4.国家レベルの機密情報

忍は再度検査を受けることになった。

ただし、前回のように「科学医療」の分野ではなく、術師からのアプローチだ。心身のバランスをとること、これは大事だがそれに加えたオレたちにはわからない何かがある。微妙なバランスは、二点でなく三点を結んだ先にあるらしい。


「忍ちゃんは、いつ目が覚めるんだろうねぇ」

「たぶん森さんが眠ってた時、忍は似たような気分だったと思いますよ」


来たら検査中だったので部屋にいても仕方なく、忍の病室がある8階の待合所のような日の当たる角スペース。その長いすで両の手で頬杖をつきつつ、むーんと何かを考えるように森さん。


「そろそろ話したいことが山盛り加減になってるんだけど」

「そういえば、情報リークされてたんですか。司さんがいないから聞いちゃいますけど」


基本、護所局とは関係ないはずの森さんが拠点(ベース)の位置を正しく知っていたとか時間的に、不知火の制止がなければとっくに合流していたことからいろんなことが漏れているのは、オレにもわかる。


「司がいないから答えちゃうけど、その通りだよ。内密にね」


相変わらずため息をつきつつ森さん。オレの方もため息をつきたい気分だ。


「そうだ、エシェルのことも司抜きで共有してたし、秋葉くんに聞いてもらおうか」

「いや、何の話ですか? それ、オレが聞いてどうにかなることなんですか」

「…………ならないけど、喉まで出かかってしょうがない」


まぁつかえているよりマシだろう。この様子だと司さんには話してないことのようにも思えるし。


「聞くだけでいいなら聞きますけど」

「そう? ありがと」


そういってようやく森さんは顔を上げた。敬語で話すことにもすっかり慣れていたが、なんとなくこうやって二人で並んでいると忍と話している時の感覚に似ている。


「実は、忍ちゃんが意識を浮上させてくれた時からね」


あっけらと森さんは言った。


「スサノオと少し会話できるようになったんだ」

「………………………………」


言われている意味が分からな……いや、わかるけど、わからない。どういうこと?


「会話って言っても自分の中でだけ、という感じかな。あの時、スサノオに『直接』声がかけられて、それ以来、たまにだけど会話ができるんだよね」

「……」

「秋葉くん?」

「えっと、それは森さんの中で意識を共有しているようなことがあるってことですか?」

「うん、そう」


あっさり。


「司には内緒だよー」


話せて少しは気が楽になったのか、笑顔。



随分軽く言ってくれるけど! それ、国家機密レベルの情報!!



スサノオとコンタクトできるようになったとか。しかも乗っ取られてた人が乗っ取ってた相手と会話してるとか。どんだけ水面下で何かが動きまくってるの!!


「内緒にしてない方がいいのでは」

「でもスサノオが……なんかやさぐれてて」


やさぐれたカミサマ。何か、怖い。


「今も凄い勢いで反論して来てるんだけど、表に出ないので私が流すとそれで終わってしまうという」


逆にカミサマ捌いてるよこの人。


「大体は静かなんだ。起きてるのかどうだかわからないくらい。でも今のはばっちり聞いてたみたいで、やさぐれ発言を撤回しろと」

「撤回したら静かになるんじゃないですか」

「そっか。ごめん、スサノオ。またあとで聞くから」


それだけ言うと、森さんは何事もなかったかのように会話を続けてきた。


「そんなわけで、同居人がひそかに一人増えてしまったことを司に言うわけにもいかず」

「……」


そんなペットが一匹増えました。内緒で飼ってます。みたいな口調で言われても。


「ほんとーーにオレが聞いてもどうしようもないことでしたね」

「そんなことない。何か楽になった。これで秋葉くんも一蓮托生」

「!?」


こういうところが忍と同じなんだよ。普段それほどやりとりがないから不意を突かれる感じだけど、大体その直後にそう思う羽目になる。

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