17.国家機密と早押しクイズ
じゃあ。森さんが選ばれたのはどういう理由なんだろう。それはきっとわかっているとしても清明さんたちくらいなものだろう。
森さん自身はもちろん、司さんも知らないことだ。むしろ生贄のようなその処遇は、なぜ森さんに限って、と思わざるを得ない。
個人の尊厳が尊重されるこの時代、ましてこの国で、神に捧げられることが光栄だなんて思うやつは、きっといない。
「森ちゃんが選ばれたのってやっぱり『壊れない器』だからなのかな」
その疑問は忍が聞いた。司さんがいたら、口には出ない言葉だろう。
もちろん、それをダンタリオンやアスタロトさんが知るはずはないと思うが……だからこれは、きっと自問に近い。
「どうだろう。壊れない、というより壊さないように使っているように、ボクには見えたけど」
「スサノオが、ですか?」
目にしてきた性格ではまったくそんな配慮をするようにも思えないが、オレたちにはわからないことだらけだし、そこはなんともいいようがないのが困る。
アスタロトさんは続ける。
「彼女……本須賀葉月は明らかに『壊れてもいい』使われ方をしていた。人間の器の限界を超えた、あの動きを君も見ただろう?」
そう。本須賀の動きとスサノオが降りた時の森さんの動きは明らかに違っていた。圧倒的、といってもいいくらいに。
最初はそれは本須賀の言う通り、本須賀自身に戦闘経験があるから「使いこなせている」と誰もが思ったに違いない。オレたちも疑問を抱く余地はなかった。
「まぁ、あの女は曲がりなりにも特殊部隊だし、あれが本来の、あるいは元から戦う術を心得ていた人間を器とした動きだと思われても仕方ないわな」
ダンタリオンが今更、と言わんばかりに呆れた息をついている。
事実が違っていたなんて、誰が言わなくてももうわかることだ。
「人間は普段、体が壊れないように無意識にリミッターをかけているっていうけど」
「火事場の……ってやつだろ? いざってときに信じられない力が出るとかいう」
「その体の使い方だと、筋はもちろん内部組織も損傷しかねない。スサノオは壊れてもいいからそれをはずして通常ならあり得ない『使い捨て』の使い方をしたってことだな」
簡単に言ってくれるが……意味は分かった。
本須賀の望むとおりにその力を使わせ、「使い切った」結果があの、裂傷。
あれは、本須賀の体が「もたなかった」証拠だったのだろう。
自刃したのは、スサノオの意志。
己をわきまえない罪に、命を代償とした。
誰に止められるはずもなかった。
「結局、森さんが選ばれた理由っていのは」
「オレにもわからん。術師たちにもな」
「本人に聞いてみるのが早いんじゃないのかな」
本人に。
オレは閉口する。
聞ける。たぶん。今なら。
森さんは少しだがスサノオと意思の疎通ができるようになったと言っていたから。
しかしそれをオレはここで口にすることが……できるはずはない。
国家機密レベルのトップシークレット。
白上家でひそかに同居人が一人増えているなど……!
「秋葉、どーした。顔色が悪いぞ」
「え? いやなんでもねーよ? 忍、大分涼んだしシャーベットも食べられてよかったな。そろそろ戻るか」
「待て」
じゃ、と立ち上がりかけたオレの腕ががっしと掴まれた。
……嘘をつくのが下手。なわけではないと思うんだが、とりあえず、うそをつかないで済んでいる人生を送ってきたオレは、未熟だ。
いや、それ以前に国家管理レベルの重要情報を持ってて平気な方がきっとおかしい。
そう、顔に出るのは人間として健全な証拠。
「なーにーを隠してるのかなぁ?」
「隠してない。お前の方がいろいろ隠してる。忍、今日の復命どんな感じにしたらいい? アスタロトさんはあんま名前出さない方がいいんだよな。ダンタリオンが話したことにする?」
「秋葉にしては口数が多すぎる。知ってる? 人間やましいことがあると聞いてもいないのに自分から言い訳したりするの」
忍まで一緒になってオレがここから去ろうとするのを止めるの、やめてくれ。
「とりあえず『前天使襲来時における現場情報の交換。機密事項に値するため内容は秘匿とするよう指示あり』とかでいい?」
「いい! すごくいい! お前は偉いよな。ちゃんと聞かれたことに最終的には答えるもんな」
「なので機密情報をどうぞ、お話しください」
オレか。
それはオレの発言後に対する未来の復命なのか。
「言うまでこの部屋から出さないからな」
「せめて大使館内からにしてくれ。そしたら1週間くらいは我慢して住めるから」
「そんなに言いたくないことなのかい? ……逆に気になってくるね」
大体傍観者でいてくれるアスタロトさんの興味まで引いてしまった。笑顔で言われると本気なのかそうでないのかよくわからないけど、どっちにしてもこの部屋から逃げられない気しかしない。
オレは……諦めていいんだろうか。さすがに森さんの身にも関わるイコール司さんにも関係するし、人として内緒と言われたことをべらべらしゃべるのはさすがにどうかと思う。
こんな状況だけに余計。
「何青くなってんだよ。観念したのか?」
大人しくソファに座り直したものの「ずーん」みたいな擬音を背負っているかのようだ。
「秋葉はこういうの慣れてないからね。こんな時こそナニイッテルノカワカリマセン共和国で済ませばいいのに」
そうだったな。こんな時のそういう回避方法だったな。忍のようにはいかない。
そして気になるととことんな忍の性質からもオレは逃げられない。
「ヒント言ってくれればこっちが勝手に当てるから」
「なるほど、それなら何か知ってても罪悪感もないだろ。よし言え」
クイズじゃねーんだよ。
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