15.一斉交戦
最上層で補足した天使たちもすべて駆逐できたわけではない。残ったものは残光とともに消えた荒々しい光の檻を脱出して、下降してきている。
戦術まで知らされていたわけではないが、忍は召喚者として参戦組になってしまっているので、差支えのない範囲で話は聞いていた。
ミカエルが中層域にいるため、前線はいつもより低い位置にある。
上空から順に網をかけ、ダンタリオンの言っていた「雑草」を一斉に駆除する。最下層に危険が及ぶ可能性も多いが、一番の脅威はミカエルであると推測されるため、数で邪魔をされることを避けなければならなかった。
術師も今まで参戦はしていたが、要石のことがあったため戦力は分散していた。そういった意味で今日は総力戦なのだ。直接の戦闘向きでない神魔が集っていた理由もそこにあった。
「秋葉、下がろう。私も役は一旦終わりだ」
戦闘特化の悪魔を二体と、ダンタリオンに転移召喚をかけた忍がそう声をかけてくる。
オレは言われた通り、情報部がベースにしている位置まで和さんたちと一緒に下がる。
そこは数多の結界や神魔に守られてはいたが、中層で戦闘が始まると攻撃がアスファルトに届くたびに大きく揺れた。
「和さんどうですか、勝算は」
「忍ちゃん、局長って言ってくれないかねぇ、おぢさん、一応今日の総指揮官だから」
自分でおぢさんとか言ってる辺りもう、肩書で読んでも手遅れ感はある。
「じゃあ、局長。勝算は」
忍はあっさり言い直した。こういうところが凄いと思うが、割と消耗しているのか、歩道と車道を分ける柵に身体を預けている。
「悪くはねぇよ? あのミカエルってやつがどれくらい本気かまだ分からんけど」
「どの道、勝算が尽きた時点で終わりだろ。忍、それ今聞くことか?」
オレがそう言うと、なぜか和さんと忍が無言でこちらに視線を向けてきた。
「……秋葉にすごく正論を説かれた」
「そうだな、その通りだから本気出してるわけだし、つべこべ言わないでやるしかねぇってことだな」
いや、そんなに漢らしいこと言ったわけじゃないですけど。
条例違反で路上の現在、煙草をふかし始める和さん。落ち着いてる場合ではない。
「っ!!」
ドォン!と言う音を皮切りにビルが倒れてきた。倒れたのは広い通りのど真ん中で振動と飛散する瓦礫でもう大変なことになる。
「ほらぁ! 慣れちゃダメだけど予想通りだよ!」
「今のはミカエルだよ! 攻撃力半端ない!」
叫んでいるのは、ビビっているというより轟音の中でそれだけのボリュームでないと話せないから。
ベースは車両の中に作られているため、可能な範囲で安全圏まで退避を始める。
「やっぱり前線が近すぎたねぇ」
「数はイーブンだから、ミカエル以外をうまく抑えれば、という感じですか」
ミカエルの攻撃範囲は広い。持てる剣を一薙ぎされただけで、周辺のビルは刃の跡を真横に刻まれている。
「あれが縦にここに直撃したら……ヤバいのでは」
「私もそう思う」
でも。と忍はつづけた。
「天使って、すごい自信家なんだよね。カミサマを絶対的に信奉しているせいなんだろうけど……そういうのはつけ入る隙だ」
「お前まさか、あのミカエルとかいうのに何かするつもりじゃ」
「ここにいたら無理かな。そういうのは公爵が煽ってくれそうだし」
つけ入る隙。そうか、さっきも何だかんだでここまで降りてきたし、話も聞いていた。
それをするのは「絶対的な自信」があるからで。
……それがなければ、反撃を警戒されているならば、先手を食らっていただろう。
絶対的な自信。そこから切り崩す。
オレには無理だ。
「……忍がいない」
「忍ちゃんなら、左手のビルに入っていったなぁ。おぢさん、止める暇ないから秋葉行ってくれる?」
なんでオレがぁぁぁぁぁぁ!
ちょっと目を離した隙に何しとるんじゃ!
左手のビル。大手チェーンの高級デパートだ。中層くらいにミカエルのつけた斬跡が残っているが、建物がしっかりしていたためか、攻撃対象の端だったためか揺らぐ心配はなさそうだ、が。
「忍! どこ行った!」
半ばやけっぱちでデパートに駆け込む。無人で普段のひと気が消えてしまっているのが少し不気味だが、おかげで響く足音は聞こえてきた。
「忍、待てって!」
連絡通路の方だ。拠点から前方に向かって移動するつもりか。……前方。つまり、戦場に近い方。
ダメ、絶対。
追いつくかわからないが追うしかない。しかし、割とすぐに追いついた。
交戦による振動が、強くなっている。
忍は建物の中から、うかがえる範囲でそれを見上げる。……見上げる。
そう、そこは半空中戦となっている戦場の真下だった。
「忍! どういうつもりだ!」
「秋葉、何で来たの?」
「局長命令だよ!」
「局長はなんて?」
伺いながら聞き返してきた。
……行ってくれる? と言われただけで、他に何も言われていないーーーー……
「追え、だけか。和さんらしい」
「どうするんだよ。いくらなんでも近すぎて危ない」
「しかし、いい見学場所を見つけたね」
……。
そして増える。傍観者。
「アスタロトさん……」
いつのまにか隣に並んで戦況を見上げていたのはアスタロトさんだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます