26.「悪魔」たち

「!!」


何が起こったというわけじゃない。

爆発も、衝撃も、攻撃らしい攻撃が放たれたわけじゃない。


けれど、耳をふさぎたくなるような感覚に陥る。

爆音がしているというわけでもないのに。


「っ!!」

「なんだ! これ!!?」


その声に顔を上げると霊装を受けているはずのゼロ世代ですらほぼ全員が、耳をふさいでいた。

頭の中がブレるような、空気が振動しているような。

神魔にはさほど大きな力ではないのか、それとも文字通り格の違いかダンタリオンもアスタロトさんも、人間ほどには苦しんでいないようだ。


けれど、それはやはりそれなりに強烈なのか片手で耳を抑え、あるいはわずかに顔をしかめている。


「共鳴反応(ハウリング)を起こしてしまっているね。秋葉も無理をしないで耳は塞いでおいた方がいい。物理的に空気が振動している」


感じているそれは、霊的なものではないようだった。

そして。


「う……ぐ…ぅ」


耳をふさぎながらオレは、スサノオの顔が歪むのを見た。


「これ、攻撃じゃなくてですか!?」

「違う。ツカサの妹の精神を増幅させているんだ。ここに呼ばれているのは少なからず人間の心に影響をもたらす力があるやつら」

「! スサノオを封じるんじゃなくて、森さんの意識を浮上させようってことか!」


あの悪魔たちの力はおそらく強くない。

悪魔の力は様々だ。むしろ戦う力そのものよりも知識や能力を授ける力を求めて召喚される存在が多いのだということは、何度も彼らにかかわるうちに知った。

そして、七十二柱には人間関係に影響をもたらす力を持つ者も多く、それはつまり、精神への干渉力の強さを示す。

それがこれだけ一堂に集まるということは……


「……侯爵クラスなら一人でも人間の感情を操作することは可能だ。スサノオが森を押さえつけている力がどれほど強いのかはわからないが……」

「普通に考えたら、彼は戦闘特化の神だというし、十分な緊急措置だろうね」


ターゲットにされたスサノオは頭を押さえながら、遂にがくりと膝をつく。司さんよりオレたちからの方が近い。その表情が苦悶しながらも明らかに一瞬、森さんのものに変わったのをオレは見る。


「悪魔歴は長いけど、こういう使い方は初めて見るね」

「感心してる場合かよ。第一、シノブはどうしてあれだけの数の召喚ができる。おかしいだろ」


ダンタリオンが言うのを聞いてオレは地面に転がったそれを見た。あの瓶、見覚えがある。アンダーヘブンズバーで、忍がマスターから手に入れていたものだ。

きっと、ふつうの何かじゃない。


「っ!」

「きっついな。清明! 結界張ってくれ!」


余波は周りの人間にも及んでいた。直接ではないにせよ、オレたちの方が限界とみてダンタリオンが清明さんに声をかける。清明さんはこちらを見たが、その時。


トン、とその間に降り立つ者がいた。


「ウリエル……っ!」


こんな時にとばかりにダンタリオンがその姿を睨めつける。その視線には構わずに、ウリエルは森さんの姿をしたそれに声をかけた。

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