27.去り行く者
「はじめまして、日本のカミサマ。提案だけれどもそろそろその身体を解放してあげてはどうかな」
「はじめまして、だと? しらじらしい……俺とお前は前にも会ってる」
苦悶を浮かべたままのその声、口調はスサノオのものだ。さきほどオレが見たのは気のせいだったのだろうか。これだけの数の悪魔の力をくらって、まだスサノオはスサノオとしての自我を保っている。
「会っていたのは宿主の彼女の方だよ。この状況では、君があれだけの悪魔(スペシャリスト)の力に打ち勝つことはできないだろう。ただ状況を長くするより、諦めた方がお互いのためだと思うのだけれど」
「……」
「僕がここに立った意味がわからないほどの頭でもないんだろう」
「く……」
エシェル……ウリエルがそう言うと……
その瞳からすっと苛烈な色が引いた。
「森!」
森さんはわずかな間のあと、そのままふらりと前のめりに倒れこむ。
足元に倒れた森さんを、ウリエルは支えることもせずにただ、見下ろしていた。
司さんが駆け寄り、抱き起こす。朦朧としているのは誰の目から見ても明らかだったが、意識はある。口元がわずかに微笑んだ。
そのことに安堵するも、ようやく取り戻した意識で、森さんは微かに口を開いた。
「忍ちゃんは……?」
そちらを見る。
忍もまた、アスファルトの上に昏倒している。悪魔たちは送還されておらず、役目を終えた彼らはそれを取り巻いて見下ろしていた。
「忍……!」
「……大丈夫?」
見知ったその内の一人が近づいて声をかけている。オロバスさんだ。
「平、気。みんなありがと……送還、を」
とてもその余力があるとは思えない。けれど呼び出された悪魔の数は少なくない。このままにはしておけないだろう。
いつのまにかそちらに行っていたアスタロトさんがその様子を確認してから、忍の手から離れて落ちたデバイスを拾いあげる。
「ボクがやっておくよ。休んだ方がいい」
そういうとアスタロトさんは、忍がそうするのと同じようにそれを彼らに向けて片手で操作した。
「ご苦労さま」
一瞬だけ送還の魔法陣が現れて、ほぼ一斉に彼らは消えた。
「え……あれってアスタロトさんも使えるの?」
「元々召喚の技術はオレたちがもたらしたって前に言っただろ。契約者あるいは従える者は手順を踏めば呼び出せる。人間は足りないあれこれを補うために色々必要だが、指輪の契約者にとってはそんなに鬱陶しいものじゃない。……あいつがあれを使えるのは、おかしいけどな」
立て板に水、とばかりにダンタリオンが一気に説明しているが、長すぎて右から左に抜けそうだ。こいつも余裕そうに見えてもこちらの理解力を鑑みるほど、余力がないんだろう。さんざん戦闘に参加していたのだから、そこはいじらないでおく。
とりあえず、言いたいことは最後の一文だけに要約されそうだし。
「おかしくないよ。ボクはこのシステムの管理者(アドミニ)だからね」
アスタロトさんが忍を抱えて戻ってきた。
忍は意識を失ってしまっているようだ。
「お前が管理者権限持ってて、オレが持ってないのはおかしい」
「管理者は問題があった時のみ権限を使うもので、常に使いたがるのは権限の乱用。されても困るだろ? 忍とボク以外は使えないようにロックしてあるから安心してほしい」
巧みに論点をすり替えている。
「それで? 清明。あいつの処遇はどうするんだ」
森さんも忍も、疲弊しているが無事であること、そして今回の迎撃も成功したことから辺りは静かになっていた。
ただ、度重なる出来事にふたたび沈黙が流れている。
最終的には、天使としての本性を現したエシェルに視線が注がれたまま。
敵、ではないと成り行きから誰もが理解はしていた。
それが本当の理解かはわからない。疑念に近いものもあるだろう。
が、今、攻撃すべき相手でないことはわかる。
だから、その判断を全員が待っていた。この国を覆う結界は、天使たちが去るのを待ってすでに閉ざされている。
「今この状況で捕らえるのは無理と判断します。ウリエル、君は自らこの国に残り、いずれ君自身が捕らえらるだろう未来を覚悟している。だから……行くといい」
「……お言葉に甘えるとするよ」
それだけ言い残すとウリエルはその翼で、上空へ、ビルの向こうへと姿を消した。
多くの人間と、神魔の見上げるままに。
ーー大事なお知らせーー
せかぼく連載一周年。365日連続更新(短編・ラジオ込み)が完遂となりました。
ここから物語は「結」へ向かうこととなりますが、更新頻度は少しゆっくりしていきたいと思います。
いつまでも終わってほしくないような、完走し切りたいような、複雑な気分です。最後まで読んで初めて分かることもあると思うので、ここから先は気長にお付き合いいただければ幸いです。
なお、不足分のギャグ要素は短編、スピンオフにて公開していきます。
時系列不明の魔界編&短編集は「作者について」から作品集として閲覧可能です。
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