19.陣形崩壊
が、どうも様子がおかしい。不知火はついている。しかし、森が拠点(ベース)に向かおうとしているのを、不知火は邪魔しているようだ。
無論、危険からも守ってはいるのだろうが……
「不知火、どうしたんだ?」
「単純に、現場に来させるなって司くんから言われてるんでしょう。森ちゃんが譲らない」
「さすが親友だ。よくわかっているね」
アスタロトさんにはさっきから見えていたのだろう。その様子をもう理解していたようだ。
「そうか、スサノオか……」
「あの力があれば確かにミカエルを退けるには有力だ。が、彼女がもう一度戻ってこられるかは……怪しいんだろうね」
もしも絶対的にその力が必要で、制御が可能ならすでに森さんは、戦力としてここに一緒に来ていたはずだ。
様子を見て、だとしても同じこと。
初めからいなかったということは、様々な面で様々な人にリスクが伴うからだろう。それがわかっているから、アスタロトさんは早計に動かない。
「戻ってこられないって……」
「決定事項ではないよ。ただ、今は荒神に対する生贄のような存在だ。どうする?」
その時、聞き覚えのある悲鳴が上がった。悲鳴、といっても恐怖にまみれているわけではなく、苦痛の声だ。
特殊部隊の陣形が、崩れ始めていた。
「くそぉぉぉぉ!!!」
「!」
そんな叫びとともに高所から落下したのは、御岳さんだった。白いコートが赤く染まっている。肩を抑えたまま、アスファルトにたたきつけられた時には土煙が上がっていて、受け身を取れたのかも見えなかった。
「やっぱり、厳しかった、か」
「……私が誰かを喚べば、形勢は逆転すると思いますか?」
忍が不自然すぎるくらい冷静に聞いた。
「喚べるのはせいぜいあと一人か二人。それ以上は君が壊れる。切り札にとっておくつもりなら勧めない」
「切り札……ということは今はその時じゃない、ということですね」
「残念だけど、それはボクにもわからないよ」
七十二柱の能力は様々だ。最初に喚び出したのは以前も召喚した戦闘能力の高いアモン侯たち。しかし、使いようによっては戦闘能力者ではない力が必要になるかもしれない。
「喚ぶとしたらバティムさんだ」
「バティムさん……ってあのバティムさん?」
アシェラト様の庭をこよなく愛する、愛想のいいエプロン姿の魔界の公爵。
……やばい。そんな表現しか出てこない。
「バティムさんは瞬間移動の力を持ってる。もちろん戦闘能力も高いとは思うんだけど、死者は出さずに済むかもしれない」
「救援に回ってもらうってことか」
「単純に戦闘能力だけならパイモンさんとベレト様もあり。だけど、力押しではまずい気がする」
忍が次の召喚を考え始めている。この状況では、もう後がないと言われるまでそんなに時間はなさそうだ。
次々と、ケガ人が出始めていた。
「森さんは?」
「……アスタロトさん、不知火を振り切って拠点まで連れて行ってあげられますか」
「もちろん」
制約はかかったままだが、霊獣である不知火を捲く算段はあるようだ。不知火もおそらく相当な脚を持っているのは、前回の襲来で目にしている。
けれど、忍はそう判断づけている。
「いいのか?」
「森ちゃんがそれを望んでいるなら、そっちが第一優先。秋葉、局長に連絡とってくれる?」
と無線を放ってよこされた。オレも一応、連れてこられた時点で持たされたが、それとは違うタイプのだ。
「チャンネルは8、局長直通。十握剣(とつかのつるぎ)がどこにあるのか聞いて」
言われた通り連絡を取る。忍はどういうわけか、アスタロトさんと一緒に森さんの方へ行ってしまった。
現在地は瓦礫の上。アスタロトさんがいたからそこから戦況を見ていたが、一人になったので瓦礫の影に身を隠しながら聞く。
すぐに忍は戻ってきた。不知火と。
アスタロトさんは直で拠点の方に行ったらしい。
「え、どういうこと?」
「説得した」
不知火をか。本当にどういうことだ。
しかしそれを今聞いても仕方なさそうなので、こちらの情報を伝えた。
「森さんのことは本部了解。でも十握剣なんだけどな、司さんが今使ってるって」
「……使ってるって言うか、管理してるが正しいんだろうけど、厄介だな……」
忍の口から司さんに対して厄介だなどという言葉が口に出る日が来るとは思わなかった。いつものそれと違って、表情まで眉を寄せて困った、という感じになっている。
とにかく。そういうと、不知火に乗るように続ける。
「そうだな、このままだとオレたちここから動けなくなるだけだもんな」
説明されるまでもなく、その意味は理解できた。とはいえ「乗る」という行為は難易度が高い。ハーネスがあるわけでも鞍があるわけでもないのだから。
「ちょ、アトラクション!?」
「しっかり掴まってないと落ちますよ」
「なんで敬語だよ!」
「不知火、安全運行でお願いします」
一気に瓦礫から飛び降りたので、それだけでもう振り落とされたらヤバそうだったが地面に降りるとスピードはあるのに意外と動きが安定している。
死ぬ気で捕まっているとあっというまに拠点に戻れた。
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