19.スサノオ(2)
「そう言われれば……ある意味力技だったもんな」
あれほど力づくで封じられることに怒りを覚えているようだったスサノオが、最後に自分を封じた忍と食べ物談義……全然想像つかない。と言いたいが、相手によってはありだと思ってしまうオレもいる。
「封じたと言っても、私が封じ切る前にエシェルが圧力かけてた」
「そういえばそんなことがあったね」
「だからある意味、スサノオは自分の意志でひっこんだ、ってことか」
「割と竹を割ったような性格です。ねちこいやり方をされると根に持つけど、ちゃんと筋を通すと面白くなくても黙るタイプ」
それ、お前と森さんには説得しやすいタイプだろ。
少なくとも忍にとって一番説得が難しいのはまず「聞く耳もたない感情的なタイプ」であり、獣のようだが獣の方がマシ。みたいなことになる。
「へぇ、荒神は意外と頭も効くタイプだったか」
「そもそもスサノオと言えば八岐大蛇を退治したエピソードが有名だけど、その時も真っ向勝負でなくお酒を使ってますからね」
「大量に酒のまして、酩酊してるところを退治したんだっけ?」
「そう。いくら力があっても頭を使わないと勝てる者にも勝てないという意味で、教訓的な話でもある」
ちょっと意外だった。なにせオレたちが目にした姿は現れる度に森さんを乗っ取ろうとしたり、司さんにまで森さんの姿で斬りかかるような凶暴性だ。
本須賀の身体に入った時の戦いぶりは鬼神、とでもいうんだろうか。とても好戦的に見えたし何より、慈悲のない本須賀への処遇。
……醤油パスタ派とか意味わからん。
「素戔嗚尊(すさのおのみこと)の話は残っている文献でも割と有名だね。海外で言うところの破壊神の素養が強いから、ごり押しのイメージは確かにあるのかもしれない」
「でも情報系の能力強い割に、割とごり押し好きな公爵の存在を考えると別に何もおかしくないです」
「シノブ、もう一回正しい言葉で言い直せ」
「……。情報系能力が強力なのに、最前線で活躍してくれる公爵のような存在を考えると逆もありだと思います」
なんだろう、このデジャヴ。似たようなことが少し前になかったか。
しかし今のはちょっと考える間があった。
「お前は偉いよな。直せって言われたら反論する前に思考がそっち行くもんな」
「そう思うなら少しは見習え! ほら、シノブには冷却保存かけておいたプラリネをやろう」
シャーベット二つ目をそうしてご褒美に忍は与えられる。
お前それアスタロトさんがオレたちに買ってきてくれたものなんだけど?
さすがにふたつはきついのか、手にしたまま沈黙している忍。気温差で腹壊すなよ。
「プラリネはともかく、話ができるなら繰り返しを避けることはできるだろう。よほどうまくやらないとならないかもしれないけど」
「その辺りは森ちゃんとスサノオの間で共存協定みたいな何かが出来つつあるので、大丈夫かと」
「知らない間に何がどこまで進んでるんだよ」
そう言うと諦めたように忍は新しいスプーンを手に取った。白状をあきらめたんじゃなく、シャーベット二つ目にチャレンジである。誰の顔を立てたのかはわからない。
口にしながらちょっと遠い目で忍。
「詳しい話は聞いてない。でも少なくともスサノオはもう前みたいに人の身体を乗っ取ろうとはしてないみたいだし、その話をしないのは中央に知れてうまくいってるところ邪魔されるのが嫌だから」
それは学生でも社会人でもよくあることだ。自分なりにプランを立てていたら、うっかり親や上の人間に相談してしまったがために逆にめんどくさいことになってしまうという矛盾。特に組織人になると現場が分かってない系の人が出てくると引っ掻き回されて終わり。というケースはよく聞く。
「確かに繊細な問題だから、下手に政府が関与するよりしばらくは静観する方が正解かもね」
「そっとしておく方がうまくいくことってけっこうありますよね」
しょっちゅう世話を焼くのではなく、必要な時だけ手を差し伸べるのも優しさだ。などと忍は冷たいと思われがちな都会事情をしみじみ語っている。
「清明さんには相談してもいい気がするけど、そうすると清明さんが困るので黙っておくほうがいいかなと」
「どっちにしても手に負えないから、この話はここだけにしよう」
オレにしては適切な判断だったと思う。その辺りはさすが悪魔というべきか報告義務がどうのルール重視の何かを言い出す輩はいない。
「そんなわけでスサノオはパスタは和風派ということで」
そこに収束させるのかよ。
この調子だと、何よりも先駆けてスサノオの食の好みが解明されそうだと、オレは思った。
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