知火相手に森さんと忍が接してる時と似てるよな。



そんなことをスサノオの前で言おうものなら、逆鱗に触れそうなので絶対に黙っていようと心に決めるオレだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る