20.国家機密はファミレスで

実際。


「スサノオは、おにぎりはシンプルに梅が好きらしい」

「どうでもいいから。なんで梅なのか気になるけど、ホントどうでもいいから」

「よくない。森ちゃんはあんまり梅干し好きじゃないんだよ。塩結びの方がいいと言っている」

「……」


そっか。食べ物の好みでくい違いが出ると厳しいよな……じゃなくて。


「『おにぎりは梅推し』の理由は推測できる。鮭がベーシックでホントはいいらしいんだけど、結局内陸でも食べられる中身になるときっと梅干しなんだろう」

「めちゃくちゃどうでもいいよ!」

「秋葉が気になるっていったのに……」


そんなところはきっちり気に留めて答えてくれるのな。お前、すごいよ。

予想していたわけではないが、やっぱり食の好みがまっさきに露呈されている。

毎日のことだから、そんな話題になりやすいのだろうが。


「でも梅系のスイーツとかお菓子はおいしいよね」

「そうだな。さわやかな感じだしな」


諦めて同意する。梅は日本のお菓子や飲み物、食の定番のフレーバーだからして。


「司さんには話したのか?」

「それに関しては連帯責任で、三人同席して説明するかという話になり」

「……」


一人目、当事者森さん。二人目、意思疎通経験のある忍。三人目、……?


「森ちゃん一人でもあっさり暴露してもいいんだけど、その後、司くんが色んな意味で悩んでしまうのは目に見えており」

「わかるよ。黙ってるにしても立場的にすごく複雑だよ」

「それを軽減するために、情報共有を一度で済ましてしまおうという」


むしろ後半、オレたちの都合だろ。

そう、まだご指名されていないが三人目がオレであろうことは容易に想像できた。

司さんはともかく、もしかしたらスサノオが出てくるかと思うとそんな簡単な話なのか、微妙な気がするのだが……


「スサノオって大丈夫なの?」

「中継通訳はするだろうけど、何かあったら困るから同席しておこうっていうのも私にはあり」


その辺りは割ときちんと考えているようだ。軽く話していても、有事の事態も忍は想定しているんだろう。

しかしオレにできることと言ったら


「オレはお前らの突飛な説明にクッションとして入ればいいんだな?」


文字通りクッションなのでいるだけという意味だ。それでもきっと司さん一人きりよリ負担は少なくなると思いたい。


「そうだね、どういう反応をするのかちょっとわくわくする」

「サプライズじゃないの! 有事を想定した真面目な会合なのか内緒でペット飼ってましたの暴露話なのかどっちかにして」


そんなわけで。

なぜか場所を夜のファミレスに指定されて、仕事後に集まることになった。



* * *



なんでファミレスなんだ。ふつうに司さん家でいいじゃないか。

スサノオが表に出てきたらどうするんだ。

有事の際の想定が人がいるところってどういうことなんだ。


そして、そんな中、国家機密を暴露された司さんの反応。


「………………………………………………」


沈痛な面持ちで額を抑えたまま、沈黙することしばし。

単なる気軽な食事会を装って来てもらったらしいので、衝撃も凄まじいものだろう。


「あの、司さん……」


忍と森さんが声をかけても反応しなかったので、見かねて声をかけるが……


「忍ちゃん、ドリンクバー行くけど何か取って来る?」

「ちょっとミックスしたいから私も行く。司くんは?」

「アイスコーヒー」


たぶん頭を冷やしたいんだろうな。額を押さえた姿勢のまま応えた。

その後オレも希望を聞かれたがお断りする。この状況で三人で席外すとか今の暴露大会なんなのみたいになってしまう。


「すっきりした。胸のつかえがとれたようだよ。ありがとう、秋葉くん、忍ちゃん」

「森。その分が俺の腹の中に納まった。胃もたれそうなんだけどどうしたらいい?」

「温かいスープでも注文しようか。胃に優しそうなやつ」


そういう問題じゃないだろう。しかし、沈黙の中動き始めた女子二人によって再び会話は軌道に乗り始めた。


「それで、スサノオは……今も何か言ってるのか?」


今も意識を共有していることは説明の中にあったので、司さんが言っているのは「具体的に会話する状態なのか」ということだろう。

運ばれてきた温かい食事にフォークを運びながら森さん。


「うん……デミグラスソースがまずいと」

「それ、食べ慣れてないだけじゃないかな。まずいっていうか未知の料理を食べてるようなものでしょ」

「和食にしろってちょっとうるさい」


どういう会話してるんだよ。

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