18.スサノオ

「ヒントとか出してる場合じゃないの。……どうしても何か聞きたいなら森さんに聞いてくれ」


一発解決のアイデアが出た。森さんの方がこの悪魔(一体特定)を捌く方法はきっと心得ている。忍の類友であるのだとすれば。


「きっとペットが一匹増えましたとか言われて終わるけど」

「ペット?」


何人かの声がタイミングぴったりで重なった。

視線はオレに集まっている。そして「あぁ」という忍の声。


「スサノオがけっこうやさぐれてて大変とかそういう話?」

「……お前知ってたの?」


やさぐれはともかく、すでに情報交換済であることは容易に推測できる発言だった。


「やさぐれ……確かに性格的に荒い感じだけど、戦闘中に使う言葉ではないね」


ほらほらーアスタロトさんが早くも見当つけ始めただろ!?


「その話ならここのメンバーならいいと思うんだよ。でもいまのとこ秘密だから一応本人に確認とろうか」

「そうして」

「いいよってあっさり言う方に賭けてもいい」


確定だ。忍にはもう話が伝わっている。

目を覚まして結構経つから当たり前と言えば当たり前だったかもしれないが……教えておいてほしかった。


そして忍は森さんにその場で電話をかける。通話よりメールを好む忍にしては珍しくプライベートな電話。

だからこそ、それを知る相手は大体「緊急性が高い」と思って出てくれたり、留守でも割と早めに折り返してきたりする。


森さんもすぐに出てくれた。そしてすぐにOKが出た。


「ほらね」

「いや、ほらねじゃなくて。オレのナニイッテルノカワカリマセン共和国はどこに行っちゃうわけ」

「国として認可されないまま終わった」


その通りだ。もう二度とオレの口から出ることはないであろう。


「じゃ、忍、説明。……すみません、アスタロトさん、もう一つもらっていいですか」

「いいよ」


異様に脳が糖分を欲しがっている。喉も一気に乾いた気がするので説明は忍に任せて一息つく。

なんでオレ、こんな疲れてんの?


「スサノオの話です。ミカエルが来た時、七十二柱の力で精神力盛り上げたら森ちゃんとスサノオの意識が混同したタイミングがあったらしく」

「あれ? 今の話じゃなくて?」


オレが聞いていたのは「今話ができる」。忍が言ったのは過去の話だ。

しかし、今の話も。と忍は続ける。途中だったか。


「一時的に混線じゃなくて、混同なのか?」


ダンタリオンも聞いた。


「同居状態。その隙に森ちゃんはスサノオを説得したようです」

「すまん、オレそこまで聞いてないんだが」

「うん、だから最初から話してる」


そっか。オレが聞いたのは現状だけでそんな細かいこと話すほど二人で顔合わせてたわけじゃないしな。追及するのもどうかと思っていたわけだが、そこは忍はもう情報をシェアしているようだ。二人のことだから、雑談の延長位のノリであろう。


「さすがシノブの類友だな。何が起こったのか全然わからないが、秋葉の反応だと今も意思疎通ができるってことだろ」

「……腐ってもお前、知識系の悪魔なんだな。なんか感心した」

「嬉しくねーよ。素直に褒めろ。で、さっきの話につながるわけか」


さっきの話、「なぜスサノオは森さんを選んだのか」だ。

わからなければ本人に聞いてみればいい、というのはそういうことである。


「それで? そんな話もできる状態なのかい?」

「うーん、けっこうむらっけあるみたいで。あとやっぱり人間の都合で封じられてたとこがあるから機嫌が悪くなるのもわからないでもなく」

「意思の疎通は可能でも、懇意ではない。ということか」

「パスタはクリームより醤油の方が好きみたいです」

「どういうこと!!?」


もう何が分かっていなくて何がわかっているのか、全く見えなくなってくる発言が返ってきた。

ダンタリオン曰く。


「どうでもいいことはわかっているのが丸見えだな」

「ほら、森ちゃんあんまりパスタ好きでないので……司くんがたまに作るのは好み抑えてるからおいしいんだけど、そこから塩コショウより醤油という論議になり」

「今の言い方。明らかにお前もその場にいて食ってるかのようだけど?」

「いたもん。私も塩コショウ派だから森ちゃんを介してだけど三人で食事談義になり」


お前ら何やってんだ――――――!!!!!!


「次は醤油をリクエストしたという話」

「めちゃくちゃどうでもいいけど、司さん知らずにスサノオのリクエストでパスタ作らされたんか」


白上家では料理当番が決まっているわけではない。

基本、森さんが作るらしいが、司さんの勤務時間も夜勤有りの不定期なので半端な時間に帰って小腹が空いてたらそれくらい作る、という話は聞いたことがある。

料理が得意というわけでなくあるもので適当に作れるからそうなると言っていたが、コンビニ御用達人間には縁遠い話だと思った一件。


「次来たらそれネタにしてやるか」

「お前ホントに懲りないな。忍、こいつに話したんだから後から司さんが恥かかないように先に話すようにしとけよ」

「そういえばそういうことになるね。内緒って言ったのに、公爵は内緒に出来そうもない」


メンタリストのくせに顔に出そうだよな。


「それじゃあ親睦は随分図れてるみたいだね」

「え、アスタロトさん今の会話でどうしてそうなるんですか」

「ふつうに考えて本当に気を許していなかったらそんな雑談なんてしないだろう? 少なくともスサノオは、忍と森には会話をする気があるということ」


確かに。どうでもいい日常会話ほど、関わりたくない人間とはしないものだ。もっとも忍もそうだが全然億さないから神魔の方が気を許すパターンは割とあるわけで。


「しっかし前回そのスサノオを封じたのはシノブだぞ? ツカサ妹はともかくそこはわからないな」


言われてみればもっともな疑問を口にしたのはダンタリオンだった。

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