22.滅すべき者
「例えば大蛇討伐。酒を飲ませたエピソードは有名。自分より大きな相手にただ斬りつければいいってわけじゃないことはわかってる」
好戦的なスサノオを見るが、確かに動きは直線的ではない。戦い方が性格を表すというなら、確かに力づく、というわけではないのだろう。
ミカエルの憤怒のような表情よりもダンタリオンや御岳さんに近い表情をしている。
「魔の者ども、コバエのごときうるささめ」
「そっちは神族だよ。あぁ、お前らにとっては異教の神もみんな悪魔だっけか?」
「我らをコバエ呼ばわりとは……身の程を知れ!」
神魔は退いていない。
炎の神アグニ神とダンタリオンが両サイドから豪炎を叩きこむ。が、さほど効いていないようだ。
「炎を司る私に炎とは……しかし、矮小とはいえ、その力はこの国の民がいる限り続く。人間を先んじて滅せよ」
ミカエルがそう言うと、残った天使たちが散り散りに撤退している特殊部隊、サポートの武装警察、そしてこちらめがけてつっこんできた。
「本音が出やがったな。この国を潰したいのは、神魔を滅したいことと同意かよ!」
ダンタリオンがそれより早く、拠点の前に来て一気にそれらを打ち払った。轟音、爆発、相変わらず演出が派手だ。
味方の起こしたそれらに大しては防護が甘いのか、強風程度には緩和されていたが爆風が、正面から吹き荒れて、全員が眼前を庇う。
「お、お前なー! やり方が派手なんだよ!」
「うるさい。これくらいやらないと懲りないんだ、あいつらは」
「全然懲りてない、前見ろ前!」
見ているがつい叫んでしまう。むしろ感情がないのかというくらいの勢いで、天使たちは怒涛のように押し寄せる。
再び炎が吹き荒れた。今度は横からだ。
「無事ですか、公爵」
「ん? アモンか。役不足だろうけどここ任せんぞ」
それは蛇の尾を持つ青いオオカミ。忍の呼びだしたアモン侯だ。炎の侯爵、の異名を持つ強者だった。
ダンタリオンはそれに意味があるのか地を蹴って、ふたたび前線に戻る。
「この国を潰したいのは、神魔を滅したいことと……なんだって?」
「たぶん、信仰の問題じゃないかな。信者が潰えた神も潰える。諸外国で神様の勢力が落ちているのはそういうこと」
「それと日本を潰すことと何の関係が……」
「それはね、この国で顕在化したためにこの国の人間がはっきりと、彼らの存在を肯定するようになったからだよ」
どこにいたのか、アスタロトさんが再び姿を現した。
「この国の人間が……?」
「信仰、それは崇め敬うことばかりじゃない。この国の人間は常にそうして神魔に寄り添ってきた。自分たちではそうとは気づかずにね」
つまり、存在の肯定。それが神様たちの存在を存続させてるってことか。
呟くと、頷いて返される。
「皮肉にも、この国に集うことで神々は自国の民が滅びても存続が可能になった。ちなみにボクら魔族は天使が存在する限り、必ず存在を続ける。すごい皮肉だろ?」
いつもの笑みを細く浮かべるアスタロトさん。天界と魔界。それは対をなす存在。だから、信仰の有無は関係ないということだ。
世界の仕組みが、次元が違いすぎてもうよくわからない。
「それより、戦況がまた動く。どうやら、この勝負は押し返して終わりそうだ」
そして、見上げた。
どう見ても五分、人間だけ見れば大きな痛手を受けている。大挙する天使はそれは最後の大津波のようにも見えたが、ミカエルと神魔の戦いは続いている。
周りのビルを廃墟に変えながら。
その、近い場所にスサノオが降り立った。それから、本須賀が。
「……本須賀……?」
「彼女は、面白いことを考えたようだね」
アスタロトさんはそういって、それを見守るように言う。
本須賀の無線、だろう。それを通して、あるいは肉声も聞こえる距離なので会話が届いてくる。
「スサノオ、もうわかるでしょう? その身体では、役不足」
その言葉に、ぎょっとする。何をしようとしているのかはわからない。わからないけれど、嫌な予感しかしない。天使を退けたゼロ世代の何人かが、スサノオの動きを追って、そちらへ移動する。
「本須賀ぁ! てめーなにしてんだ!」
初めから近くにいた御岳さんの叫ぶ声が大きく聞こえた。
「こっちに来なさい」
「なに……?」
嫌な予感。それは取り越し苦労だったのだろうか。本須賀の異様に静かな声が告げる。
「お前、まさか初めからそのつもりで……」
足を少し引きずりながらビルの外壁沿いに降りてきた御岳さんがそれを聞いて、すぐその上方で愕然とそれを見下ろした。
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